ソニーグループとエムスリーは、テクノロジーと医療分野の知見を融合したソリューション事業を行う「サプリム」を設立したと発表した。
デジタル技術を活用して病気の治療を行うデジタル治療(DTx=デジタルセラピューティクス)に取り組み、具体的には、在宅でのリハビリ支援を行う身体機能改善事業、高齢期の虚弱(フレイル)予防事業、IoTを用いた医療センシング事業を展開していくという。
サプリムの社長に就任する山根有紀子氏は、「DTx市場は、全世界で3兆円の規模になると見込まれている。ソニーグループが持つコンシューマテクノロジー技術、エンタテインメントノウハウと、エムスリーが持つ医療領域での多様な事業経験、医療関係者とのネットワークを活用する。ソニーが持つクリエイティビティと先進技術を、エムスリーのプラットフォームを通じて、メディカル、ヘルスケアに適用し、課題解決を目指す。クリエイティブな発想と先進技術で健康で楽しく暮らす人を1人でも増やしたい」と、新会社の狙いを示した。
サプリムの社名は、社会(Social)課題を解決(Solution)する技術を、医療(Medical)分野に応用(apply)する意味を込め、S+apply+Mとし、そこからSapplyM としたことが由来であるとした。
資本金は5億円。エムスリーが51%、ソニーグループが49%を出資する。「マーケットドリブンの会社にするという狙いから、エムスリーが過半を出資した」(サプリムの山根社長)という。山根氏はエムスリー出身で、副社長に就く上木建一郎氏はソニーグループ出身だ。事業規模や売上目標については明らかにしなかった。
サプリム 取締役副社長の上木健一郎氏は、「サプリムでは、患者の目線に立ち、想像力豊かな発想でクリエイティブに課題を解いていく『Patient Centricity』、技術だけではなく、医療専門家のノウハウに基づくソリューションづくりにこだわる『Technology & Evidence』、医療機関、行政、医薬・保険などの医療関連企業や、ソフトウェア開発企業などとの連携による『Platform』によって、事業を推進していくことになる」とした。
身体機能改善事業として、在宅リハビリ支援サービスのリハカツの提供を開始するほか、医療センシング事業では、ウェアラブルデバイスを活用した在宅での治療・モニタリングプログラムを開発中だとした。
「心拍や活動データを在宅で計測し、これを医療従事者と共有することで健康管理や運動支援を行う心臓リハビリサービスを開発する。今後、糖尿病や疼痛管理にも展開する」という。医療センシング事業におけるアプリ開発などでは他社との協業も行っていく予定だという。
さらに、「睡眠時無呼吸に関する事業などにも展開していく」と述べ、「睡眠ポリグラフ検査を実施しているのは、潜在患者のわずか2%に留まっている。ソニーが時計型ウェアラブルデバイスを専用に開発し、バイタルデータを取得し、新たなアルゴリズムで分析することで、様々な測定が可能になる。近日中に詳細を発表できる」とした。
フレイル予防事業では、歩行に着目して独自のアルゴリズムを開発して、オンライントレーニングを提供。他社が利用できる身体機能改善プラットフォームとして展開していく考えも示した。
上木氏は、「高齢化が進み、病院中心の医療から、地域連携や在宅を中心とした医療に移行するなかで、デジタルの医療応用が進んでいる。また、薬による治療だけでなく、デジタル技術やデジタルデバイスを活用したDTxが注目を集めており、日本でも薬事承認や保険償還の動きがある。さらに、病を抱えた上で幸福であることを目指すウェルビーイングも期待されている。ソニーグループとエムスリーの協力により、こうした社会背景に資する事業を行いたい」とした。
今回示したサービスについては、今後1〜2年で提供を開始し、3〜5年後には多くの人に使ってもらえる事業にする考えを示した。また、これらのサービスは、保険償還を対象にしたものではないとしているが、今後、医療現場で活用するデジタル治療領域のサービスについては、保険償還も視野に入れていくという。
第1弾サービスとなる「リハカツ」は、脳卒中患者などを対象にしたリハビリ運動を支援するサービスで、4月26日から無料アプリの先行提供を開始する。今後提供する有料版とは同じ内容だが、提供されるサービスなどが異なるという。
ソニーが長年開発を続けている「姿勢推定技術」と、正しく運動ができているかを判定する動作解析技術を活用。トレーニングが正しく実施できているかをソニーが開発したAIが判定し、自分のペースで、自分の身体に合ったトレーニングを正しく実施することができる。
「姿勢推定技術は、ディープラーニングベースのAIアルゴリズムであり、ロボットにも用いてきた技術である。一般的な姿勢推定技術は、精度と速度がトレードオフの関係になるが、ソニーではこれを両立しているのが特徴であり、高速に姿勢を判定することができる。また、運動解析用に強化している点も特徴で、動作していても、姿勢を瞬時に計測できる。さらに、ソニーが提供するツールを用いることで、理学療法士が簡単にロジックを定義でき、AI化できる」(サプリム Motion Analysis事業部副部長の石村悠二氏)とした。
トレーニングの提案は、脳梗塞リハビリセンターを展開しているエムスリーグループのワイズが協力。10万件以上の施術実績をもとにした知見を活用するとともに、臨床経験10年以上のシニアセラピストが2年に渡って、開発に参加し、身体の動きの評価や評価結果に合わせたトレーニングの提案を行っていくという。アプリでは、トレーニングの達成状況を楽しく見える化して、モチベーションの維持をサポート。また、理学療法士によるリモートレッスンを定期的に開催し、質問の機会を設け、ひとりでは続けづらい運動を支援する。今後、高齢者介護施設などでの利用も想定しており、実証実験を開始するという。
上木氏は、「日本では、要介護者が増加しており、継続的なリハビリが必要な患者は290万人に達している。だが、施設が遠い、自分でやり方がわからない、一人では続かないという声が多い。リカハツは、スマホがあれば、いつでも、どこでも、自分のペースで、自分の身体にあったトレーニングが行えるものとなる。リカハツの先行利用者の7割以上から、身体や生活に変化を感じたという声が出ている。好きな時間にできる、正しくできる、習慣化したり、モチベーションが向上したという評価があがっている」という。
また、ワイズ 会長兼CEOの早見泰弘氏は、「脳梗塞などによる病院でのリハビリは最大180日に限定されており、週1回のリハビリ時間は40分程度が一般的だ。また、要介護認定者は病院での外来リハビリは受けられなかったり、グループリハビリが中心であり、マンツーマンでは指導が受けられなかったりという課題もある。リカハツでは、時間や距離などの課題があり、脳梗塞リハビリセンターに通うことができない人にも活用できるサービスになる」とした。
2016年に脳出血によって、右半身に後遺症が残った経験がある女優の河合美智子さんは、リカハツを先行利用。「リハビリは、一人で続けていることが難しい。また、麻痺しているところは、変な動きの癖がついてしまい、正しくリハビリをやらないと逆効果になる場合がある。医師からも間違った筋トレは良くないと言われた。どんなトレーニングをしたらいいかわからないという場合に、正しい知識でトレーニングができ、それが自宅で行えることは心強い。アプリの映像を見て、正しい動きをしていないことにも気がつくこともできた。専門家に聞きたいことを聞けることも安心につながる。ゲーム感覚でアプリを使えることもいい」などと語った。
エムスリーは、2000年の創業時に、ソニーコミュニケーションネットワークが出資。現在も、ソニーグループが出資している。日本の医師の9割、世界の医師の5割が登録するプラットフォームを通じて、各種医療関連サービスを提供している。2020年4月には、ソニーグループと、新型コロナウイルス感染症対策や、医療およびヘルスケア領域において新たな価値創造を目指す協業を開始。同年12月には、医療およびヘルスケア領域におけるオープンイノベーション「COMPASS Project(コンパスプロジェクト)」を開始していた。
エムスリー 業務執行役員の片山洋一氏は、「コロナ禍で、面会制限で困っている患者や家族、医療機関に向けた遠隔面会ソリューション『面会君』の提供や、新型コロナウイルス感染症疑い症例の判定支援ができるAIシステムの普及などで、ソニーグループと協業してきた。これらの経験をもとに、さらなる価値を提供できると考え、協業を期間限定の取り組みではなく、中長期的に価値を提供する狙いから新会社を設立した。地域や在宅を中心とした医療は、家族の生活にも密接に関係する。患者の生活のなかに医療をどう落とし込むかといったことも重要になる。患者が自ら病気を理解し、楽しみながら前向きに治療に取り組むことができるように、エムスリーが持つ医療分野のノウハウと、ソニーグループのクリエイティビティとテクノロジーの力が貢献できると期待している。健康で楽しく暮らす人を一人でも多く増やすことを目指したい」と述べた。
また、ソニーグループ 執行役専務の御供俊元氏は、「ソニーグループは、エンタテインメントから保険・ライフケアまで多様な事業を展開している。また、クラウドやAIによるデータ解析、センシングといったテクノロジー、デザインを強みにしている。これにエムスリーの強みを生かし、ウェルビーイングを実現する総合的なデジタルヘルスケアソリューションの実現を期待している。ソニーグループは、今後も様々なパートナーとの連携により、安全、健康、安心を提供し、人々が感動に満ちた毎日を享受できる社会に貢献したい」と語った。
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