アノマリーと帝人フロンティアは1月28日、人のモーション(動き)を知的財産化する「MOTIONBANK(モーションバンク)」プロジェクトに着手したことを明らかにした。ダンサーの動きなどをデータ化し、企業や個人への販売や権利者への収益還元を目的としたプラットフォームを立ち上げる。
サービス開始時期は未定だが、アノマリー代表取締役CEOの神田勘太朗氏は「できるだけ早く。同時進行でダンス以外のモーションデータも蓄積していく」と説明した。
アノマリーが1月20日から2日間、ダンスやスポーツを職業もしくは副業にしている111名を対象に実施した調査によれば、「自身の動きをデータで可視化したい」と回答した割合は96.4%。自身のモーションデータ販売に関心を持つ割合は95.5%。「他者のモーションデータ購入したい」と答えた割合は92.8%。モーションデータに対して価値を感じる割合は92.8%におよぶという。
神田氏は「モーションデータは価値がある。だが、サービス化しないと感想でしかない。僕らは(MOTIONBANKでプラットフォーム化を)実現したい」とプロジェクトへの思いを語る。
他方で衣類繊維事業や産業資材事業を手がける帝人フロンティアは、2010年からモーションデータを研究し、2016年末に本プロジェクトの共同検討に着手。さらに2019年1月から総合ウェアラブルソリューション「MATOUS(マトウス)」を展開している。2021年1月25日にはデジタルゴルフレッスンを実現する「MATOUS GOLF(マトウス ゴルフ)」の販売を開始した。
帝人フロンティア 執行役員 技術・生産本部長 兼 新事業開発室長の重村幸弘氏はMOTIONBANKについて、「動画によるモーションデータ作成は、複数台のカメラや設備が必要で場所が限定されるが、弊社のウェアラブルモーションセンシングを使えば、ダンスのような素早い動きも高精度で記録できる」とモーションデータの蓄積に自信を見せた。デモンストレーションで見せたモーションデータは視点を自由に変更できるため、単なる映像でステップを見まねるよりも効率性が高いように感じる。
一見するとダンスのモーションデータが著作物となり得るかという疑問が残る。2018年9月に大阪地方裁判所はダンスの著作物性を認める(通称:フラダンス事件)一方で、具体的な著作性の対象を明確にしていない。
「各業界には権利を保護するプラットフォームが存在しており、ダンス業界にも必要。弁護士に相談したところ、ダンスも著作物に含まれるが一元管理や保護する団体がない」(神田氏)とアドバイスを受けたという。そこでMOTIONBANKでは、帝人フロンティアが独自開発した動作比較アルゴリズムでモーションデータを数値化。類似する部分を点数化で判別する仕組みを採用した。
MOTIONBANKというプラットフォームを用意する背景について神田氏は、自身がダンサーであることから、「ダンサーの権利を守りたいという目的から着想した。振り付け=作品ながらも、(現状は)その場かぎりの労働対価として報酬が支払われ、ダンサーの収益化が難しい」と指摘する。
MOTIONBANKはモーションデータ売買プラットフォームとして、モーションデータを欲する企業や個人をつなぎ、データの著作権管理を担う。当面は両社が共同でプロジェクトに取り組み、収益化後に合併企業の設立なども想定しているそうだが、「たとえばプロ野球選手であれば、数年後に自身の調子を取り戻すための(モーションデータの)活用」や、「ダンスという領域を超え、スポーツなどあらゆる人の動きを知財化」することを目指しているという。
冒頭で述べたようにMOTIONBANKのローンチ時期は未定ながらも、神田氏は「最初はB2B。パートナーと協業して需要があるデータの調査と、われわれが実現したいサービスの同時開発に着手する。B2B2Cは3〜5年ほどかかるが、昨今の流れなら2年間で実現してもおかしくない」と語る。すでにモーションデータは1万4000件を超えているという。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス