【事業開発の達人たち】「未来を見据え、チャレンジできる村」を子どもたちの心に刻みたい--日鉄ソリューションズと高知県北川村【後編】

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。

 前回に続き、日鉄ソリューションズ IoXソリューション事業推進部の森屋和喜さん、同じく営業統括本部の鎗水徹さんと、北川村副村長(教育担当)の野見山誉さんにお話を伺います。

キャプション

 前編では、農村の課題を解決すべく両者で取り組まれているスマート農業実証事業の全貌について伺いました。後半は、ARCH内での取り組みが広がりを見せている様子と、村の子どもに対する教育への思いについてお伝えします。

ARCH内に広がる北川村での取り組み

鎗水氏:北川村と日鉄ソリューションズによる、ゆず栽培のスマート農業化を目指す取り組みをご紹介いただきました。実は、この事例について新たな動きが最近ありました。

角氏:おや、どういうことでしょう?

鎗水氏:以前、ウェブ配信番組で私と野見山さんが登壇し、北川村での取り組みを紹介しました。その際、ARCHに所属する企業の皆さんに対して「一緒に地方社会全体が抱える『不』を解決する仲間を探している」という話をしました。

角氏:8月に行われたテレビ東京の「『生きづらいです2021』 LIVE PITCH」ですね。私もその場所に参加させていただきましたが、そこで確か“ARCH村”として、社会の「不」を解決するための仲間を募っていらっしゃいました。

キャプション
キャプション

鎗水氏:ええ。そしてその翌日に、さっそくブリヂストンさんから「一緒にやりたい」と声をかけていただいたんです。それで10月末に一緒に北川村に訪問し、収穫の作業をしたり、現地の農家や整備工場の方に話を伺ったりしました。

角氏:それは凄い!ちなみにブリヂストンさんはどんな目的があったんですか?

鎗水氏:ブリヂストンさんは、タイヤが使われている間にお客様が感じられている「不」を解消するためのソリューションを検討しています。北川村の農業の現場では、ゆずの棘や山道での落石などによる軽トラのパンクが年に2回ほど起こってしまうそうです。まさに、タイヤが使われている間に起こる「不」が顕在化している現場として、タイヤの状態変化を予測検知して安心・安全を提供するソリューションを一緒に検討したいとご相談頂きました。

角氏:軽トラ見守りくんですね(笑)

鎗水氏:ブリヂストンさんからのこうしたご相談を受けたため、野見山さんにご協力いただき、現地に赴きました。こうした情報収集やテストフィールドの展開にはその地域のみなさんに負担をかけてしまうものも多いですが、北川村のみなさんは快くご協力くださり、多くのお話を伺うことができました。そういった現場の「不」に真摯に向き合うブリヂストンさんや、温かくご支援くださる地元のみなさんなど、ともに「『不』を解消する」仲間がどんどん増えていて心強く感じています。

キャプション
日鉄ソリューションズ 営業統括本部の鎗水徹さん

角氏:ARCHの目的である、新規事業における大企業同士のつながりがちゃんと実現しているんですね。

教育分野でも企業との連携を模索

野見山氏:それともうひとつ、今までの話をしてきた内容はスマート農業がメインでしたが、私は元々教育担当の副村長であり、教育の方にも色んな企業との連携をつなげていきたいという想いがあります。様々な企業と様々な取り組みをおこなうことで、村の子どもたちにもその様子を見てもらって、「チャレンジできる村なんだ」ということを証明していきたいと考えています。

角氏:具体的にはこれまでどのような取り組みをしているのでしょうか?

野見山氏:村ならではの教育を目指し、FoundingBaseさんと連携して中学生向けの村営塾を作っています。そこはただの学習塾ではなくて、科目学習や好奇心を育む授業、地域をフィールドにさまざまなことに挑戦するプログラムなどが一緒にできる塾で、その中でゆずを使った教育プログラムを開発してもらう計画です。例えば、子どもたちにスマート農業の機器を実際に操縦してもらって、「これをやったら手作業するより楽でしょ?君たちが大人になるころにはこういう農業なんだよ」ということを教えることによって、農業そのものにも関心を持ってもらえますし、自分が大人になる頃には選択肢の一つになると感じてもらいたいんです。

森屋氏:現状のゆず農家のみなさんの働き方では、子どもたちが日ごろ周囲の大人たちから聞くゆず栽培の話は、やりがいよりも厳しさを強く感じてしまいやすいと思います。ですが、これからは「暑い中でも雨合羽を着て手作業で行っていた農薬散布がリモコンカーを操縦して行えるようになる」など、農業が次世代の形へと進化している様子を伝えられるようになるんです。

キャプション
日鉄ソリューションズ IoXソリューション事業推進部の森屋和喜さん

角氏:なるほど。

野見山氏:そういうことをしていて、ハードもソフトも含めて、教育施設、学校の在り方というのを検討しているところです。ただ村には人が少なく限界があるので、外に頼るしかない。そこで色々な企業との連携を模索していて、今日ARCHでお話したのは、例えば学校の中にシェアオフィスやサテライトオフィスを作ってARCHの皆さんに入っていただき、大人たちがチャレンジしている姿を子どもたちに見てもらいたいとか、北川村の学校の隣に企業の従業員が移住できるための住宅を整備したらどうかとか、アイデアを下さいと話をさせていただきました。

 ソフト面でもいろいろ連携していて、当村のゆずの種をつかってヘアオイルを作っているウテナさんとは、子どもたちにオンライン授業していただいたり、一緒にゆずの収穫体験をしていただいてますが、ゆずに関する課題解決を目指して、一緒に商品を共同開発できたらいいなとか。後はオンラインでレッスンができる「DMM英会話」、サービスを導入するだけでなく、マンツーマンでは難しい子どもたち向けにこちらからもアイデアを出して一緒にグループレッスンのサービスを開発するとか。クラダシさんと連携してインターン生などを派遣していただき、食育を推進するなどの取り組みをしています。

企業版ふるさと納税で連携スキームの構築が容易に

角氏:アイデアはともかく、実現するための原資はどこから出る形に?

野見山氏:“企業版ふるさと納税”という仕組みがあって、これを使うと実質負担は1割で済みます。

角氏:自治体に対して寄付をすると。最大で1000万円寄付をしたら法人税が900万円控除されて、100万円で1000万円分の事業ができると。自治体にお金を払って、一緒にその事業をするというイメージですね?

野見山氏:そうです。なので、「北川村と一緒にこんな取り組みができそうだ」「これだったら寄付をしてもいい」という企業版ふるさと納税の事業アイデアを募集しています。仕組み上、経済的な見返りで返礼することはできませんが、実はその際に人材派遣型という形がありまして、村に人を派遣してもらうと、その方の人件費に寄付のお金を使えるんです。

キャプション
北川村 副村長(教育担当)の野見山誉さん

角氏:自治体の職員に出向するような形で、人を派遣すると1人分の給料がそこから出せる形にできる。めちゃめちゃお得じゃないかというお話ですね。

野見山氏:そういう訳で先ほどARCHの皆さまに、色んなお話を受け付けていますということを説明させていただきました。まずはブレストから始めて、最終的に色々な連携ができればいいなと。

角氏:それはARCHのメンバーだけでなく、CNET Japanを見た企業の方から問い合わせがあった時もお話を聞いてくれますか?

野見山氏:もちろんです。随時募集していますので、是非私までご連絡ください。歓迎します!

これまで大変だったことがこれからも大変というわけではない

角氏:日鉄ソリューションズのお二人からもメッセージはありますか?

鎗水氏:われわれのミッションは、単なるITツールの導入ではなく、社会が抱える様々な課題について、データやデジタルの力を活用することで解決していくことです。北川村での課題解決の過程からモデルケースを生み出すことで、日本全国の地方をもっと元気にしたい。そういうところを頑張っていきたいですね。

角氏:素晴らしいですね。

キャプション
フィラメントCEOの角勝

森屋氏:私たちはDXを通じて地方を豊かにしたいと考えています。それぞれの地方のあり方に合わせて様々な企業と連携しながら真の課題解決に取り組みたいと考えています。

角氏:本当にそうですね。お話を聞いていて、今の課題解決もそうですし、「これまで大変だったものは、これからも大変であり続けるわけではないんだよ」ということを子どもたちに伝えていて、未来を創っていく部分が凄く本質を突いている取り組みだと思いました。それは野見山さんが教育担当の副村長という部分にもリンクしている話なんでしょうね。

鎗水氏:コロナ禍によって、ビジネスもリモートという形が増えて、人間関係を作るにも最初はフェイス・ツー・フェイスが重要ですが、それ以外はリモートでできることがわかりました。東京にこだわらず故郷で家族と暮らしながら仕事ができるので、人も地方で生活を営む選択肢が生まれました。その観点からも、こうした地方を元気にするための取り組みは役に立つと思うんです。日鉄ソリューションズでは、すでに島根でも地域創生につながる取り組みを実施していますので。

角氏:おお、そうでしたか。私も出雲出身なので、そちらも是非頑張っていただきたいです(笑)

鎗水氏:高知県でも、地元のIT企業と一緒に何かにチャレンジする未来もありえるのかなと思います。また、北川村では、小学生向けプログラミング教育の支援を始める計画もあります。子どもたちがITスキルを学ぶ傍ら、周囲の大人たちがデジタルを活用したチャレンジをする様子を目にすることで、エンジニアとして故郷に貢献したいと考える子供たちを増やすことで、多くの若者に、地元に定着してもらうことを目指しています。

キャプション

角氏:なるほど。入口と大筋の部分ではスマート農業のお話でしたが、最終的には次世代を担う人材を育てるというところに帰結した感じがします。実証事業の成功と、更なる取り組みの広がり、そして子どもたちが自分たちの村に対して誇りを持って学んでいける環境が1日でも早く整うことを期待しています。

 ※NS Solutions、NSSOL、NS(ロゴ)、K3Tunnel\ケイサントンネル、IoX、安全見守りくんは日鉄ソリューションズの登録商標です。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]