シリコンバレー発日本起業家が立ち上げた次世代社員旅行

 コロナ禍を経て、オフィスのあり方は大きく変わった。リモートワークが一般的になり、オフィスをなくした企業がある一方で、週数回の出勤を義務付けるなど、オフィス回帰の動きも高まっている。働く場所の見直しが進む中、「オフィス2.0」を打ち出したのがシリコンバレーで起業したスタートアップ「Retreat」だ。

Retreatの多国籍なメンバー。右端がRetreat CEOの山田俊輔氏
Retreatの多国籍なメンバー。右端がRetreat CEOの山田俊輔氏

 オフィス2.0を謳うスタートアップと聞くと、シェアオフィスやコワーキングスペースサービスを扱っているように感じるかもしれないが、Retreatが手掛けているのは「オフサイト」、いわゆる社員旅行だ。

 「コロナ禍を経て、リモートワークは一般的になったが、顔をあわせず働く中で『人間関係を築くのが難しい』『距離感がわからない』といった声を聞くようになった。オフィス勤務に戻らないとしても、働く人同士が顔を合わせる機会を作りたいと思ったのがRetreatをスタートしたきっかけ」とRetreat CEOの山田俊輔氏はサービス立ち上げ時を振り返る。

 山田氏はソフトバンクに勤めた後、シリコンバレーで起業。「渡米した当時は、Airbnbなどユニコーン企業がいくつも登場していたが、日本人の創業者は誰もいなかった。米国でユニコーン企業を作る、それはすごくやる価値のあることだと思った」(山田氏)とシリコンバレーで起業した理由を話す。

 Retreatは、コロナ禍でオンライン会議の需要が高まったことを受け、ワンクリックでオンライン会議ができるサービスが前身になっている。「フリーランスで始めたサービスだったが、最終的には会社を設立し、資金調達もできた。しかしコロナ後に需要に一段落してしまい、ピボットして生まれたのがRetreat」(山田氏)と以前のサービスで集まった、顔を直接合わせていない人同士では働きづらいというユーザーの声を新サービスへと結びつけた。

 「コロナ禍を経て米国で大きく変わったのが人材採用。リモートで働けることで、一気にグローバル化が進んだ。そのため住んでいる場所がバラバラで、オフィスを撤退した会社ではみんなで集まれる場所もない。オフィスはないけれど、みんなで集まる機会が欲しいという思いからオフサイトの需要が高まった」(山田氏)とRetreatはコロナ後の企業のニーズをがっちりと掴む。

 オフサイト=社員旅行と聞くと、一泊二日の温泉旅行的なものを思い浮かべてしまいそうだが、Retreatが提供するオフサイトは内容が全く異なる。「期間は1週間程度。ハイキングやクルージングなど人気のアクティビティはもちろん、グループごとに分かれ、訪れた街を体験したり、ボランティアや自転車を作って寄付したり、と数多くのイベントを用意している。これが功を奏してか、社員の参加率は80%程度」(山田氏)と高い参加率を維持する。

クルージングなど人気のアクティビティを用意する
クルージングなど人気のアクティビティを用意する
オフサイトでのアクティビティ。自転車を作って寄付するなどボランティア要素の高いものも取り上げているという
オフサイトでのアクティビティ。自転車を作って寄付するなどボランティア要素の高いものも取り上げているという

 参加したくなるようなイベントを用意したり、世界に点在するスタッフが集まりやすい場所を探すなど、プランニングの部分は独自のソフトウェアで補っているとのこと。テクノロジーを駆使する一方で「ツアーには添乗員が同行し、エンドツーエンドで全部やりますという面倒見の良さが強み」(山田氏)と人手もかける。

 現在ヘッドオフィスには8人のメンバーが在籍し、世界各地にエンジニアや添乗員となるスタッフなどを抱える。山田氏とともに事業を伸ばしてきたCOO Jack Sekiguchi氏は、ソフトバンク時代の元上司という間柄。「元上司がビジネスパートナーになるという、当時では考えられなかったことだが、本当に信頼ができる人物に巡り会えた。そのほかのスタッフは現地で採用した」と独自のチーム体制を築く。

 日本円で約2億円の資金調達も実施しており、三井住友海上キャピタル、MIRAISEなどのほか、UberやRobinhoodの初期投資家として知られるJason Calacanis氏、水嶋ヒロ氏、太田雄貴氏といったエンジェル投資家も名を連ねる。

 順調に事業を拡大しているように見える山田氏だが「起業してからずっと大変な状態が続いている。一番きつかったのは、前回の事業で売上の数字が下がり、チームを解散したとき。周りに起業家の人に相談したりしながらその時期を乗り切った。Retreatはそんな時に一人で始めたビジネス。私自身エンジニアなため、ソフトウェアを作る一方でホテルの予約をしたりと慣れない仕事もやってきた。今はチームで、それぞれの得意分野をいかしながら仕事をしてもらっている」(山田氏)と現状を話す。

 50人程度のスタートアップをターゲットに据えるRetreatだが、特に力を入れているのが宿泊先となるホテル探しだ。「必ず現地に足を運び、どのホテルがいいかを見定めている。ポイントはきちんとしたミーティングルームがあり、価格が手頃なこと。それぞれのホテルと密に連携することで、ホテルへの送客ができる。そうした関係性を築ければ、同様のオフサイトサービスを手掛ける競合に対し強みになる」(山田氏)と重要性を説く。

 こうした関係はオフサイトで訪れる地域とも築く。「今推しているのはメキシコ。気候が良く、欧州からも米国からも訪れやすい。今後、交通の整備やWi-Fiの設置などテコ入れすればよりいきやすい場所になると思っている」(山田氏)と地域の整備も視野に入れる。

 山田氏は「2〜3年後にはユニコーン企業を目指したい。今は少しダウンタイムになっているが、2024年には不景気も落ち着き、オフサイトがより一般的になってくると思う。競合が多い事業だが、今後数年で勝者が決まってくるはず。その中でRetreatが一番を狙っていきたい」とした。

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