初対面もオンラインが当たり前に--信頼関係を会う前に築く「リモートトラスト」の重要性

角 勝(フィラメントCEO)2020年06月01日 08時00分

 「もうやめたー、世界征服やめたー。今日のごはーん、考えるのでせいいっぱーい」

 こちらは、僕が好きな「相対性理論」というバンドの「バーモント・キッス」という曲の一節です。ビジネス系メディアなのにいきなりなんだと思われた方も多いと思います。僕が今回、なぜこの歌詞の引用から入ったのか、それは今、まさにこんな状況にある会社も多いと思ったからです。

 というのも、この図をご覧ください。

キャプション

 これは僕のコロナ以前と以後のコミュニケーション相手ごとの時間占有率のイメージを可視化したものです。これをみると、プライベートな部分を除けば、顕著な気づきは以下の3点です。

プラス要因

  • 自分と向き合う時間は増加している
  • 即時性の高い業務時間は確保できている

マイナス要因

  • 即時性の高くない業務時間が限りなくゼロに近づいている

 ここで僕が気になったのはマイナス要因の方。「即時性が高くない業務に時間が割けていない」ということは、未来の仕事につながる可能性をつくれていないということ。まさに「今日のごはーん、考えるのでせいいっぱーい」な状態。経営者としては由々しき事態です。

 緊急に役員会議を招集してこの点について話し合いました。そこで出た対抗策は以下の3箇条による「リモートトラスト構築」作戦でした。

(1)既存の信頼関係を掘り起こす
(2)ギブファースト意識を徹底する
(3)信頼関係を可視化して、検索可能にする

 (1)から順に説明していきます。

 テレワーク中心になると、新しい「ランダムな出会い」がなくなります。ランダムな出会いは可能性の塊です。新しい人に出会うのが難しいのであれば、すでに信頼関係ができている人と旧交を温めるところから入るのがセオリー。しかも、テレワークで人と会えなくなっているのはみんな同じです。

 今なら普段忙しくしている人や、ステータスが高めでちょっと連絡するのに気後れしてしまうような人でも、皆さん家に居ますし、普通だとあまりないような短時間のアポも入れやすいのでコンタクトをとるハードルは下がります。しかも、ビデオ会議であれば、移動するコストもかからないので、実際に連絡してみると、ほとんどの方が快くアポを受け入れてくれます。

 アポが取れるとやるのは「雑談」です。といっても、こちらが話すよりも相手の話を聞くことが大事。人間は雑談をすることで思考の余白をつくっていくものです。雑談がなくなると目の前の切迫した事柄に対処する思考が連続し、フラストレーションの温床となります。

 なので、(2)のギブファーストの精神で、相手の話を聞くことによるフラストレーションの緩和を心がけます。すると、今の相手の悩みがいろいろ見えてくるものです。聞いてあげるだけでも十分に信頼関係のメンテナンスと深化の役割は果たせるのですが、たまに「あ、あの人を紹介してあげたらいい解決策を持ってるかも!」というアイデアがひらめく時もあります。

 そういう時は、ぜひ紹介してあげましょう。その時、自分の利益を考えてはいけません。あくまでギブファーストの意識でいきましょう。実際にそういう「ギブファーストな繋ぎこみ活動」をやっていくと、何割かは実際にプロジェクト化されて、事業として実を結ぶこともあります。

 こちらにある神戸市と出前館の連携、奈良市と出前館の連携は、「ギブファーストな繋ぎこみ活動」がほんの少しお役に立った事例です。でも、これらの成果は(当然のことながら)フィラメントがすごいということが言いたいわけではなく、アクセスポイントが豊富なフィラメントの強みを自覚し、積極的に提供しようという意思を持つことが重要であるということを、たまたま身をもって理解した事例としてあげさせていただきました。

 あと、ちょっとでも世間のお役に立てたという実感は社員の幸せに直結します。そんな幸せな気持ちにしてくださった関係者の皆様には感謝しかないです。

 そして、(3)の「信頼関係を可視化し、検索可能にする」。これは既存の信頼関係を可視化しておくことで、今、信頼関係が構築できていない人たち、友だちの友だち的な、信頼関係の隣接領域にいる人たちへの橋頭保を築いていく行為になります。

 まだ会ったことがない人と初めてオンライン上で会うとき、その時にはすでに信頼関係が構築されている状態。それがリモートトラストの理想的な状態です。そのためには相手が僕たちのことをふと目にすることがある状態を作らなければなりません。そして検索した時には、オンラインのあちこちに埋め込まれていた我々の価値を示すエビデンスがいくつもヒットするーーそういう状況をつくろうというものです。

 (3)の「信頼関係を可視化し、検索可能にする」の施策として具体的に何が効果的だったのか、そこについては次回お話しさせてもらいたいと思います。

連載第5回に続く

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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