流氷を見ながらテントサウナ、地元産業にテクノロジーで還元も--北海道知床・斜里町の「一緒に楽しむ」ワーケーション

 北海道の東に位置する知床半島。世界自然遺産にも登録されている知床の斜里(しゃり)町のワーケーションは、一風変わったことを大切にしている。それは「ワーケーションに来た人と、一緒に楽しむ」ことだ。

 「斜里町のワーケーションは、仕事は仕事、遊びは遊び、がモットー。私は53歳になりますが、今でも本気で雪の中に飛び込むし、真冬に流氷を見つめながらテントサウナをする。ワーケーションにやってきた人と本気で一緒に遊ぶ。そうやってフレンドリーな関係が築けたことで、リピート率も高く、わざわざ知床で誕生日を迎える人も現れた」

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 こう話すのは、知床の魅力を訴求する公認ワーケーションコンシェルジュの惣田好法氏だ。惣田氏は、2015年からテレワーク企業誘致やテレワーカーのアテンドやサポートを行いながら、斜里町だけでなく近隣市町村ワーケーションの推進に携わっている。そんな惣田氏に、知床のワーケーションの魅力を聞いた。

一緒に楽しむことで「次につながる関係」をつくる

 斜里町は2015年に総務省が立ち上げた「ふるさとテレワーク」事業に参加している。ふるさとテレワークは、まだテレワークが浸透していない時期に、地域の実情や企業のニーズを把握し、テレワークを推進するための実証実験を行う取り組みだ。

 斜里町はいち早く名乗りを上げ、手探りでワーキングスペースの確保などテレワーク環境を整備して誘致をした。結果的に初年度は世界的な企業や大手企業などIT企業が斜里町でテレワークを行った。惣田氏は、初年度のテレワーク誘致から「わいわいガヤガヤ、和気あいあいとしていた」と当時を振り返る。

 「テレワークに来てくれる人たちのために町の施設をリノベーションしてコワーキングスペースを作った。知床を知ってもらうために仲間のガイドさんや、漁師さんや農家さんと話し合い、自分たちの持ち寄りでバーベキューをしたり、ジビエ料理を振る舞ったり、一緒に釣りをしたりした」(惣田氏)

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冬には「流氷ウォーク」も楽しめる

 テレワークやワーケーションが浸透していなかった時期だからこそすべてが手探りだった。その中で大切にしてきたのが「地元の人達がが楽しめてなかったら、外から来た人達も楽しめない。だからこそ、一緒になって楽しんで次につながる関係をつくる」ことだった。

 斜里町でのワーケーションには、実際にアクティビティを体験できるものが多い。魚の水揚げを見て魚を捌く、作物を一緒に収穫するなど。これには楽しんでもらう以外の意図もある。

 「切り身でしか見たことがなかった魚を水揚げから見てもらったり、トラクターで作物を収穫しているところや選果場で洗われて出荷されるプロセスを見てもらうことで、都心から来ている人たちとのコラボレーションや、ICTやIoTを使った仕事が生まれればと思った」(惣田氏)

 この取り組みにより、斜里町にあるウトロ漁港に電子入札システムが導入された。競りの時間が大幅に短縮され、業務に携わる人員も半分で良くなったという。設備工事は斜里町の会社が行い、プログラムを提供したのは東京からテレワークで来ていた企業だ。漁業組合、地元企業、テレワークに来ていた企業の3社で良い関係を築くことができ、大きな仕事が生まれた。

漁港への電子入札システム導入や、クマのAI認識システムの導入などが実現した
漁港への電子入札システム導入や、クマのAI認識システムの導入などが実現した

 また、知床は東京から物理的に遠いからこそ生まれている仕事もある。たとえば、AIカメラを知床の山に設置して活用するといった場合、機材のメンテナンスを地元の会社が請け負う、といった仕事などがそうだ。地元企業とワーケーションやテレワークにきている企業との仕事が大小含めて生まれているのも知床ならではといえるだろう。

「土地と人の魅力」がどちらもあるから紹介やリピートが多い

 現在、斜里町には年間約30社がワーケーションに訪れるという。訪れる企業の半数がワーケーションを体験した企業からの紹介だという。また、初めは企業の社長やオーナーが数人を連れてワーケーションを体験しにきて、入れ替わりで社員やスタッフが来るケースもあり、リピーターも多い。

 「観光・農業・水産業の3つのアクティビティがあることが強み。仕事をして世界自然遺産の大自然を観光できるだけなく、農業や漁業の産業に関わることもできる。われわれが産業のアイデアをもらうこともできるし、お互いの仕事につながることもあるのは強みだと思う」(惣田氏)

 もちろん課題もある。交通の便が良くないことや、冬場は吹雪で通行止めのリスクなどがあることだ。車での移動が基本だが、雪道を走り慣れていない都心の人間が運転するのも骨の折れる作業だ。それでも、流氷の上を歩ける流氷ウォークや、クジラやイルカが間近で見られる土地の魅力は大きい。それに加えて、一緒に楽しんでくれる人の魅力もある。

 斜里町がテレワークやワーケーション誘致をして6年以上が経つ。惣田氏に改めて大事にしていることを聞いた。「各地でワーキングスペースができているが、それだけで差別化するには限界がある。来てもらうからにはとことん楽しんでもらいたい。仕事もしてもらって、一緒に楽しんで『この人がいるからまた行きたい』という関係性をつくっていくことが大事なのではないか」(惣田氏)

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テントサウナを楽しむ惣田氏(写真左)

 最後に大人が本気で楽しむために大切なポイントを聞いた。惣田氏の答えは「恥ずかしがらないこと」だった。「子どもの頃の楽しかった気持ちを思いだして恥ずかしがらずに楽しむ。人生一度きりですから仕事も遊びも楽しんだもん勝ち」(惣田氏)

 この答えを聞いて、より斜里町に行きたくなり、惣田氏に会いたくなった。Zoomを通しての取材だったが、土地と人、どちらの魅力も揃ったワーケーションは心が躍るのを実感できる出来事だった。

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