米テネシー州にあるオークリッジ国立研究所の研究者、Jack Dongarra氏が、世界最大級のコンピューターの力を解き放つソフトウェアを開発した功績で、2021年のチューリング賞を受賞した。これまでの受賞者の多くは、スーパーコンピューターの能力を間接的に向上させた人物だったが、Dongarra氏は科学計算を高速化し、大量のプロセッサーを搭載するマシンで実行させるためのコードの専門家だ。
計算機学会(ACM)は米国時間3月30日、Dongarra氏を受賞者に選んだ理由について、「これらの貢献によって、ビッグデータ分析、医療、再生可能エネルギー、気象予測、ゲノム研究、経済学などの分野で、科学者や技術者が重要な発見や、真に革新的なイノベーションを成し遂げる枠組みを作り上げた」と述べた。チューリング賞は、コンピューティング界のノーベル賞と呼ばれることも多い権威ある賞で、2014年以降はGoogleの提供する100万ドル(約1億2000万円)の賞金が副賞として与えられている。
スーパーコンピューターのハードウェアは、近年では数千台のマシンで構成され、演算処理を行うコアは数百万個を擁するなど、規模の拡大が著しい。そして、こうした巨大マシンを活用するには優れたソフトウェアが欠かせない。Dongarra氏は、ほとんどの科学計算の中核を担う代数計算を高速化するアルゴリズムを作成した。また、単一の計算ジョブを大量のプロセッサーに分配するのに必要なMessage Passing Interface(MPI)の開発にも一役買った。
Dongarra氏が現在所属するオークリッジ研究所には、IBM製のスーパーコンピューター「Summit」がある。このマシンは日本の「富岳」に取って代わられるまでの2年間、世界最速スーパーコンピューターの座にあった。
Dongarra氏は1970年代に、「LINPACK」という重要なソフトウェアプロジェクトを開始した。これはさまざまなタイプのコンピューターで線形方程式をより容易に解けるようにすることを目指したものだった。さらに同氏はスーパーコンピューター「Cray-1」のような有名マシンから、Digital Equipment Corporationの「PDP-8」のような日常業務に使われるミニコンピューターまで、さまざまなマシンの成績を記したリストを作成した。
このDongarra氏のリストと、マンハイム大学のHans Mayer氏が作成した関連するリストを統合して生まれたのが、スーパーコンピューターランキングの「TOP500」で、1993年以降、年に2回公開されている。
LINPACKが驚くほど長い間生きながらえている理由の1つは、スーパーコンピューターが進化して新しい技術を取り入れるたびに、何度も更新されてきた点が挙げられる。例えば、1990年代に始まった安価なLinuxマシンで構成されるクラスター、この10年台頭してきたNVIDIA製などのグラフィック処理ユニット(GPU)、そして最近では機械学習タスクを高速化する人工知能(AI)アクセラレーターなどに対応してきた。
しかし、スピード測定に関しては、LINPACKが君臨する時代はそろそろ終わるべきだとDongarra氏は言う。
「新たなベンチマークが必要だ」とDongarra氏は指摘している。近年のモダンなマシンにおいては、データをマシン内部で高速でやりとりする能力の測定だけでは十分ではなくなってきている。Dongarra氏は、より新しい「HPCG」スピードテストのほうが適切だと考えており、TOP500ではHPCGの結果も報告している。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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