「在庫切れ」という残念な表示が、過去1年間でスマートフォンやノートPCのメーカーのウェブサイトで増えており、ぴかぴかの新製品を手に入れたい多くの消費者が待つ状態になることもよくある。
この問題の主な原因は世界的な半導体不足であり、近いうちに解消する兆しは見えていない。しかも、なお悪いことに、一見ハイエンド技術と無関係に見える日常的な製品の生産にまで、この問題が波及する可能性がある。例えば、子供のおもちゃや電子レンジだ。
世界半導体市場の売上高は1月、前年同月比13.2%増の400億ドル(約4兆4000億円)に達した。だが、半導体メーカーが懸命に生産しても、半導体を使う電子デバイスの需要は新たな高みに達し、既に世界の半導体供給をはるかに上回っている。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、この不均衡をもたらす上で大きな影響を与えている。企業が従業員に自宅でリモートワークをさせるようになり、PCとスマートフォンの販売台数が急増した。同時に、数カ月にわたるロックダウンをやり過ごすために、ユーザーはゲームや仮想通貨のマイニングなど、半導体を多数必要とする新しい娯楽に目を向けた。
米中の地政学的緊張が高まるにつれ、中国のテクノロジー企業は米国による制裁を警戒して、チップおよびチップ製造装置を積極的に備蓄するようになっており、新しいスマートフォンが最近なぜ手に入らないのかは明白だ。
例えば、PCメーカーはこの1年あまり、サプライチェーンの深刻な問題に苦しんでいる。PC市場の2020年の出荷台数は記録的なものだったが、部品がすぐに調達できていれば、さらに増えていた可能性があるとアナリストたちは推測している。
過去数カ月、ゲーム機が不足していたことに気づくゲーマーは多いだろう。ソニーは「PlayStation 5」の供給が需要に追いつけなかったことを認め、半導体の供給不足は2022年まで続くと予告した。
Appleの「iPhone 12 Pro」は、発売直後から最大3週間の出荷待ちだった。BBCの報道によると、サムスンは次世代の「Galaxy Note」の発売を見送る可能性があると述べた。小米科技(シャオミ)は、半導体不足が業界全体におよぼしている影響は「非常に、非常に深刻だ」と説明した。
McKinseyの半導体を専門とするパートナー、Ondrej Burkacky氏は米ZDNetに対し、「そのうち消費者も半導体危機の影響を受けるだろう。家電製品が最も売れるのは第3四半期と第4四半期だ。この期間中に幾つかの製品が不足する可能性がある」と語った。
価格が高騰するケースもあるだろう。例えばシャオミは、詳細には触れていないが、半導体不足の関連コストを消費者に転嫁しなければならなくなる可能性があると警告した。
企業は消費者よりも製品購入の規模が大きい傾向があるため、さらに大きな影響を受ける可能性がある。例えば、企業はPCを1度に1台ではなく、数千台購入することもある。したがって、慎重に計画しなければ、従業員の生産性や機敏性に影響が出る可能性がある。
だが、Forresterのアナリスト、Glenn O'Donnell氏は、他にも注目を集める半導体不足の余波があると指摘する。半導体が他の市場に与える可能性のある波及効果だ。
半導体は、パンデミックで需要が急増している一部の家電製品だけでなく、必ずしも需要が急増しているとは限らない多数の日用品にも使われており、こうした日用品も世界的な半導体不足の打撃を受けるだろう。「多くの家電製品、PC、おもちゃが同じ問題に直面するだろう」とO'Donnell氏は米ZDNetに語った。
例えばある家電メーカーは、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機などに搭載される単純なプロセッサーの確保に苦労している。
O'Donnell氏は、ドアカメラやスマートトイレなどのスマートホームデバイスも、今後のチップ不足の影響を受ける可能性があると述べた。The Washington Postによると、ペットを洗うためのブースを製造する米企業でも、ブースを稼働させるためのチップが不足しているという。
だが、最も危機的な状況にあるのは自動車業界だ。半導体メーカーがこの数カ月、自動車向けよりも単価の高い半導体をスマートフォンメーカーに販売することを選択したため、自動車業界のサプライチェーンは危機に陥った。
General Motorsは半導体不足の結果、2021年に入って北米の3つの工場すべてを一時的に停止した。Fordは投資家に対し、生産の減速が収益に影響を与える可能性があると警告した。英国ではBMWが、プロセッサー不足を理由にオックスフォードのMini製造工場での生産を数日にわたり停止した。
この問題は、製造業の中で自動車が大きな割合を占める欧州で特に、鉄鋼業界の懸念を引き起こしている。欧州での自動車生産が長期にわたり停滞すれば、鉄鋼業界に悪影響が及びかねない。
O'Donnell氏は、半導体があらゆる所で使われていることを考えると、チップ不足の二次的影響のリスクにさらされているのは、事実上経済全体だと説明する。
「現在、潜在的な二次的影響について調査している。例えば農業はハイテクになった。チップ不足のせいで農家が新しい搾乳機を購入できなければ、搾乳のコストは高くなり、それがおそらく牛乳の価格に反映されるだろう。とっぴな話に聞こえるかもしれないが、私はそうした二次的な経済的影響がありえると考える」(O'Donnell氏)
半導体の需要と供給のバランスが向こう数カ月で回復する可能性は低い。O'Donnell氏は、製品のサプライチェーンはさらに2年間は影響を受けると予想している。
半導体メーカーは当然、増産のために奮闘している。Intelは最近、欧米での製造施設拡大の一環として、200億ドル(約2兆2000億円)を投じてアリゾナ州に2つの新たな半導体工場を建設すると発表した。TSMCは増産に向けて1000億ドル(約11兆円)を投じると約束した。
政府も対処を迫られている。バイデン米政権は、半導体不足に対処するために「積極的な措置」を講じると約束した。欧州委員会のThierry Breton委員は4月末、TSMCおよびIntelの代表と会い、世界半導体市場での欧州のシェア20%達成を目標に、半導体生産を増やすという欧州連合(EU)の戦略を示した。
だが、生産能力の拡大には時間がかかる。例えば、新工場の建設には長ければ2年かかることもある。
結局、需要が減少しない限り、チップ供給への圧力が和らぐことはなさそうだ。IDCの西欧担当リサーチマネージャー、Daniel Goncalves氏は米ZDNetに対し、「供給不足の原因は、供給側というより需要側にある。部品提供には問題はない。問題は、需要が以前よりはるかに大きくなったため、生産ペースが追いついていないことだ。そのため、半導体不足の終息を予測するのは非常に難しい」と語った。
例えばPCの場合、IDCは供給不足が2021年いっぱいは続くと予測している。消費者からの発注が続くからだ。生産が追いつくのは、2022年に需要が減速する頃だ。
そして、世界的な半導体不足が続く間、消費者は発注した製品を待つ間の代替案をほとんど見つけられない可能性がある。中古を買うか、別のメーカーの製品を選ぶという代替案はあるが、確かなのは、常に在庫が豊富だと期待すべきではないということだ。
Gartnerのアナリスト、Alan Priestley氏は米ZDNetに対し、「消費者は、目的のものとは異なる製品を受け入れるか、製品を待つ必要があるだろう」と語った。
「欲しい物がすぐに手に入ると期待しないことだ。欲しい物がなければ、他のメーカーの製品や、スペックが低い、あるいは高い別の製品を選ぶことを検討するといい」と同氏は勧めた。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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