はじめまして。ディー・エヌ・エー(DeNA)技術統括部技術開発室の緒方と申します。昨今、Web3やメタバース、NFTというキーワードがバズワードとなっているように感じます。海外のNFTが1枚何億円だ!というような盛り上がりなどから、なんとなく、投機っぽいイメージだったり、マネーゲームのようなイメージの方もいらっしゃるのではないかと思います。DeNAではいくつかのNFTアプリケーションを運用していますが、お客様の楽しみという部分にフォーカスして開発を行っております。
今回はそのような観点から、「Web3、分散化技術が導くデジタルのすこし先の未来」というテーマで、Web3やブロックチェーンというテクノロジーを通じて、私達のちょっと先の未来がどのように変わっていくのかについて書いてみたいと思います。
Web3というキーワードが注目されています。政府が6月に策定した経済財政運営の指針「骨太の方針」で、次世代型インターネットWeb3の推進に向けた動きを盛り込むことなどが発表されるなど、我々IT企業だけではなく、政府なども参入する大きな動きに繋がっています。
このような背景としては、アメリカのバイデン大統領が3月にデジタルドルなどを含むデジタル資産の研究開発の加速を命じる大統領令に署名したほか、イギリスも4月にステーブルコインによる決済サービスなどに関連する計画を発表するなど、新たなデジタル経済圏の覇権をめぐり、国際競争が広がっていることがあげられます。私自身、2016年後半から、ブロックチェーン技術のR&Dを行っていますが、このようなテクノロジーはこれまで、知る人ぞ知るというイメージがありました。それどころか、ビットコインなどはランサムウェアの支払いにも要求される事例があったり、ICOと呼ばれるプロジェクトには詐欺などもあったことから、IT企業である我々の社内でも、ブロックチェーン技術に対するさまざまな意見は少なからずありました。
そのような状況で一気に、Web3というキーワードが加速したことで、多くの人は、Web3やブロックチェーンという技術が一体なんなのか、どんなテクノロジーで使われているのか、さまざまな疑問があると思います。しかしながら、かつてのビットコインのようにさまざまな間違ったイメージによって、誤解が生まれ、本来の正しいパフォーマンスが発揮されないのは、非常にもったいないと思います。エンジニアとして、20年近く、インターネット技術に関わってきた私自身は、Web3は大きく世界を変える非常に重要なテクノロジーであると感じています。
Web3や、ブロックチェーン技術が導くデジタルの未来は、これまでの情報の民主化をつくりだしたインターネットに対して、「価値の民主化」というコンセプトを成功に導く希望の光でもあり、これまでのWebに足りなかった最後のプロトコルのピースが埋まったという表現もされるほど、大きなパラダイムシフトになっています。そのような中で、我々は技術を学び、正しい知識をもって、新しいサービスを世に生み出すことが必要です。
Web3を語る上で避けては通れないのが、Webの歴史的な背景の説明やコンセプトについてですが、私のお勧めはWorldWideWebの発明者であるTimBernersLee氏による「ティム・バーナーズ=リーが示す次のウェブ」というTEDの講演です。
TimBernersLee氏はSolidと言われる新たな分散IDプラットフォームを立ち上げていますが、それ以外にも、Appleの共同創設者であるSteve Wozniak氏はビットコインの支持者であることで知られていたり、Javascriptの生みの親でMozilla創業者のBrendan Eich氏はWeb3ブラウザBraveに関わっていたりと、Web1.0に活躍していた多くの人たちの名前が多く見られるという点では、Web3がいかに注目されているかを物語っています。
TEDの序盤に語られているように彼が作ったWorldWideWebの世界は、元々は研究者同士の効率的な情報共有が目的だったそうです。しかしながら、テクノロジーの限界もあり、Web1.0では書き手から読み手への一方向のコミュニケーションしかできず、Web2.0ではSNSなどの登場によって双方向のコミュニケーションが可能にはなったものの、データは企業の中にサイロ化されてしまい、新たな問題が生まれ、結果としてブロックチェーン、分散化技術が注目されるようになった……と、ここまでが、よく語られているWebの歴史になります。こういった構図は、GAFAを敵対するような話題であったり、スノーデンなどにおける監視社会に対する話題であったりと、解釈や説明はいろいろあるのですが、私個人としての解釈としては、共存や共生のための新たな試みという風に受け取っています。
コロナ禍の中で、デジタル担当大臣のオードリー・タン氏は、台湾でマスクマップを開発したことで注目を集めました。この試みは、ブロックチェーンの事例ではないのですが、マスクの流通・在庫データを一般公開することで、シビックハッカーなどが自発的に協力し、さまざまなアプリケーションからリアルタイムでわかる地図アプリが次々に開発されたという事例です。
もともと、私達エンジニアはLinux Foundationなどをはじめとするオープンソースの文化が浸透していて、さまざまなソフトを誰でも自由に使用・修正・頒布できることによって、新たな仕組みを自分で作り出すことができます。これは元々、アメリカのプログラマであるEric Raymond氏が提唱した「リーナスの法則」(Given enough eyeballs, all bugs are shallow-目玉の数が十分あれば、どんなバグも深刻ではない)という主張が基となっています。とはいえ、企業間において、すべての成果物をこのような考えのもとで運用することは難しく、競争の中において、ある程度の囲い込みというのは起きてしまうことがあるのは事実です。多くのシステムはベンダーロックインともいいますが、データが囲われた状態で、他社のシステムから柔軟に扱うことは難しい状態になっています。
しかしながら、コロナという人類がかつて経験したことのないような大きな課題が現れ、企業やグループという枠をこえて、協力し合う必要がでてきたときに、さまざまなデータの流れや情報を無償で開放し、いろいろな分野の人たちに協力を仰ぎ、相互に協力する必要がでてきました。もちろんコロナだけではなく、戦争、貧困、環境問題などさまざまな大きな課題が起きている現代、我々にとって必要なことは、経済活動と同時に、我々が大きな協調体として、それらの課題を皆で解決することです。私には、Web3や分散化という仕組みは、データを根本からさまざまな人たちの公共財であることを前提として蓄積する仕組みによって、人類が協力しあう希望の技術であるように思えます。
私はエンジニアという職業ですので、なんでもまずは頭で理解する前に、自分で触ってみることを大切にしています。野球を学ぶには、バットを振ることなしに語れないことや、コンピューターを学ぶのには、図書館で本を借りるよりも、コンピューターを触ることがよいように、Web3もまた、体験することがこの上なく非常に重要だと思います。例えば、暗号資産を持っている事や取引することでも良いですし、VRなどの技術に触れたことがあるということでもよいかもしれません。
5月末に自民党の青年局で行われた研修会では「岸田総理トークン」が配布されたとニュースで報じられました。色々な意見や課題などもあると思いますが、新しい技術に触れてみること、体験してみることは大切だと思います。このようなNFTというコンテンツはとても身近にWeb3を身近に感じられるコンテンツでもあり、本で読むよりは手に持ってみることが理解への近道だと思います。最近ではNFTを、暗号資産経由ではなく、クレジットカードなどから直接購入ができるようになっていたりと以前に比べると簡単に触れられるようになっていると感じます。
弊社が運用しているNFTコレクションは、LINEBlockchainを通じてエアドロップライクな仕組みを通じて無償で受け取ることができるのでNFTを体験したい初学者の方には最適なコンテンツかもしれません、ぜひ体験してみてください。8月から、MetaQuest2が値上がりしてしまいましたが、ゲームが好きな人は、Web3、メタバースを理解するために、人気のBeat Saberなどのゲームを試してみることも良いかもしれません。ともかくどんな入り口でも百聞は一見にしかずといいますが、触ることはこれからのインターネットのイノベーションには非常に重要な観点だと思います。
インターネットの世界はエンジニア出身の経営者が増えている現状がありますが、特にWeb3の業界ではそれが非常に顕著に思えます。その理由として、プログラミングができるという点も大事かもしれませんが、それだけではなく、エンジニアといわれる人の多くは新しい技術やモノに対して好奇心旺盛で、他人のレビューなどは気にせずいろいろなものをまず自分で触って試すことが好きな人が多いような気がします。DeNAで、私の席の横に座っている人たちも、旅行や食べることが大好きで、いつもTwitterには楽しそうな写真が上がっています。時には変なガジェットを買って身につけている様子もありますが、そんな人たちが新しい時代をつくっているのかもしれません。
私自身、2016年の後半から、ブロックチェーン技術のR&Dを行っていますが、ブロックチェーンというテクノロジーはAIなどと同様にして、ビジネスと、テクノロジーがタッグを組み、一緒に促進していく必要がある分野であると改めて思います。ビジネスリードでは、テクノロジーの本質を無視した設計で、本来の旨味が見出せない可能性があります。逆に、テクノロジーリードが過ぎると、市場のニーズを無視した不要なプロダクトを生み出してしまう危険性があります。近年では自動運転などの技術にみられるように、ハードウェアや、ソフトウェアに加えて、サービス設計や法律などさまざまな要素が絡むプロダクトが増えてきたように思います。
もちろんDeNAでも職業的な役割分担として、プロダクトオーナーやプランナー、エンジニア、デザイナーという役割は存在していますが、最近の新しい分野のプロジェクトではこれらの境目が徐々に薄れているような気がしています。先端技術などをテーマとした開発の場合には、少なくとも2つ以上の要素のプロフェッショナルであることが望ましいかもしれません。ブロックチェーンも分散台帳というデータベースの仕組みであるために、それ単体ではなしえません。さまざまな業界の商習慣や知識とセットで、その業界に合った最適な方法を提案する必要があるため、私自身システム開発の勉強と共に、いろいろな専門分野について学ぶ機会が増えてきましたが、複数種類の技術や知識を総合的に得た上で、俯瞰してみることは非常に重要だと思います。
さて、今回は、Web3とは何かという基礎的な部分についてお話をしましたが、次回からは少し事例などを交えて、具体的なお話をしていきたいと思います。
緒方文俊
株式会社ディー・エヌ・エー 技術統括部技術開発室
2012年から株式会社ディー・エヌ・エーでMobageのシステム開発、リアルタイムHTML5ゲームタイトル開発、Cocos2d-xやUnityによる新規ゲームタイトル開発、ゲーム実況動画配信アプリの開発などサーバーサイドからクライアントまで幅広くエンジニアとして経験。2017年、フィンテック関連の事業開発をきっかけにブロックチェーンによるシステム開発をスタート。現在は、同社の技術開発室で、ブロックチェーン技術に関する研究開発、個人として外部顧問などの活動を行いながら、エンジニア目線での、日本におけるWeb3やブロックチェーン技術の普及・促進活動を行っている。「エンジニアがみるブロックチェーンの分散化と自動化の未来」を定期的に執筆中。
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