神戸市長が語る「ニューノーマル時代の自治体経営」--多様な人材で社会課題の解決目指す

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 CNET Japanは2月に1カ月かけてオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2021 〜常識を再定義するニュービジネスが前例なき時代を切り拓く〜」を開催した。ここでは、初日となる2月1日に開催されたオープニングプログラム「ニューノーマル時代の自治体経営 〜テクノロジーによってヒューマンな都市に〜」で登壇した、神戸市長・久元喜造氏の講演の模様をお届けする。

神戸市長の久元喜造氏(左下)
神戸市長の久元喜造氏(左下)

スタートアップと社会課題を解決、六甲山にスマートシティも

 全国の地方自治体の中でも常に新たな挑戦を続けている神戸市。スタートアップと行政が協働して社会課題を解決するプロジェクト「Urban Innovation KOBE(アーバンイノベーション神戸)」や、今年度はコロナをテーマに実施したスタートアップ育成プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」、介護医療とeスポーツの連携、バーチャル空間でのコミュニティ形成など、新たなテクノロジーを積極的に取り入れている。

 また、1995年の阪神淡路大震災から26年目を迎え、中心地の三宮を再整備するさまざまなプロジェクトが展開されている。並行して、自然豊かな六甲山でビジネス創出する「六甲山上スマートシティ構想」も進めており、Withコロナからニューノーマル時代に向けた働く環境づくりにも力を入れる。

 久元市長は「神戸市は大震災の被害を忘れず、基本として人間らしい都市でありたいと考えており、それがコロナ禍でさらに大事になっている」と話す。「これまでは極めて狭いエリアにたくさんの人が集まり仕事をする、東京のような高密度な空間が良しとされてきた。その価値観がコロナ禍で変わり、ゆったりした街が見直されている。感染を防ぐためのフィジカル・ディスタンスもただ距離を置くのではなく、テクノロジーで心豊かにリスクを減らす方向に向かっている」(久元氏)

 神戸市ではニューノーマル時代の新しい暮らし方・働き方として、以下の4項目を挙げている。

(1)大都会の密な空間から、豊かな自然環境へ
(2)美しい展望の中での新しい働き方へ
(3)テクノロジーによるフィジカルディスタンスの確保
(4)心豊かに過ごす環境でクリエイティブな発想を

神戸市が提案するニューノーマル時代の新しい暮らし方・働き方
神戸市が提案するニューノーマル時代の新しい暮らし方・働き方

 それらを具体化しているのが、2020年に策定された六甲山上スマートシティ構想だ。コロナ禍の前から進められていたという同プロジェクトでは、神戸市の市街地から車で約30分の距離にある六甲山上を新たなビジネス空間にすべく整備を進めている。

 1903年に日本で最古のゴルフ場「神戸ゴルフ倶楽部」が作られ、交通手段が整備されてからはレクリエーションの場として多くの保養所や山荘が建てられた山上は、バブル崩壊後に遊休化が進んでいた。それらの遊休施設等を再活用し、IT企業やクリエイターが集積する自然調和型オフィス等としてよみがえらせるとともに、テクノロジーを活用したサービスの実証実験を行う場を提供する。

 今まで採算が厳しいため民間での整備が遅れていた光回線が敷設し、特別料金が課されていた水道料金も大幅に減額した。今春には、山上で働く人たちのビジネス交流拠点「共創ラボ」として、コワーキングスペースや宿泊機能、レンタルオフィス機能を備えた「ROKKONOMAD(ロコノマド)」が開設され、今後はワーケーションの受け入れや住民とのコラボレーションも進める。

六甲山上にコワーキングスペースやレンタルオフィスを整備するプロジェクトが進められている
六甲山上にコワーキングスペースやレンタルオフィスを整備するプロジェクトが進められている

 「美しい景色や生物の多様性が感じられる場所でゆったりと過ごしながら、発想を掛け合わせ新しいアイデアを生み出す。価値観の転換で地域に新しい可能性を生み出すことは、神戸市だけでなくあらゆる地方で始まるだろう」と久元市長は言う。そこで必要になるのは人の力であり、そのための動きもすでに始めている。

 神戸市ではテクノロジーでヒューマンな都市づくりを目指している。そのきっかけは、久元市長が6年前訪れたサンフランシスコ市庁舎で、行政、企業、NPO、そして市民が一堂に集まり新しい政策を議論する姿を目にしたことにある。

 「誰もが取り残されずすべての市民が参加できる環境が用意され、テクノロジーやデータを活用した合理的な政策議論が行われていたことに驚かされた」と振り返り、そこでの学びと気づきからいくつかのプロジェクトが立ち上げられた。その1つが、スタートアップと行政が協働で市の課題解決に取り組むUrban Innovation KOBEである。

「Urban Innovation KOBE」の概要
「Urban Innovation KOBE」の概要

 Urban Innovation KOBEは、神戸市が公開する課題に対しスタートアップから提案を募集し、職員とスタートアップが協働して課題解決に取り組むプロジェクトである。募集は半年に1度のペースで行われ、年12件ほどの提案が採択されている。実証実験が成功し、継続利用されているサービスは55%にのぼる。ある事例では、紙ベースで発信していた子育てイベントにアプリを開発・導入し、参加者を1.5倍に増やすことに成功した。

Urban Innovation KOBEの実績
Urban Innovation KOBEの実績
紙ベースで運営していた子育てイベントに参加するアプリを開発し、参加者を1.5倍に増やすことに成功
紙ベースで運営していた子育てイベントに参加するアプリを開発し、参加者を1.5倍に増やすことに成功

 「本プロジェクトの一番大きなポイントは、市の仕事をするのに高いハードルであった入札や落札の原則をUrban Innovation KOBEに成功した事例については随意契約できるという道を示したことにある。役所では既存のルールを簡単に変えることが難しく、地方自治法施行令を利用してクリアした」(久元氏)

 実は久元市長は総務省時代に、この地方自治法施行令の改正に関わっていたが、すっかり失念しており、今回の利用に驚いたという。そうした今までの既成概念に囚われ、始める前からできないと諦められてしまうようなアイデアも、神戸市では積極的に実行している。

 話題になった副業人材の募集は、コロナ禍で時間と距離に関係なく仕事ができ、優秀な人材が採用できるチャンスと見て実施した。フルリモートで広報を担当する人材を募集したところ、40名の募集に1200名以上の応募があり、半数以上が県外からだった。正規職員の募集も自治体こそ多様な人材が必要と考え、主に法学や経済学部だったのをデザインやクリエイティブ関連の学部に対象に広げるためデザイン・クリエイティブ枠を新設した。また、任期付職員として外国人も増やしている。

副業人材の募集内容の一例
副業人材の募集内容の一例
副業人材の募集は1200名以上の応募が県外からも集まった
副業人材の募集は1200名以上の応募が県外からも集まった

 民間企業からノウハウを持つ人材を派遣してもらうコーポレートフェローシップも数年前から取り入れている。また、副業人材として、ヤフージャパンやジェットスターなどの大企業に勤務する方の参画もある。そうした環境を魅力と感じ、大手企業から転職した人材もいる。

「若手が自由にできる雰囲気」作りでスピードのある行政に

 カンファレス後半のQ&Aでは、CNET Japan編集長の藤井がモデレーターとなり、参加者からの質問を交えながら神戸市の取り組みをさらに深堀りした。

 神戸市では行政であれば提案を通すだけでも難しそうな、スタートアップ育成やIT企業との連携、テクノロジーの採用もアクティブに行っており、スピードも速い。実現するには市の職員もアクティブでなければ難しそうだが、そうしたマインドを役所にもたらすために組織を見直したり、久元市長が強烈なリーダーシップを発揮したりしているのだろうか。

 この疑問に対し、久元市長は「私のリーダーシップで実現できたわけではないことはまちがいない」と開口一番に述べ、「現場でさまざまな新しい取り組みが行われているのは知ってるが、事前報告することは必須とはせず、できるだけ若手が自由にできる雰囲気を大事にして、いいものはどんどんやってもらっている」と回答した。

 職員がアグレッシブに動けるのは、外部人材を多数受け入れたり、スタートアップと一緒に仕事をする機会が増えていることなども要因になっていると説明。そこからさらに新しい発想が次々生まれ、周りからの評価にもつながっているのではないかという。

 それも踏まえて、スタートアップをはじめとする官民連携のメリットと課題について尋ねた。スタートアップとの連携に関しては、まだ日が浅いこともあり目に見えるデメリットは今のところないと久元市長は答える。

 また、米国VCの500 Startupsと連携する「500 KOBE ACCELERATOR」は、過去2年は応募の3分の2以上が海外からで、参加者は必ずしも神戸でビジネスをするわけではない。そのため一部から「なぜやるのか?」と疑問が呈されることもあるとした上で、「アジア、パシフィック地域で優れた人材をどれだけ獲得できるか競争になる中で、人材を閉じこめるのではなく神戸をスプリングボードにして意識を広げてもらうほうが、長い目で見れば価値になると考えている」と回答した。

 副業採用についても視聴者から多くの質問が寄せられた。たとえば、今後も定期的に募集するのか、企業によっては有償だと応募できないためボランティア参加はできるのかといったものだ。これについて久元市長は、労働に対し対価を支払うのは前提であり、副業はそもそも所属企業が認めなければできないためボランティアは検討していないと明確に答えた。ただし、ボランティアを否定しているわけでなく、無償が当然のように思われがちな点に疑問を感じていると説明した。

 「ボランティアも大事だが、むしろこれからのコミュニティビジネスやソーシャルビジネスは、収益もあげることが継続のためにも必要ではないか。無償と有償の両方を年頭に起きながら多くが参加し、解決できる方法を考えたい」(久元市長)

 最後に同カンファレンスの共通質問である「あなたにとって常識の再定義とは?」という問いに対して、久元市長は以下のように語った。「常識の再定義とは、自分の中にある常識を疑わないことを”突き崩すこと”だと考える。これまで正しいと思って漠然としていた仕事や毎日の時間の過ごし方を、コロナによって常識が強制的に変わる中で、あらためて自覚、意識することが大事だろう」(久元市長)

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