朝日インタラクティブが2月19日に開催したビジネスカンファレンス「CNET Japan Live 2020」。今回は、「企業成長に欠かせないイノベーションの起こし方」をテーマとし、新規事業開発を成功に導く組織作りを中心に、新規事業の先駆者たちが、ナレッジやビジョンを披露した。
そのなかで、「新規事業開発を進化させる4つの視点〜鳥の目・魚の目・虫の目、そしてAIの目〜」として、リクルートに在籍しつつ、自然言語処理を活用した「言葉のAI」で、組織を進化させるプロダクトを提供するストックマークCCOの岩本亜弓氏が登壇。新規事業開発で直面する課題と、それに対してどのようなアクションを起こすべきか、2社での経験をもとに語った。
まずは、リクルートの社員の立場として、新規事業開発のポイントを解説。「よく『リクルートは、なぜ新規事業開発が得意なんですか?』という声を耳にします。実は、『Ring』という新規事業開発コンテストを、約40年にわたって続けています。全従業員が応募でき、年間1000件が起案されます。その中から審査を通過した一部の事業が実際に事業化されますが、新規事業開発のポイントは個人の力ではなく組織の集合知のおかげなんです」。
リクルートでは、「事業を見立てる」、「事業を仕立てる」、そして「事業を動かす」の3つのステップで、事業開発を進めていくという。
この3つのステップは、多くの人が頭では理解していることかもしれない。しかし、実際にはうまくいかず悩んでいるケースが多いことだろう。それは、事業開発の仕組みが変わっているわけではなく、世の中が変化しているからだという。
「時代はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)な世界だと言われています。昨日起こったことが当たり前になっていたり、1週間前の出来事も、ものすごく速くアップデートされたりするのが当たり前。そんな世の中で、何を大切にするのか、どう進めていくかが大きなポイントになってきます」と岩本氏は訴える。
事業開発の起点とは「世の中の、負(不)」だという。世の中がもっと良くなるにはどうすればいいのか。そのために誰のどんな負を解決すべきなのか。ものすごく時間をかけて考えることが重要だ。そして、その負が解決されたときに、どんな価値が見いだされるのか。これはとても難しい課題だが、「まずはシンプルに、この世の中の負を解決したときに、どんな世界が待っているのか考えてほしい」と岩本氏は語った。
そしてもう1つ重要なのが、儲けを探すこと。これら3つを回すことが、新規事業を生み出すいちばんの近道となるが、回していくうちに難しい課題に気づくという。「儲けを考えると、もともと解決したかった負から離れたり、その負を解決しようと思うと本当の価値がわからなくなります。このため、仮説と検証を何度も何度も行ない、個人だけではなく組織の集合知として解決する必要があるのです」(岩本氏)。
そのときに必要になってくるのが、鳥の目、魚の目、虫の目の3つの視点だ。鳥の目は、物事を俯瞰して見ること。魚の眼は、川の流れを読むようにマーケットやトレンドを読むということ。そして、虫の目はマーケットをミクロな観点で見ることだ。新規事業開発がうまくいっている企業は、この視点の集合知にあると岩本氏は言う。
リクルートの場合、勉強会だけでなく、自分が考えている事業計画をほかの人に壁打ちをし、相談することを頻繁に行っている。個人の知識を、どのように展開し社員と共有していくのか。そうした共通の解釈にしていくことを集合知という。
「HOT PEPPERやゼクシィ、カーセンサーなどは従業員が起案したビジネスです。これらは、いまやリクルートの基幹事業にまで発展していますが、まだまだあまり知られていない新規ビジネスもたくさんあります。常にたくさんの事業にトライし、たくさんの事業が失敗しています。しかし、やり続けるのは意味があります。それは、ここで失敗したことが、意味を持って新しい財産になるからです。その財産をもとに、また新しいトライができます」。
こうしてリクルートでは、多くのイノベーションが生まれてきたのである。
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