ライフルとツクルバが目指す新時代の働き方--制約からの解放とオフィスの再定義 - (page 2)

これからの時代の“共在感覚”を生み出す鍵はSNSにあり?

 2人が議論したテーマは「これからの働き方がどうなるか」、そして「オフィスを再定義するとどうなるか」の2点。まず「これからの働き方」について中村氏は、新型コロナウイルスの脅威が今後続いても、あるいは去ったとしても「今の(テレワーク中心の)働き方でよくないか」と考える企業が増えていると話す。テレワークという新しい選択肢が生まれたことにより、「いろんな選択肢をどう編集していく(選択していく)のかが各企業に問われている」と語った。

 ツクルバ自身も現在は3割程度の出社率。在宅勤務となって定時の概念がなくなったことで、「働き方、生き方、暮らし方の境目がなくなった」ことを実感している。従業員のなかには、日中は育児で仕事にならず、夜間の方がはかどるという人もおり、「人それぞれ、いろいろなスタンダードができて、ニューノーマルというよりマルチノーマルみたいな状況になっている」とした。

ツクルバ 代表取締役 ファウンダー 中村真広氏
ツクルバ 代表取締役 ファウンダー 中村真広氏

 一方のLIFULLは、コロナ禍以前から週2日間までは一部の社員に限り在宅勤務を許容していた。かつて北欧での社会実験において、週2日の在宅勤務が最も生産性が高くなるという結果があったことから決めたものだったが、現在は週4日間、もしくは育児・介護などの事情があれば週5日間の在宅勤務が可能になっており、出社率は5~10%と低い。この春に上京した新入社員のなかには、リモートワークに切り替えるとして実家に再び戻った人もいるとのこと。それでも全体的に明確な生産性の低下は見受けられないことから、井上氏は「(週2日間というのは)なんだったんだろう」という疑問が頭に浮かんだことも正直に吐露していた。

 加えて井上氏は、今回の新型コロナウイルスが、これまで人間が縛られていた「場所・時間・お金」という3つの制約から解放されるきっかけにもなったと語る。たとえば仕事場所である都心から遠く離れられないために、好きな環境で暮らすのは難しい、と悩んでいた人も少なくないはずだ。しかし、「コロナの影響で一気にその“蓋”が取れた」。実際に郊外の広い家を買い求める動きも活発になってきているという。

 さらに「VRなどのテクノロジーも進化している。最初は視覚を再現するだけだったのが、匂いや味覚を再現する研究も進んでいる」として、そうした時間や距離を超えるテクノロジーが新型コロナウイルスをきっかけに今後より発展していくのではないかと見ている。テクノロジーによって「時間・場所・お金の制約を解放したほうが、働き方や暮らし方における幸福度は上がる」というのが井上氏の考えだ。

 それに対して中村氏は、「時間と空間が非同期ななかで、“共在感覚”をテクノロジーでどう生み出すか」という課題を投げかけた。従来のオフィスは社員らが時間と空間(場)を同期させる、つまり全員が同じ状況を共有することで一緒にいる体験・感覚を生み出していた。それによって効率的に仕事でき、新しいアイデアが生まれることもあったかもしれない。

 ところが、テレワークでは時間は共有するものの空間は共有しないことになる。さらに時間も場も共有しない働き方になれば、共在感覚は失われ、生産性の高い業務の遂行が困難になる可能性もある。これをテクノロジーの力で解決することはできないだろうか、というのが中村氏の問いだ。

 時間と空間が非同期で、人々が一緒にいる感覚をどうやれば作れるのか。中村氏は、京都大学の木村大治教授の研究内容を引き合いに出して解説した。アフリカのとある民族には、人通りのまばらな村の広場で何げないことを大声で話し続ける「ボナンゴ」と呼ばれる文化があり、その“投擲的発話”が村の人々の間で共在感覚を生み出していると考えられるのだとか。中村氏は、“投擲的発話”という意味では「SNSもそうだと思う」と述べ、現代のコミュニケーションのあり方が共在感覚を呼び起こす手法の1つになる可能性を示唆した。

企業のアイデンティティを象徴する提灯で本社を“持ち運ぶ”

 続いてのテーマは「オフィスを再定義するとどうなるか」。企業がオフィススペースを縮小する動きが出てきているなか、中村氏のツクルバ自身もオフィスの床面積を半分にカットして「新しい働き方に合わせてチューニングし直しているところ」でもある。しかしそれでも、本社オフィスは「企業のアイデンティティが表出する場」だとして、中村氏は必要との立場をとる。

 「アイデンティティが表出する“象徴”としての場所」は必要。しかし「(ビルとして)固定されているのは使い勝手がよくない」と同氏。そこでツクルバでは自社ロゴの入った「提灯」を作り、それを「移動型オフィスの象徴」とする実験を始めているという。「チームで合宿するときに自社ロゴ入りの提灯を持って行けば、そこが僕らの場所になる。サーカス団みたいに本社を持ち運べる」と斬新なアイデアを披露する。

 井上氏はこれに大いに共感したうえで、LIFULLでも本社オフィスは「創発のコミュニティの場、イノベーションラボ」として位置付け、「チームの一体感をつくる双方向のコミュニティ性」を指向する場所になると断言する。いずれ「出社がレアなこと」になれば、出社日はいわば「晴れの日」、オフィスは「お祭りの会場」であると考えられるようになると述べ、「お祭り」に中村氏の考える「提灯」を関連付けた。

 そのように働く場所、働き方の選択肢が増えてきているなかで、今までになかった障害や課題に直面することもありそうだが、中村氏は「一番の障害は(ネット環境などの)インフラではなく、人々の認識の部分ではないか」と指摘する。働くにあたって個人個人が「こうあるべきという既成概念で自分を縛っている」ところもあると述べ、「それを取り払えば(新しい働き方が問題なく)できる」とする。

 自然に囲まれた環境で自由な働き方をしている事例を目にして、自分もそういう働き方をしてみたいと思っても、多くの人は二の足を踏むもの。そこで「一歩踏み出す勇気があるか」が既成概念から脱却する人とそうでない人との差になってくるとし、「一度踏み出してみれば普通になるのに」と、迷っている人に向けてアドバイスを送った。

 井上氏も、前に進むことを「恐れることはない」と強調する。同氏が特に障害になっていると考えるのは「経営者のマインド」であり、「Beforeコロナの状況に戻ろうとする経営者、理由もなく出社しろと言う経営者、ベースアップもせず、一時金もなく、自分でなんとかしろと突き放す会社」については、従業員が果たして「そういう会社で働き続けるのか」と疑問を呈する。今後は「会社が従業員に選択される側になる」流れが加速し、コロナ禍を機に「進化させようとする会社と、元に戻そうとする会社の2極化」が進むだろうと予言した。

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