手順は、実物の生地を特殊なチャートが描かれた台上に平置きして、計8方向から1方向ずつ照明を当てて写真撮影し、光の反射特性や凹凸などを計測、その8枚の写真を1枚の画像に統合してデータ化する、という流れ。さらに生地の背面側からも光を当て、透過特性も計測する。これにより「生地のベース画像に反射率、素材の粗さ、凹凸などの情報を1つにまとめたPBRマテリアル」ができあがる。
PBRマテリアルを作成した後は、そこに貼り付けるテクスチャーを変更するだけで、色や柄などの見た目を簡単に3D CGツール上で確認しつつ、精細なイメージに出力できる。服だけでなく、バッグやブーツのようなあらゆるファッションアイテムに同じ手法が応用可能だ。
続いて重要なのが「ライティング」。大橋氏が活用している「CLO」においても、スタジオのライティングを再現したような基本的なプリセットが初めから用意されているが、堀江氏によると「スポットライトのような表現」や「ライトを自由に動かすこと」は苦手とのこと。
服のしわによる影のでき方1つでリアリティには大きな差が出ることがあるため、よりフォトリアリスティックなイメージを得るためにも、強力なライティング機能をもつレンダリングツールを使うことが重要になってくる。
そしてもう1つ、堀江氏がおすすめするツールが「Houdini」。要素を連結して関連付けていくことでオブジェクトなどの特性を定義する「ノードベース」のインターフェースが特徴で、映画のVFXに使われることも多いソフトだ。
堀江氏いわく、Houdiniは使いこなすのが難しい部分はあるものの、「クロス(布)シミュレーションの精度が高いのもウリ」。たとえば、服を重ね着したときの挙動、風にたなびく糸の表現などはHoudiniの得意とするところで、生地を破くような表現も可能だという。
ファッションデザインの業界では、今やこうした3D CGツールを活用することが珍しくなくなってきた。いったん3Dデータにしてしまえば、実物を撮影することなくあらゆるアングルの映像を作成でき、デザイン変更も容易。現実では不可能な演出や、プロモーション上より効果的な見せ方も可能になる。モデルやスタジオが不要になるというコストメリットも小さくない。
しかしながら、大橋氏は「3D CGソフトがあればなんでもできると受け止められがちだが、扱う人には知識が必要」と釘を刺す。ツール導入と学習のコストをかけてまで自社にメリットのあることなのかも考えてから取り組むべきだとし、実際に導入を進めようとしているアパレル企業のなかには「どう活用すべきか、いまだ模索している会社も多い」と明かす。
大橋氏、堀江氏ともに、課題と感じていることは他にもある。それは、アパレルデザイナーが3D CGクリエイターに制作を依頼する際、それぞれの業界で独自の専門用語が多く、今のところ両者の「共通言語がない」こと。専門用語を使わないようにすると、補足を加えるなど説明が遠回りになってしまうため、効率的なやりとりが難しいのが現状だ。
進化し続けているPCやスマートフォンのグラフィック性能によって、3Dデータの活用はますます広がっていくと予測する堀江氏。今後、メタバースのような仮想空間などにおいて、アパレルブランドが作成した3Dファッションをアバターに着せたりする動きが活発になることが考えられ、NFTを用いたデジタル衣装の売買が行われるようになる可能性もあると見ている。
そうしたアパレルの未来を支えていくため、ファッション業界と3D CG業界の間での共通言語の作成、アパレルデザイナーが容易に3Dでデザインできるようにするプリセットやアセットの整備が求められるだろう、と結論付けた。
なお、12月21日にはオンラインセミナー「SOuDAN オンライントーク」の第6回が開催される。『ファッションとメタバース 〜仮想都市プラットフォーム「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」仮想伊勢丹新宿店の事例から〜』と題して、ファッションとメタバースの未来予想について語る予定だ。
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