2022年2月21日から3月4日にかけて本誌が開催したウェブセミナー「CNET Japan Live 2022 社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション」。社内の知恵を募集する社内ビジネスコンテストや、複数企業の強みを掛け合わせるオープンイノベーションなどに、今まさに取り組んでいる挑戦者たちをスピーカーとして迎えた、18のセミナープログラムで構成されたオンラインイベントだ。
2日目のプログラムでは、大企業の有志団体が加盟するコミュニティ「ONE JAPAN」における具体的な共創の事例を紹介した。富士フイルムシステムサービスと、理系学生の採用プラットフォームの運営などを行うスタートアップPOLによるONE JAPAN発の事業共創について、それぞれの担当者がONE JAPANのメリットや共創を進めるコツなどを明かした。
CNET Japan編集長の藤井涼とともに、ONE JAPAN事業共創プロジェクトならびに東急アライアンスプラットフォーム(TAP)事務局の武居(たけすえ)隼人氏をモデレーターとして、富士フイルムシステムサービス 公共事業本部 本店営業部 戦略推進課 リーダーの斎藤謙一氏と、POL 執行役員 事業企画の宮﨑航一氏が語った。
ONE JAPANは、大企業の若手・中堅社員からなる企業内有志団体が加盟する「実践コミュニティ」。「挑戦の文化をつくる」をミッションに、「組織の壁を越えて互いの強みを出し合い社会課題の解決を目指す」ことを目標の1つに掲げ、50社以上の大企業の社員が参加している。そんなONE JAPANのオープンイノベーションに向けた活動が、大企業とスタートアップによる共創を目指す「事業共創プロジェクト」だ。
同プロジェクトでは2020年6月の初回からこれまでに、隔月で計6回のピッチイベントを開催。ONE JAPAN外のスタートアップがピッチを行い、それを見たONE JAPAN内の大企業が自社の課題・ニーズにマッチすると判断すれば、直接の話し合いの場をもって事業共創へとつなげていくマッチングイベントとなっている。
ここで生まれた共創の1つが、今回の富士フイルムシステムサービスとPOLの2社による、新たなインターンシッププログラムの取り組み。「理系の変革リーダー人材を輩出するため、大企業の最前線で働くSE職の方を巻き込んだ企画設計を実現する」もので、学生・研究者にとっては「現場社員の業務に入り込み、大学での研究が実際にどう社会で役に立てられるのかを実感できる内容」だとしている。
この取り組みが始まったきっかけは、富士フイルムシステムサービスの斎藤氏がONE JAPANに参加し、POLのピッチを聞いたことから。斎藤氏は「自分は採用担当ではないが、POLさんの事業は絶対に当社に役に立つものだと説明の半分も聞くまでもなくピンと来た」という。
斎藤氏は自社内の有志コミュニティで日常的に情報交換しており、そこで「理系社員をより多く採用し、変革人材を育てていきたい」という人事部の参加メンバーによる課題感も耳にしていた。以前からそうした課題感を共有する場にいたことが、POLのアイデアが自社に役立つ、という発想に至った理由と言えるだろう。すでに人事部の当事者を有志コミュニティに巻き込めていたこともあり、「(人事部に)話をもっていくところのハードルがなく、シームレスにつなげられた」のだという。
スタートアップにとって、ONE JAPANの「事業共創プロジェクト」のピッチへの参加は、数々の大企業とのコネクションをつくるまたとないチャンス。宮﨑氏は当初、「どのように実際のビジネスにつながっていくのか懐疑的な気持ち」をもちつつ参加したとのことだが、ピッチイベント後、共創がスタートするまでの「スピードの早さ」には驚いたようだ。
宮﨑氏は、トヨタ自動車に務めていた経験もあり、大企業が新しい取り組みを早く進めるのは難しいところもあると認識している。が、富士フイルムシステムサービスとの共創は「予想していたよりはるかに早かった」と話す。その要因として挙げたのが、大企業内の適切な担当者である「ライトパーソン」に当たれたこと。それによって「非常にスピード感をもって推進していただけた」という。
「スタートアップからすると1カ月、1カ月がとても大切。ゆっくりしていると今取り組むべきプロジェクトではなくなってしまう。スピード感は、プロジェクトの成功や遂行に向けてとても大切」と言い切る宮﨑氏。斎藤氏も、POLのピッチを「(土曜日に)聞いて、週明けの月曜日には(社内に)話をもっていった。そういうスピード感を持てたのは良かった」と振り返る。「ONE JAPANのメンバーと活動するなかで、周りのメンバーが早く動いて成果を上げている事例を見てきた」ことが、自身に影響を与えたのかもしれないとも話す。
POLが独自に大企業にアプローチして共創したケースもこれまでに多くあるが、「大企業に話を持ちかけても、適切な部門、適切な担当者(ライトパーソン)にたどり着くまでに何人もたどる」ことになり、結果的にたどり着けず本格的な話し合いに至らないこともあった。しかしONE JAPANでは、富士フイルムシステムサービスのように社内のイノベーションに取り組む当事者が参加しており、話が伝わりやすい。しかも「同じ課題感をもっている企業の担当の方をONE JAPANではピンポイントでご紹介いただけるので、スムーズに進む」とも宮﨑氏は付け加える。
このあたりは、ONE JAPAN運営側の工夫が寄与している部分もありそうだ。モデレーターの武居氏は、ピッチイベントに参加するスタートアップについて、「加盟している大企業からヒアリングし、なるべくニーズを把握したうえで選定している」とし、これまでに6回開催してきたなかで「ほとんどの企業が、初回の打ち合わせまで行っている」と話す。毎回必ず共創の芽を生み出せるイベントになっているのは、ONE JAPANの強みとも言えるだろう。
大企業とスタートアップの間をとりもつONE JAPANの意義は、他にもある。たとえば斎藤氏は、無事スタートアップとの打合せに至れるよう社内に共創の利点などを効果的に伝えていくにあたり、ONE JAPANの活動を通じて壁打ちや相談などの支援が得られる、というところにもメリットを感じている。「いろいろな会社の至るところでチャレンジが増えてくる。そうしたアクションが増えるきっかけになることが、ONE JAPANを通じた共創の一番の価値」とも。
一方の宮﨑氏は「(スタートアップ)1社の活動ではインパクトは小さく、大きな変化を社会に起こすのには限界がある。大企業と取り組みをさせていだくと、そのインパクトが何倍、何十倍にもなると実感している」とし、「斎藤氏のような社内のハブとなるような人物をご紹介いただけると、そこからスムーズに話が進む。そういったプラットフォーム的な役割を引き続き担ってほしい」とONE JAPANに期待を寄せる。
自身のチャレンジ精神を刺激し、新たなビジネス創出につなげられる共創の仕組みには魅力が多い。とはいえ、忙しい本業のかたわら、そのための時間をつくるのは簡単なことではないだろう。それに対して斎藤氏は、何かを始めるときは「関連する情報を仕入れるなど、0.5歩でも0.1歩でもいいので、とにかく動く」ことが大事だと訴える。
ただし、人によってONE JAPANを通じた共創活動を本業と紐づけて取り組んでいる人もいる一方、本業とは関係なく有志で取り組んでいる人も多く、斎藤氏は後者だ。そのような人に対して「本業ですごく忙しいときは無理はしない。気持ちも身体も続かなくなる」とし、「忙しいときは本業に集中し、時間ができたときは有志活動に思いきり取り組む」というバランス感を持つことも重要だという。「忙しくて取り組めていなくても、決して自分のことを責めないように」することが、長くモチベーションを維持する秘訣だとも語った。
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