創業200年のガラスメーカーが挑むオープンイノベーション--「津軽びいどろ」がスピーカーに

 創業200年のガラスメーカーが、Bluetoothスピーカー「BLUE FOREST Speaker」(ブルーフォレストスピーカー)を開発した。熟練したガラス技術を存分にいかし、新規事業を生み出すプラットフォーム「Wemake」や外部デザイナーと連携して、新たなチャレンジを形にしている。現在、GREEN FUNDINGでクラウドファンディングを実施中だ。価格は6万5780円だが、早割として3万6170円〜提供する。

「BLUE FOREST Speaker」
「BLUE FOREST Speaker」
ガラスディフューザーはオレンジ、ホワイト、グリーンの3色をそろえる
ガラスディフューザーはオレンジ、ホワイト、グリーンの3色をそろえる

 BLUE FOREST Speakerは、口径160mmのスピーカーユニットを青森産ひば材の筐体に収め、ガラスディフューザーを装着したBluetoothスピーカー。ガラスには、漁業用の浮玉製造から生まれた「津軽びいどろ」を使用し、高い透明性と美しい色合いが魅力だ。

 音を拡散する役割を果たすディフューザーは、プラスチック製などが一般的。「ガラス製のディフューザーを採用することで、音と光が広がる効果がある。ガラスにあてることで、音の厚みも増す。津軽びいどろの美しさが部屋に置いたときに際立つ」と石塚硝子 新事業・機能材料カンパニーイノベーション推進部の両角秀勝氏は特徴を話す。250mmのガラスディフューザー部は、職人による手作り。機械的な加工ではできない細かな凹凸が、リング状に配置したLEDの明かりを映し、独特の輝きで室内を照らす。

ガラスディフューザー部は津軽びいどろを使用
ガラスディフューザー部は津軽びいどろを使用

 津軽びいどろのガラスディフューザーを手掛けたのは、石塚硝子のグループ会社である北洋硝子。青森県青森市に本社を構え、青森県伝統工芸品の指定を受けている。スピーカー部の筐体にも青森ひば材を使うなど、青森産にこだわる。「津軽びいどろを使用しているので、木材も青森のものにこだわり、弘前市にある木工加工会社『木村木品製作所』に作っていただいた。ひば材は抗菌性も高く、材料として優れている」(両角氏)という。

 石塚硝子の拠点は愛知県岩倉市にあり、北洋硝子とは地理的に遠い。開発の最終段階においては、新型コロナウイルス感染拡大防止を受け、頻繁な行き来もしづらい状況になったがチャットツールやオンライン会議システムなどを活用し、作り上げていったという。「ウェブ会議システムなどのツールは2019年の段階から活用しており、コロナ下になってもあわてず開発を進められた。ただ、音やガラスづくりなどは、メンバーが現地を訪ね、実際に顔をあわせて作り上げていった。従来からのものづくりのやり方も大切にしながら作れたと思う」(寺田氏)と新旧のものづくりをおりまぜる。

 BLUE FOREST Speakerには北洋硝子や青森県の木工加工会社以外にも数多くの外部サポートが集う。企画段階でWemakeを活用しているほか、音響設計はOEM製品の設計などを担う国内メーカーが手掛け、デザインユニットの「"akii"」がデザインを担当。「一昔前に比べて外部との共創はやりやすい環境が整っている。私たちはガラスメーカーとして、硝子や容器の製造に長けているが、音響製品を作るのは今回がはじめて。足りない部分は外部の方の知見をお借りしながら開発した」とオープンイノベーションを進める。

 長崎で硝子と出会い1819年に創業した石塚硝子は、ガラスびん、ガラス食器、紙容器、プラスチック容器、セラミックス製品の製造販売を手掛ける総合容器メーカー。しかし2013年に代表取締役社長に就任した石塚久継氏は「時代の環境変化に対応した事業構造を作っていけるように新しい挑戦をしていく」ことを掲げ、新事業・機能材料カンパニーを設立。現在、研究開発部、機能材料部、イノベーション推進部の3つがこのカンパニーに所属する。

 BLUE FOREST Speakerはイノベーション推進部が、オープンイノベーションを軸に開発した第1弾商品。電化製品ブランド「Glas+(グラスプラス)」を立ち上げ、ガラス家電に取り組む。プロジェクトリーダーを務める両角氏をはじめ、予算関係を引き受ける寺田雅文氏、SNS周りと今回のクラウドファンディングを担当した宇多健吾氏、片江文氏を、新事業・機能材料カンパニー社長の下宮尚己氏が束ねる。

左から、下宮尚己氏、宇多健吾氏、両角秀勝氏、片江文氏、寺田雅文氏
左から、下宮尚己氏、宇多健吾氏、両角秀勝氏、片江文氏、寺田雅文氏

 開発開始から、今回のクラウドファンディング実施までは実に3年の月日を費やした。「社内からのプロダクトアウトのみだった商品開発をオープンイノベーション軸に変えるため、2018年にWemakeに参加してアイデアを募った。コンセプトの仮説検証を進める中で、『これは無理』と諦めたコンセプトがほかにいくつもあった。その中でBLUE FOREST Speakerは、生き残ってきたもの。長い時間がかかっても途中で諦めようとは思わなかった」と両角氏はこの3年を振り返る。

 BLUE FOREST Speakerのコンセプトに決定してからも、現在の形になるまでには多くの紆余曲折を経ている。「電球のように全体を硝子で覆った形も考えたが、ガラス部分が重すぎて実用的ではないと却下になった。LED部分も眩しすぎたり、音も納得の行くものではなかったりと、想像以上に時間がかかってしまった。ガラス製品や容器であれば、知見が社内に蓄積されているので、新製品でも形にしやすいが、すべてが新しい取り組みであるガラス家電は、とにかく大変だった」(両角氏)と続ける。

 BLUE FOREST Speakerは、クラウドファンディングで支援を募ると同時に「蔦屋家電内の次世代型ショールーム『蔦屋家電+(ツタヤカデンプラス)』に商品を展示し、リアルなユーザーとの接点も用意する。「30代以上のインテリアに興味を持っている男性というユーザーを想定していたが、蔦屋家電+では女性の方からも反応をいただいている。クラウドファンディングでは、青森から九州まで全国からご支援いただけているのもうれしい」(両角氏)と、実際に形になって、ユーザーとの接点を持った感想を話す。

 「右も左もわからない状態でイノベーション部に配属され、このプロジェクトに取り組んできた」という4月入社の宇多氏は「実際に形になったものをみると、自画自賛だが『うわ、いいものできちゃったな』という感覚。この質感は写真で伝わらない部分もあるので、ぜひ蔦屋家電+で実物をみていただきたい」と手応えを話す。

 老舗ガラスメーカーが取り組んだオープンイノベーションとして、順調な立ち上げに見えるBLUE FOREST Speakerだが、その背景には「このままではいけない」という強い危機感があったという。下宮氏は「石塚硝子は食器や器、ペットボトルなどに特化して事業をしてきた会社。BLUE FOREST Speakerのような製品は全く知見がない。しかし事業ポートフォリオは変化させていかなければならない。開発には苦労したが、これは当然のこと。世の中のスピードが早くなり、新型コロナ感染など、状況が一変してしまう事態もでてきた。周りの感性が変わって行く中で、それについていけるかどうかが会社に求められている。一方、ものづくりの会社であってもOEMであったり、ファブレスになったりと事業構造も変化している。時代に即したものづくりにチャレンジしていかなければいけない」と説く。

 BLUE FOREST Speakerを第1弾として世に出したばかりのGlas+ブランドだが、すでに第2弾の商品も控える。ガラスヒーターの技術を活用した透明なガラス製保温プレートの開発も進んでいるという。

ガラス家電「Crystal Warm Plate」は2021年クラウドファンディングを開始する予定
ガラス家電「Crystal Warm Plate」は2021年クラウドファンディングを開始する予定

 「ガラス家電のプロジェクトとしてスピーカーができたのは大変感慨深い。それと同時にものづくりの難しさを痛感している。第1弾で終わらせず今後も新しい価値を届けていきたい」と両角氏は今後を見据える。寺田氏は「Glas+ブランドでなければ表現できないものがある。今後においても外部の方と協力しながらやっていきたい」と共創の姿勢を貫く。

 片江氏は「石塚硝子が手掛ける事業はBtoB領域がメインで、消費者の方と接点が持てるBtoCの事業としてもGlas+に期待している。クラウドファンディングを実施することで、いろいろな方からどんな風にこのプロダクトが見られているかを意識しながら、今後も開発を進めていきたい」と、新たなビジネス展開を目指す。

 「もっとガラスの特性をいかし、世界中の人にガラスを通して感動を届けたい」と宇多氏が話す通り、石塚硝子イノベーション推進部が作り出すガラス家電は、ガラスの新たな可能性を秘めている。

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