――現場の方の反発などはなかったのでしょうか。
平島氏:最初はやはりありましたね。日報を手書きで残すのは、慣習として根付いていたので、ここに書き込むことに達成感があると。その仕事がなくなることに抵抗を感じる人は多かったと思います。
鳥山氏:現場のスタッフからしてみれば「AIって何」というレベルですし、現状何も困っていないところを変えるわけですから、やはり反発もありましたよね。ましてタイルの製造は職人技ですから、変に危機感を煽ってしまう懸念もありました。そうした不安を払拭できるよう、きちんとアドバイスをもらい、それがちゃんとAIに反映されていることを示しました。
それを繰り返すことで、現場のスタッフにとっては興味が持てなかったAIに少しずつ興味をもってもらえたように思います。DXチームのメンバーと現場のスタッフの熱量の共有が重要でしたね。
――データを取得するために、現場に新たな装置などは導入されたのですか。
平島氏:実は元々現場にはセンサーがついていて、センサーが取得したデータをスタッフが紙に転記していたのです。ですから、そのセンサーをそのまま使用して、データをサーバに残して、見える化するという工程を加えるだけで、システムを構築できました。そのため、移行期間も3カ月程度で済みました。
――日報をきちんと記録していたり、センサーを導入していたりと、デジタル化できる要素は整っていたのですね。AIを導入して変わった部分はどこでしょう。
鳥山氏:タイルの製造では、色をあわせるため事前試験の時間が必要で、そこに3時間程度かかっていたのが現状です。今回、AIを導入することで、1枚目から色調の合ったタイルを製造できるようになりました。現在は試験時間をそのまま生産時間に当てられるため生産性がアップしましたし、試験分の製造も必要なくなったため、計画通りの生産が可能となっています
平島氏:また、タイルは複雑な柄が多く、品質を確認するにはどうしても人の目に頼るしかありませんでした。色に関しては数値化できるのですが、複数の色が混ざり合ってできる絵柄は数値化する技術がなかった。同じタイルの柄でも正面から見たものと、斜めから見たものでは見え方が異なりますよね。同様に光の当たり方でも見え方が違う。これは人間の目が複雑なものを見られるために認識できることであって、機械に置き換えられなかった部分です。
今回この色調判定の部分を高次元色調空間で数値化し、AIに学習させ、目視検査を数値化しました。効果検証として、目視との一致度を測定したのですが、100%の結果が出ています。これにより、検査員として割いていた人手をなくすことができ、別の作業に集中してもらうことに成功しています。
――技術の伝承であればスマートグラスなどの活用も聞きますが、AIを採用した理由は。
鳥山氏:今回重要だったのは、勘に頼っていた窯の火の調整などをきちんと数式になおして、恒久的な設備として落とし込んでいくことです。焼き物をつくる上で必要だった経験と勘を落とし込めるのはAIだったということですね。
――当たり前とされてきたタイルの色調のばらつきをAIで統一することに成功しました。今後も現場のDXを推進されていくのでしょうか。
鳥山氏:きっかけはできたと思っています。次にやっていきたいのは、デザインの部分。タイルは大量生産かつ多品種が望まれている。ベースとなる部分は大量生産しつつ、デザインの部分は小ロットでたくさん作れることが理想です。これを安定した品質で生産する仕組みを構築していきたいと思っています。
――DXチームが現場にDXを取り入れるのは今回が初めてと聞きました。実際やってみて感じたことは。
平島氏:意外とできるものだなと(笑)。一つ一つの取り組みは小さくても、積み上げて実現できたものは大きかったなと思いました。
鳥山氏:正直なことを言ってしまうと焼き物は伝統的な産業であって、これからさらに大きく伸びるかといったらそうではないですよね。ただ、先端技術を組み合わせることで、まだまだ住宅やビルなど耐久性と上質感を必要とする建築物に入っていける余地はある。TOTOが長く取り組んできた伝統的なタイル産業に光触媒やAIをかけ合わせることで、タイル業界の当たり前を変えられたように、焼き物の新たな価値を提供し、日本の住宅の価値、建築の価値の向上に貢献していきたいと思っています。
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