シャープは、2021年3月期第1四半期(2020年4~6月)連結業績を発表した。売上高は前年同期比0.4%増の5172億円、営業利益は37.8%減の90億円、経常利益は44.1%減の77億円、当期純利益は36.6%減の79億円となった。
シャープの社長兼COOの野村勝明氏は、「新型コロナウイルスが販売面で影響したものの、中国の生産拠点をはじめ、サプライチェーンは早い段階でおおむね正常化し、売上げ、利益は、2019年度第4四半期から回復し、最終損益が黒字化した。ビジネスソリューション事業は、オフィス閉鎖が続いた影響で、商談や機器の設置が進まなかったことに加えて、プリントボリュームが低下したため、本体、サプライともに落ち込んだが、それ以外の各事業の業績は着実に回復している」と総括した。
なお、新型コロナウイルスの影響は、売上高で約590億円、営業利益で約160億円になったという。
セグメント別業績では、スマートライフの売上高が前年同期比1.9%増の1845億円、営業利益は2.1倍の134億円。「ASEANの白物家電などは、新型コロナウイルスの影響を受けて減収となったが、デバイス事業などが増収。原価力向上につとめた成果が増益につながっている。全社全体で利益重視に取り組んでいる効果が出た」としたほか、「国内では電子レンジ、空気清浄機などが大きく伸びている。4月は洗濯機が苦戦したが、5月以降は洗濯機、冷蔵庫も伸びている。掃除機も5月以降伸びている。白物家電は利益で貢献し、デバイスの赤字もなくなった」と語った。
8Kエコシステムの売上高は前年同期比1.7%増の2671億円、営業利益は前年同期の65億円の黒字から49億円の赤字に転落した。「ビジネスソリューションはオフィス閉鎖などの影響を受けた。完成品のテレビは、国内では増収となったが、中国などで減収となった。ディスプレイデバイスは、PCやタブレット、スマホ向けの販売が増加したが、車載向けが減収。プロダクトミックスが悪化した」という。
薄型テレビは、海外は厳しかったが、国内は巣ごもり需要が伸長して黒字化。ブルーレイレコーダーも好調だったという。だが、ビジネスソリューションは赤字、車載向けディスプレイも赤字になったという。
ICTは、売上高が前年同期比8.2%減の883億円、営業利益が39.4%減の44億円。「通信が前年同期には6月に新製品が出たものの、今年度はそれが下期になったことが影響して落ち込んでいる。通信事業、Dynabookは黒字になっている」という。
一方、2021年3月期通期の業績見通しは、売上高は前年比3.5%増の2兆3500億円、営業利益は55.4%増の820億円、経常利益は26.0%増の700億円、当期純利益は138.6%増の500億円とした。同社はこれまで、新型コロナウイルス感染症の動向を予測することが困難な状況であったとして、通期見通しを公表していなかった。
野村社長兼COOは、「業績予想は、新型コロナウイルスの終息時期を見極めることが困難であるため、各国での経済活動の正常化が、段階的に進んでいくことを前提に策定した。当社のサプライチェーンはおおむね正常化していることから、販売面での制約が緩和されれば、本業は回復する見込みである。引き続き、財務体質の改善も進める」と述べる。
「新型コロナウイルスの流行や、米中貿易摩擦は継続しているが、業績は回復基調であり、第1四半期の最終損益も黒字化している。2020年度は環境の変化に対応し、業績の回復、財務体質の改善、株主価値の向上に取り組む。ニューノーマル時代においても業績を残し、しつかりと社会に貢献できる企業を目指す」と語った。
また、「2020年度は、新たな中期経営計画がスタートする1年であったが、新型コロナウイルスや米中貿易摩擦により、事業環境が大きく変化。新たな事業推進体制のもと、それに向けた対応と次期中期経営計画に向けた基盤固めに注力する1年にする」と位置づけた。
シャープでは、2019年度までの3カ年を、次の100年に向けた事業変革として、「Transformation」に取り組んできたが、2020年度の1年間を、次の中期経営計画に向けた準備、移行期間とし、「Transition」をテーマに業績回復と事業体質の強化に取り組む考えを示した。また、次期中期経営計画は、2021年度から2023年度までの3カ年として策定する考えを示し、「Realization」をテーマに、事業ビジョンの具現化に取り組むという。
「8K+5GやAIoTを軸に、さまざまな製品、デバイスを創出するとともに、サービス、ソリューション事業の強化、グローバル5極体制の構築に取り組み、財務体質の改善も図る。事業環境の変化への対応、将来の成長に向けた種まき、積み残した課題の早期解決に取り組むことになる」と述べた。
なお、2021年度からの次期中期経営計画については、「新型コロナウイルスの影響などを見極めて上で、2021年度が始まるまでに公表したい」としている。
2020年度のセグメント別の業績見通しは明らかにしなかったが、その方向性については言及した。
スマートライフは、売上高は前年比微増、利益は4割の成長を見込む。「白物家電の成長と、デバイスの赤字からの脱却を想定。清潔や健康意識の高まりや巣ごもり需要により、空気清浄機やエアコンのほか、健康家電や調理家電の需要拡大が見込める。9月以降はスマートライフ関係のAIoT機器の販売強化を考えている。現在、シャープ製マスクなどを取り扱っているECサイトでの販売も伸ばしたい」とした。
8Kエコシステムは、売上高、利益ともに前年比2桁増の成長を計画している。「各国で新型コロナの影響が緩和すると見ており、在宅勤務の需要、コンビニ関連需要、オフィスのスマート化、テレワーク化支援といったITソリューションでの成長を期待している」とした。
また、ディスプレイデバイスは、「顧客の需要に機敏に対応したい。PCやタブレット、医療機器向けディスプレイ事業を強化。スマホ向けディスプレイはシェアアップを目指す」とした。また、テレビについては、日本で有機ELテレビを発売したことなどに触れ、「しっかりとビジネスを伸ばしたい」と語った。
ICTは、売上げ、利益ともに増加する見通しで、「GIGAスクール構想をはじめとして、教育分野向けのビジネスに徹底的に対応し、新規商材の販売強化を進める。Dynabookは、テレワーク需要と、教育分野のIT化に向けて、ハードウェアだけでなく、サービス事業の強化も図りたい。スマホについては、ミッドレンジの強化に加えて、下期は、5Gの販売強化を進める予定である」とした。
2020年度の主な取り組みについては、「新しい生活様式が求められるなど、事業環境が大きく変化しており、保有するリソースを活用して、生活様式の変化に貢献するとともに、これをビジネスチャンスと捉えていく」などとした。
白物家電やテレビでは、巣ごもり需要に対応し、ホットクックやヘルシオデリ、8Kや4Kなどの高付加価値テレビなどに注力するほか、健康意識の高まりにあわせて、プラズマクラスター搭載製品を積極的に訴求。PCでは、テレワークの拡大や業務のIT化、GIGAスクール構想などの国内外の教育ICT化に伴い、PCやタブレット、大型タッチディスプレイなどにより、需要を取り込むという。
通信分野では、2020年度下期以降、5Gサービスに対応したスマホやルーター、タブレットの伸長を計画。ビジネスソリューションでは、厳しい状況が続くものの、オフィス需要は緩やかに回復していくと見込んでおり、テレワーク需要などに向け、COCORO OFFICEや無人化ソリューションなどを展開していくことになる。ディスプレイでは、テレワークや教育ICT化の進展に伴う需要を取りこむことで、タブレットやPC向けの中型パネル、大型タッチディスプレイ向けパネルなどが伸長すると予測。また、COCORO STOREなどのメンバーシップビジネスも強化していくという。
会見では、2020年6月からスタートした新事業体制についても説明。今後は、戴正呉会長兼CEOが海外を、野村社長兼COOが国内を担当。スマートライフ、8Kエコシステム、ICT、ASEAN/オセアニア/米州/欧州、中国を5人の専務執行役員が担当する執行体制を新たに敷き、「戴と私が全社戦略の構築を担い、5人の専務が事業、地域戦略の構築に特化して、One Sharpの総合力を高めていく」と語った。
一方、8月5日付で、ディスプレイ事業を分社化し、シャープディスプレイテクノロジーを設立したことについては、「IGZOなどの優れた技術を持っており、次世代ディスプレイへの投資を加速するなかで、外部資金の導入、他社との機動的な協業が行いやすくすることを狙った。今年度業績への影響は軽微である」としたほか、ジャパンディスプレイの白山工場の取得については、「詳細は差し控えたい」として進捗状況には触れなかったが、「特定顧客からの要請があったこと、一部上場企業として日本社会への貢献につながること、液晶のリーディングカンパニーとして、次世代のディスプレイへの展開につながるといった観点から検討を進めている」と述べた。
また、カメラモジュール事業の分社化については、「5月に発表した通り、2020年度中の分社化を目指して検討をしている」とした。
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