海外の成功事例に見るオープンイノベーションをブームから結果につなげる方法とは - (page 2)

日本と海外では求める成果が異なる

 川島氏は、海外CVCのポートフォリオは、企業開発、イノベーション探索、プラットフォーム開発、伝統的VCの4つに分類でき、日本は企業開発が、海外はイノベーション探索とプラットフォーム開発が多いという。それぞれ求めるものや評価基準が異なり、イノベーション探索はスタートアップとのネットワークや知見など財務的リターンを追求する。

CVCのポートフォリオは大きく4つに分類される
CVCのポートフォリオは大きく4つに分類される

 海外で最も多いのはプラットフォーム開発で、自社のプラットフォームとスタートアップのSaaSやマーケットプレイスを連携したり、利用者を増やして価値を高めたり、販売手数料で売り上げ立てることを目的にしている。

 「日本と海外のポートフォリオは戦略上で大きな違いがある。海外は最先端のテック領域に新規参入する代わりに投資やソフトウェアの購入、プラットフォームの提供といった形で自社のマーケットプレイスのエコシステムを生み出そうとしている。協業やM&Aを狙うケースもあるがそもそもその目的に限定すると投資案件が少なくなってしまう」。

CVCのポートフォリオ連携パターン
CVCのポートフォリオ連携パターン

 最初の1~2年は協業や新規事業を開発するオープンイノベーション型で進めるが、数年後に産業育成を目的とするスタートアップエンゲージメント型へシフトするケースは少なくない」と川島氏は説明する。「スタートアップにとっても激しい競争の中で魅力的なのは、大企業の顧客網や購買力である。大企業にとっては投資先が儲かれば財務リターンにもつながり、企業価値が上がるので、三方よしとなる」というわけだ。

海外のCVCは途中で目的をシフトすることも少なくない
海外のCVCは途中で目的をシフトすることも少なくない

 ソーシングに関して熟練のCVCは年間で2000~2500社をロングリストとして持っており、60%がVCにLP(リミテッド・パートナー)出資をするなどしてリスト集めている。CVCを継続するためにも財務リターンの追求はほぼ必須で、北米では50%近い企業がイノベーションに特化したソフトウェアを活用している。他にもVCから集めたリストからテックスカウティングを含めたリサーチを行い、社内データベースに集約して閲覧可能にするなど、デジタル化が進んでいる。

CVCにおいてデジタルの活用は必要不可欠になっている
CVCにおいてデジタルの活用は必要不可欠になっている

 川島氏が企業したInnoScouterも、オープンイノベーション部門向けのSaaS開発やソフトウェア事業といったCVCツールを提供する会社として立ち上げられ、社内新企業管理クラウド「01 Apps」やスタートアップ連携管理クラウド「InnoScouter」展開している。

スタートアップ連携管理クラウド「InnoScouter」
スタートアップ連携管理クラウド「InnoScouter」

 また、ゼロワンブースターでは、コーポレート・イノベーション・ジャーニーと呼ぶステップに応じた支援を提供している。具体的には、テックトレンドの特定やリサーチを行う「Trend Based Scouting」と、事業部インタビューなどで事業課題を特定する「Problem Based Scouting」の2つがあり、ニーズに応じて展開できる。「CVCなどのツールの活用はオープンイノベーションにおいて最早必須だが、流行り廃りがあるので我々も新しい手法をできるだけ取り入れるようにしている」。

ゼロワンブースターが提供するコーポレート・イノベーション・ジャーニー
ゼロワンブースターが提供するコーポレート・イノベーション・ジャーニー
2種類のスカウティング・アプローチを展開
2種類のスカウティング・アプローチを展開

「失敗をしない」ではなく「確率を下げる」ことを目指す

 川島氏は成功しているCVCのポイントとして以下の点を挙げている。

・ポートフォリオを広くする(イノベーション探索・プラットフォーム開発)
・ソーシング数を増やす(VCへのLP出資も検討する)
・事業部、顧客ニーズを把握しソーシング活動に活かす
・財務リターンをきちんと追求する
・スタートアップ連携を集約、効率化する

 日本ではオープンイノベーションブームは数年前から終わると言われながらも続いている。その背景として、「ビジネスの主戦場でデジタル化が進んでいるのに日本はデジタルリソースを持たない企業が多く、雇用の流動性が低いためソフトウェアエンジニアを雇えないといった課題も影響しているのではないか外部のシステム会社やSIerに依頼するより、スタートアップと組む方が早いと考えているのかもしれない」と分析する。

 そうした企業がこれからCVCを始めようという場合、イベントとして実施するのがやりやすく実際に多いが、日本の場合はニッチ領域にアプローチしたいケースも多く、公募が難しく事案が限られるので難しい場合もあると指摘する。「狙っている領域があるならスタートアップ・スカウティングが向いており、技術や対象顧客のセグメントからテーマを決めて関連するスタートアップをグローバルで探索し、商談するという実務的な方法でも連携は可能だ」という。また、スタートアップの応募から選出、PoCを4ヶ月かけてやるコーポレートアクセラレータープログラムを実施する方法もあると川島氏はアドバイスする。

CVCの設立に向けたポイント
CVCの設立に向けたポイント

 「どんなアプローチでも失敗を避けるのは難しく、できるだけ失敗の確率を下げる手段を考えるべきだ。例えば、投資の意思決定はスピードが求められるので、妨げになるようなCVC運営体制は避けたい。またVCは人のつながりも重要なので、人の話を聞き、コミュニティにも積極的に関わるといった担当者の意欲も影響する。スタートアップを探す方法も、VCが発信する情報や、ターゲット領域に関するメディアの情報などを集中してチェックすることで見えてくることもある。一番大事なのは好奇心を持って市場を見ることだ」。

 最後に、同カンファレンスのテーマである「共創の一番の価値とは」については、「オープンイノベーションでは異なるジャンルのプレイヤーが組むことが多く、組織の規模や意思決定のスピード、マインドも異なるので、両方が噛み合う所を見つけなければいけない。投資計画やKPIも含めて密に関わることで、双方にレバレッジがつく良い共創が実現できるのではないでしょうか」と答え、講演を締めくくった。

優先すべき価値基準に「多様性」を掲げる
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