ソフトバンクグループは2月8日、2022年3月期第3四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比10.7%増の4兆5808億円、税引前利益は前年同期比63.3%減の1兆2347億円と、前四半期に続いての大幅な減益決算となった。
決算説明会に登壇した同社の代表取締役社長である孫正義氏によると、減益の要因は前四半期同様、中国のIT関連企業に対する規制強化の影響を大きく受けて、中国アリババグループなどの株価が大幅に下落したためで、「冬の嵐の真っただ中にいる。まだ終わっていない、むしろ強まっているのかもしれない」と話す。
ただ孫氏は、同社が重視している指標の1つであるLTV(資産総額に対する負債残高の割合)に問題はなく、経営上の問題が出るには至っていないと説明。
現在、同社の活動の中心となっているソフトバンク・ビジョン・ファンドに関しても、中国企業からの利益は「(投資した)元本とほぼ同じ」くらいにまで下がっているものの、米国などの企業からの利益は順調で、投資先企業やアリババグループの株など手元の資産を売却して3.8兆円の資金を調達し、2021年度の9カ月間で4.4兆円の投資をするなど引き続き積極的な投資しているとのことだ。
その結果、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの1号、2号、およびラテンアメリカのファンドも合わせて投資先の数は441社に上っており、2021年度の上場企業は9カ月間で25社に上るとのこと。自らの資産で投資を継続できるエコシステムが回り始めていると、孫氏はファンド運営に自信を見せた。
だが、孫氏が今回多くの時間を割いて説明したのは、2016年に買収した英国の半導体設計大手、Armの今後についてだ。ソフトバンクグループは2020年に新型コロナウイルスの影響を受け業績が大幅に悪化したことから、Armを米半導体大手のNVIDIAに売却することを発表していたが、IT関連企業や米国などの規制当局から猛反発を受けて承認を得るのが難しくなったため、売却を取りやめることを発表した。
孫氏は売却を断念した理由について、やはり欧米での規制当局からの承認が下りる見込みが立たなくなったことを挙げている。同社ではNVIDIAと協力してその解決策をいくつか提案したというが、「全く相手にしてもらえない状況が2〜3カ月続き、NVIDIAからもこれ以上難しいとの話があった」(孫氏)とのこと。政府や業界からここまでの反対の声が出ることは、孫氏も想定していなかったという。
そこでソフトバンクグループは、「プランB」としてArmの再上場に向けた準備をすることも同時に発表しており、上場先はArmの取引先が多いことから「恐らく米ナスダック市場じゃないかと思う」(孫氏)という。上場時期としては2022年度を見込むとしているが、孫氏は2023年頃にArmを再上場させるというプラン自体は買収当初より思い描いていたものだと話す。
再上場時期を2023年頃に据えていた理由について、孫氏は買収時から進めていた新しいCPUの設計が製品化され、市場に出る時期だったためと話す。買収当時、Armは主戦場としているスマートフォン市場の飽和で売上が横ばい傾向にあったことから、ソフトバンクグループは買収後、エンジニアを倍近くにまで増やして研究開発を強化。2021年度からそれら製品が市場に投入され始めたことから、業績が再び成長軌道に乗り「第2の成長期を迎える」と孫氏は話す。
孫氏はArmのCPU設計について、コア数を増やすことで演算処理能力を上げながらも低消費電力を両立できることを挙げており、それがスマートフォン向けのCPU設計で大きなシェアを獲得する要因にもなっている。そこで、高い性能ながらも低消費電力である特性を生かし、クラウドやEV(電気自動車)向けのCPU設計にも力を入れてきたと話す。
実際、昨今はデータセンターでの電力消費と、それにともなう環境やコストの負荷が問題になってきているが、Armの設計を用いたCPUは性能が高く消費電力を大幅に抑えられることから、AWSなどクラウド大手のデータセンターでの採用が進んでいるとのこと。またEVでは、やはり低消費電力のArm設計のCPUを用いることで、同じバッテリー容量ながらも走行距離を伸ばせることから近年採用事例が増えており、「Armのアーキテクチャ以外では電池を食い過ぎて話にならない」と、孫氏はその能力に自信を示した。
また孫氏は、今後の成長に備えてArmの経営陣を刷新することも明らかにしており、決算説明会には新たなCEOとなるレネ・ハース氏とCFOのインダー・シング氏がリモートで登壇した。
レネ氏はArmが持つ1500万以上の開発者と1000万以上のアプリケーションなどを強みとして競争力を高めており、今後はIoTやメタバースなどあらゆる分野でその強みが生かせることを説明。とりわけクラウドやEV向けの展開については「すでにやり方や計算式は分かっている。この方向性でけん引できるし、いまは非常にいい立場を取れている」と自信を示した。
ちなみにソフトバンクグループがArmを買収した時の金額は約240ポンド、当時の為替レートで約3.3兆円であったが、NVIDIAへの売却が合意した時の売却額は最大で400億米ドル、やはり当時の為替レートで約4.2兆円となる。ただ、売却額のおよそ3分の2はNVIDIAの株式で支払われる予定だったので、孫氏によると現在のNVIDIAの株価を考慮すれば「約80ビリオン(ドル、約9.2兆円)を超えるところまできていた」という。
そのため、Armの再上場に際してはそれだけ高い価値の実現も求められるが、孫氏はArmが新たな成長期に入ったことで今後価値が大きく伸びると見ており、「持っていて良かったという金額になる」と回答。売却を断念したことについても「むしろそっちの方が良かったと思えるんじゃないか。それくらいArmの上場を楽しみにしている」と話した。
なお、ソフトバンクグループを巡っては、長年にわたって同社を支えてきた、副社長執行役員COOであったマルセロ・クラウレ氏の退任が2022年1月に発表された。その理由について問われた孫氏は、「SprintやWeWorkなど、難しい問題の処理で非常に貢献してくれた」とマルセロ氏の功績を評価する一方、ソフトバンクグループがAI関連企業への投資注力を進める中、経営内容の変化を受け一度関係に区切りをつけるに至ったと説明した。
それにともない気になるのが、孫氏がかねて打ち出していた後継者の問題だが、孫氏は後継者探しが引き続き重要なテーマであるとしながらも、「まだまだ新しい技術革新があって、楽しくてしょうがない」とコメント。当面は孫氏自身が経営に積極的に取り組む意向を示した。
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