楽天モバイルが経営陣を刷新、4つの分野でリーダーシップを目指す--三木谷会長も思い語る

 楽天モバイルは2月25日に、2022年3月30日付で移行する新執行体制を発表した。新しい代表取締役CEOに現・代表取締役副社長 兼 CTOのタレック・アミン氏が、代表取締役社長に現・代表取締役副社長の矢澤俊介氏が就任するという。

 両氏の役割分担については、タレック氏が主に全体のオペレーションと海外事業を、矢澤氏が国内事業を担う形になるとのこと。現在、代表取締役会長兼CEOを務める三木谷浩史氏は代表取締役会長となり、代表取締役社長の山田善久氏は楽天グループの相談役に就任する予定だという。

楽天モバイルの新CEOに就任するタレック氏(左)と、新社長に就任する矢澤氏(右)
楽天モバイルの新CEOに就任するタレック氏(左)と、新社長に就任する矢澤氏(右)

 同日に実施された会見では、タレック氏と矢澤氏が今後推し進める同社の事業の方向性について説明した。タレック氏は、楽天モバイルが仮想化・オープン化技術を全面的に採用したネットワークを構築し、破壊的イノベーションを起こすという第1段階の取り組みは、およそ2年という短期間のうちに人口カバー率96%を達成したことで終わったとし、今後は成長と収益性を引き上げる第2のステージに移行するとしている。

タレック氏は楽天モバイルが人口カバー率96%達成したことで、経営の第2ステージに移行すると話す
タレック氏は楽天モバイルが人口カバー率96%達成したことで、経営の第2ステージに移行すると話す

 それは日本での先進的なネットワークの取り組みを、日本だけでとどめることなくプラットフォームとして世界中に広めることだという。そこでタレック氏は楽天モバイルと、その技術をベースとして海外を主体に通信プラットフォームを提供している楽天シンフォニーの事業をともに強化し、世界的な価値創造に向けたリーダーシップを発揮していきたいとしている。

楽天モバイルの次の成長に向けては、国内での先進的なネットワーク技術と、海外でのプラットフォーム事業の強化を連動させていく必要があるという
楽天モバイルの次の成長に向けては、国内での先進的なネットワーク技術と、海外でのプラットフォーム事業の強化を連動させていく必要があるという

リーダーシップを発揮する「4つの分野」

 そのためにタレック氏は、楽天モバイルが4つの分野でリーダーシップを発揮していくと説明。1つ目は「バリューリーダー」、つまり価格面でのリーダーシップであり、タレック氏は楽天モバイルの参入で日本のスマートフォン料金が60%下がったことから、今後はそれを4Gだけでなく5Gにも広げることにより、価格面で業界をリードし続けたいとしている。

楽天モバイルの料金は高い価格優位性を持つことから、それを5Gにも広げてバリューリーダーの地位を維持していくとのこと
楽天モバイルの料金は高い価格優位性を持つことから、それを5Gにも広げてバリューリーダーの地位を維持していくとのこと

 2つ目は、70ものインターネットサービスを持つ楽天グループの特徴を生かし、他のサービスとのシナジーを創出する「エコシステムリーダー」。すでに「楽天市場」「楽天カード」など多くのサービスでそのシナジー効果は現れているというが、今後はそれを一層強化していく方針だという。

 3つ目は「テクノロジーリーダー」。タレック氏によると、楽天モバイルがオープン化技術を用いた基地局を積極展開し、従来より15倍速いスピードでネットワーク整備を進めたのに加え、1000以上のエッジサーバーを展開するなど多くの技術的優位性を持つという。加えて2000人のソフトウェアエンジニアも抱えており、その技術を用いて世界で唯一のクラウドネイティブなネットワークを構築、日本の利用者の要求水準に応える高い品質を実現したと、強い自信を示している。

オープン技術を取り入れた基地局やエッジサーバーを多数展開しており、ソフトウェア技術にも強みを持つことから、その技術力を生かして海外展開を加速させる考えのようだ
オープン技術を取り入れた基地局やエッジサーバーを多数展開しており、ソフトウェア技術にも強みを持つことから、その技術力を生かして海外展開を加速させる考えのようだ

 そして4つ目は「グローバルリーダー」であり、楽天シンフォニーを通じて日本で培った技術をすでに22の顧客に提供していることから、今後もその実績を生かして世界各国へのプラットフォーム販売を強化。通信事業者向けのクラウドサービスで業界をリードできる存在にしていきたいとしている。

 さらにもう1つ、タレック氏は新たに楽天モバイルが、今後法人向けのビジネスに参入することも明らかにした。具体的には法人向けにコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」などのサービスを提供すること、工場や倉庫などに向けプライベート5G・LTEネットワークを提供すること、そして企業向けのナローバンドIoTネットワークの提供という3つがその軸になるとのことだ。

新たに法人事業への参入も表明。「Rakuten Link」の法人向け展開や、プライベート5G、そしてナローバンドのIoTネットワーク提供なども進めていくとのこと
新たに法人事業への参入も表明。「Rakuten Link」の法人向け展開や、プライベート5G、そしてナローバンドのIoTネットワーク提供なども進めていくとのこと

顧客満足度を上げる4つの取り組み

 一方の矢澤氏は、これまでの楽天モバイルの取り組みを振り返り、「(サービス開始から)約2年間でわれわれはたくさんのことを成し遂げてきた」と話す。現在、同社の4G基地局数は2月初旬の時点で3万7000に達し、「今月末には4万局になる」(矢澤氏)のに加え、契約数もMVNOを合わせて550万、MVNOを除いた数でも500万に近い数となるなど、短期間で多くの実績を積み重ねてきたという。

 しかし矢澤氏は、現在の状況が「3合目くらい」と評価。今後は「国内で数年以内にナンバーワンキャリアになることを目指して頑張ると」と宣言した。そのためには顧客満足度の向上が最も重要だと矢澤氏は話しており、今後に向け4つの具体的な取り組みを示した。

国内事業を担う矢澤氏は、楽天モバイルが今後数年のうちにナンバーワンキャリアになるとし、そのための取り組みを打ち出していた
国内事業を担う矢澤氏は、楽天モバイルが今後数年のうちにナンバーワンキャリアになるとし、そのための取り組みを打ち出していた

 1つ目はがエリアの拡充で、今後人口カバー率を限りなく100%に近い所までスピーディに展開することを目指すほか、屋内対策についても小型基地局を毎日300〜400局増やして対策を強化しているという。2つ目は店舗の拡大で、地方での基地局整備が進んでいることに加え、顧客と直接向かい合って話を聞く接点を持つことが顧客獲得に重要であることから、店舗網を一層広げていく考えのようだ。

エリア拡大は今後も継続する方針で、人口カバー率の拡大だけでなく屋内対策にも力を入れていくとのこと
エリア拡大は今後も継続する方針で、人口カバー率の拡大だけでなく屋内対策にも力を入れていくとのこと

 3つ目はカスタマーサポートの強化であり、2月には宮城県仙台市にカスタマーサポート専用の子会社を設け、100名体制でサポート対応の強化を図っているとのこと。そして4つ目は災害・BCP対策の強化であり、楽天モバイルは2月1日に災害対策基本法に基づく指定公共機関となったことから、災害時に機動的に対応できる体制を急ピッチで進めているという。

カスタマーサービスは新たに仙台市に子会社を設立するなどして一層の強化を図っていくという
カスタマーサービスは新たに仙台市に子会社を設立するなどして一層の強化を図っていくという

三木谷氏が語る新体制や周波数オークション

 会見ではさらに三木谷氏が登壇し、新体制に移行するに至った経緯について説明した。従来、三木谷氏と山田氏の体制で楽天モバイルの事業を進めてきたが、新たなステージへの移行に向けては楽天シンフォニーの事業強化が重要だと三木谷氏は話す。

 実際、三木谷氏は「(楽天シンフォニーは)すでに数千億円の受注をしているが、それを年間兆単位での受注にまで持っていこうと思っている」と説明。そのためには楽天モバイルと楽天シンフォニーとの経営の同期を一層進めていく必要があり、体制を大きく変えるに至ったとのことだ。

 では、なぜ三木谷氏は両氏をCEOと社長に据えるに至ったのだろうか。タレック氏に関しては、これまで海外の携帯電話会社での技術革新で大きな実績を持ち、楽天モバイルのネットワークの方針に影響を与えたことが大きいという。

三木谷氏はこれまでの実績からタレック氏、矢澤氏共に高く評価しており、両者による体制が「いいコンビネーションだと思っている」とも話していた
三木谷氏はこれまでの実績からタレック氏、矢澤氏共に高く評価しており、両者による体制が「いいコンビネーションだと思っている」とも話していた

 三木谷氏は2017年に新規参入を表明した当初は、従来のハードウェアを主体としたネットワークを構築しようと考えていたが、その後タレック氏と会ったことで仮想化技術を知り、方針を大きく転換するに至ったとのこと。三木谷氏はタレック氏について「携帯電話業界、ネットワーク業界のスティーブ・ジョブスかイーロン・マスクか、そういう存在だと思っている」と話し、非常に高く評価している様子を伺わせている。

 一方の矢澤氏について、三木谷氏は「楽天市場を作り上げた人間」と説明、ストア設計やコールセンターなどのオペレーションを先導してきた実績を持つという。当初外部企業に委託しており大きく遅れていた基地局の設置場所の獲得を、楽天モバイルが直接交渉して加速させ、整備の大幅な前倒しを実現した実績が買われての起用となったようだ。

 なお三木谷氏は今回の会見で、現在総務省で導入に向けた議論が進められており、楽天モバイルが反対の姿勢を打ち出している周波数オークションについても言及、現在も反対の姿勢は崩していないとのことだ。

 その理由について三木谷氏は、楽天モバイルが従来の審査の仕組みで電波の割り当てを受け、参入したことで価格競争が起きたことを挙げており、「米国ではオークション費用が非常にかかって参入障壁となったり、消費者に転嫁されたりするなどして技術競争が生まれていない。最終的に国民にとっては安価で高性能なサービスが提供される方が、(落札費用が)国庫に入るよりもメリットが大きいのでは」(三木谷氏)と話した。

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