オンキヨーのクラウドファンディングを活用した音響機器販売が好調だ。第1弾として3月に実施したホームシアターシステム「SOUND SPHERE(サウンドスフィア)」は、支援総額が1億円を突破。6月まで支援を受け付けていたオールインワンレコードプレーヤー「OCP-01」は、「Onkyo Classic Series(オンキヨークラシックシリーズ)」の初代モデルとして、レコードプレーヤーに馴染みの少ない若い世代からも注目を集めた。7月に開始したパイオニアブランドのAVアンプ「SC-LX904」は、スタンダード価格34万8000円という高価格ながら、わずか45分で目標金額をクリア。快進撃を続けている。
この背景には、クラウドファンディングを手掛けたGREEN FUNDING(グリーンファンディング)とオンキヨーのオンライン販売を意識したスピード展開、蔦屋家電と手を組み、音響製品には欠かせない「実際の製品に触れ、音が聴ける場」を用意したことが大きい。
3モデルを通じて、新しいオーディオ販売に乗り出した経緯と取り組みについて、オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン 代表取締役社長の上山(うえやま)洋史氏と蔦屋家電エンタープライズ 執行役員商品部部長の吉崎真矢氏、GREEN FUNDINGを運営するワンモア 代表取締役CEOの沼田健彦氏に聞いた。
オンキヨーでは、販売チャネルの1つとして以前からクラウドファンディングを利用。しかしGREEN FUNDINGで実施したことはなく、SOUND SPHEREを発表するタイミングで「社員の中から、オーディオ販売に強いGREEN FUNDINGにお願いしたいという声が上がり、初めてコンタクトをとった」と上山氏はきっかけを話す。
「起案のきっかけはGREEN FUNDINGのウェブサイトのお問い合わせからご連絡をいただいたこと、本当にあのオンキヨーさんかな?と思ったぐらい。ただ、調べてみると他社のクラウドファンディングはいろいろ利用されており、どうして今までうちにお声をかけてもらえなかったのだろうと(笑)。実際にお会いしてみると、その場で意気投合というか話が一気に進み、その段階で『実は第2弾、第3弾もある』とお聞きし、現在までご一緒いただいている」(沼田氏)と振り返る。
GREEN FUNDINGとオンキヨーがクラウドファンディングに向け動き出す一方で、上山氏は以前から面識のあった吉崎氏にOCP-01の販売について相談を持ちかける。「OCP-01は当初からクラウドファンディングで販売しようと考えていたわけではなく、Onkyo Classic Seriesの第1弾モデルとして温めていた状態。お見せしたら、これはぜひと言っていただき、店頭展開も含めたクラウドファンディングという形になった」(上山氏)と話す。
「蔦屋家電ではもともと中古レコードの買付販売をしており、それに合わせる形でアナログレコードプレーヤーもものすごく売れていた。なかでも1万円を切る価格帯のものは若年層に人気が高く、レコードプレーヤーを販売するベースは出来上がっていた。そのタイミングでOCP-01のお話をいただいたいので、これは人気が出るだろうと」と吉崎氏は、成功要因を明かす。
米国で火がついたアナログレコード人気は日本にも波及し、この10年で売上は10倍になるほど。「なかでも若年層が多い」(吉崎氏)という特徴を持つ。
「購入してくださる男性のお客様は40代以上の方が多かったが、女性は20代が中心。店頭に来て、実機を見て『かわいい』と喜んでくれる。この2つの層はまさしくターゲットユーザーに据えていたところ。狙い通りに方に商品をお届けできた」(上山氏)とクラウドファンディング×蔦屋家電の連携は、OCP-01で想定したユーザーターゲットを実証した。
3製品に渡ってクラウドファンディングで成功を収めた背景には、オンキヨー側のスピードを重視した対応も大きい。「ここ数年大手企業の方ともお付き合いいただいているが、オンキヨーの皆さんはスピードが違う。SOUND SPHEREは7月の納期になっていて、逆算すると3月にページ公開をしないといけない。ただお話をいただいたのはその1カ月前というタイトさ。それでもそのままのスケジュールでやりましょうと。大企業発プロジェクトで動画等制作含めてわずか1ヵ月で実際に公開できたのは、私たちとしてもはじめてのケース」と沼田氏はその対応力に驚く。
「泥臭い話しだが、スピードと金銭は比例していて、時間がかかればそれだけロスする部分も大きい。やれるのであれば、スピードは重視すべき。オンライン販売になるとスケジュールがタイトになると見る向きもあるが、商品を作り、お客様に届けるという基本は昔から変わらない。以前はオンライン販売もなかったし、クレジットカード決済も存在しなかった。時代の変化に合わせて、メーカー側の対応も変えていかなければならない」と上山氏は理由を話す。
新しい動きに順応する力は、蔦屋家電での店頭販売にも表れる。「ネット時代の次世代型ショールームである蔦屋家電プラスでは、販売員が売り場で受け取ったお客様の声をメーカー側に届けることがKPIの一つ。そのため、お客様にもメーカーの方にもフラットさを心がけており、ネガティブな意見も吸い取れる。お客様との接点を持っていないメーカーの方には、ぜひ蔦屋家電プラスを開発や販促にいかしてほしい」と吉崎氏が話す通り、蔦屋家電プラスで吸い上げた意見を、クラウドファンディングページ上の「活動報告」に反映。リアルな意見をオンラインで回答する仕組みを整えた。
「活動報告は動きがあったときのみ、多くても1週間に一度くらいの頻度で利用されるケースが多いが、オンキヨーの更新頻度は高く、リアルとオンラインをうまく補い合って使っていただけた」(沼田氏)と、店頭とクラウドファンディングという2つの特性を最大限にいかす。
吉崎氏は「現在のプロダクトは、マーケットインで作ることが主流になってきており、世の中のニーズを探り出すのは重要。蔦屋家電プラスでは、お客様の声を聞き取れる場としての強みをいかして製品開発の段階から参加していきたい」と意欲を見せる。
上山氏も「私たちとしてもマーケティングを含めて販売をご一緒したい気持ちは強い。今回の3モデルに渡ってのクラウドファディング販売は大きなチャレンジだったが、OCP-01は予想以上売上に結びつけていただけたし、パイオニアのSC-LX904は高価格でありながらクラウドファンディングで販売できることが実証できた。このチャレンジを今後も続けていきたい。オンラインと店頭販売がうまく絡み合うことで、感度の高いお客様にリーチできたと思っている」と分析する。
沼田氏は「オンキヨーのすごさは、スピーディーに物事を運びながら、高い品質管理を維持できるところ。GREEN FUNDINGでは、中国や台湾メーカーの商品も数多く扱っているが、企画力とスピードは抜群でも品質管理レベルにはばらつきがある。そうした海外新興メーカーにオンキヨーの品質管理のスキルを結びつけることで、新しい商品が生み出せるのではないかと思っている。ダブルネームのコラボレーションなどにも期待したい」とその先を見据える。
オンキヨーとパイオニアという2つの老舗音響ブランドを持つオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン。クラウドファンディングのGREEN FUNDINGと蔦屋家電と手を組み、取り組んだ新たなオーディオ販売は、今後も続きそうだ。
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