LIFULL、「OPEN SWITCH」始動--社会課題を解決する新規事業創出へ

 LIFULLの社内向け新規事業提案制度「SWITCH」が、「OPEN SWITCHアイデアピッチコンテスト」(OPEN SWITCH)として、新たな取り組みを始めた。社内外を問わず広くアイデアを受け付け、入賞するとLIFULLとの協業のほか、ビジネス面や設備面でのサポートを提供。子会社化やジョイントベンチャーの設立、出資といったイグジットも用意する。

 長く社内向け制度として提供してきたSWITCHの新展開をなぜこのタイミングで始めたのか。LIFULLが目指す新規事業とはどんなものなのか、LIFULL 社長室 事業開発アクセラレーター責任者である今村吉広氏に聞いた。

LIFULL 社長室事業開発アクセラレーター責任者の今村吉広氏
LIFULL 社長室事業開発アクセラレーター責任者の今村吉広氏

 SWITCHは、LIFULLが取り組んでいる社内制度の1つ。年間100件以上の応募があるなど動きは活発で、高齢者向けの住まいを探すことができる介護施設検索サイト「LIFULL介護」や花の定期便サービス「LIFULL FLOWER」など、すでに事業化、子会社化も実現している。

 「社内制度として10年以上続けてきたSWITCHをさらに加速させたいと思った。LIFULLのコーポレートメッセージである『あらゆるLIFEを、FULLに。』を実現するためには、社内だけでは埋められないピースがある。ここを埋めるには社外からも広く新規事業を受けつけるべきだと考えた」と今村氏はOPEN SWITCH開始の背景を話す。

 LIFULLは不動産・住宅情報サイト「LIFULLHOME'S」で知られるように、不動産が中核事業。そのため、不動産やその周辺領域の事業アイデアは出てきやすい環境にある。しかし、LIFULLが目指す「あらゆるLIFEを、FULLに。」を実現するには、より広い事業領域に向けたアイデアが必要。「より自分ごととして、社会課題を感じている人に、社外含め海外の方までご一緒していきたいと考えている」(今村氏)と、目的を明かす。

 OPEN SWITCHでは、SDGsの17の目標いずれかに合致するものを事業領域の対象にしており、なかでも「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「働きがいも経済成長も」「住み続けられるまちづくりを」の6つを重点領域に位置づける。その理由を今村氏は「社会課題の解決を軸にした時に、SDGsは我々が目指す世界観を網羅しており、理解も得やすい。中でも今回は具体なシナジーが見出せる領域を重点として選定した」と言う。

企業間の連携、他社との共催なども視野に入れて取り組みたい

 7月から応募を受け付け、8月4日に募集を締め切り。その後、書類審査を経て、ピッチ審査会には11組が臨んだ。「初回ということもあり、大々的に募集したというよりは、口コミで広めていった。テーマに親和性が高い企業の方に直接お声がけもさせていただいた」(今村氏)とのことで、最終的に31件の応募があった。

「OPEN SWITCHアイデアピッチコンテスト」
「OPEN SWITCHアイデアピッチコンテスト」

 個人、法人の割合は約半分ずつで、応募者は学生、企業の代表者、会社員などさまざま。LIFULL社内からの応募は社内向け「SWITCH」の兼ね合いもあり、今回はいなかったとのことだ。

 社内向けSWITCHは、応募のハードルを低くするため、ジャストアイデアでも受け付けることが特徴だが、OPEN SWITCHについては、初回ということもあり、事業ビジョン、顧客と課題、ビジネスモデル、想定されるハードルなどの必須項目を用意。基準を満たすもののみを選出していった。

 「クオリティの幅が広いなというのが印象。必須項目はあるものの、その項目をしっかり埋める人もいれば、ラフな形で提出してくる方もいる。企画書だけでは判断しづらいと感じるものがある一方で、すでに顧客を獲得するなど、ビジネスモデルを構築しているものもあった」と今村氏は書類選考を振り返る。

 書類選考には、LIFULL社長室のスタッフのほか、ベーシック チーフストラテジーオフィサーユニコーンファーム CEOの田所雅之氏、machimori 代表取締役の市来広一郎氏、NPO法人atamista プロジェクトマネージャー/経営・人材コンサルタントの今井仁志氏が参加。メンターも務めた。

ピッチ審査会には審査委員として、LIFULL 執行役員社長室長の筒井敬三氏、machimori 代表取締役の市来広一郎氏、NPO法人atamista プロジェクトマネージャーの今井仁志氏が登場した
ピッチ審査会には審査委員として、LIFULL 執行役員社長室長の筒井敬三氏、machimori 代表取締役の市来広一郎氏、NPO法人atamista プロジェクトマネージャーの今井仁志氏が登場した

 「OPEN SWITCHの実施にあたり、新規事業開発におけるコンサルティング、インキュベーション支援などを手掛けるRelicと熱海の地方創生を担うmachimoriの2社にご協力いただいた」(今村氏)とサポート体制も敷く。

 machimoriは、熱海の中心市街再生のための事業を担う会社。ビルの共同管理や飲食店、宿泊業経営などを手掛けるほか、遊休不動産などのリノベーションも担当する。

 「LIFULLでは、地方型シェアサテライトオフィスと宿泊施設を持つ共同運営型コミュニティ『LivingAnywhere Commons(LAC)』を始めるなど、地方創生にも積極的に着手している。その一環もあり、地方に向けた広がりも持たせていきたい。今回、東京からの距離感なども含めて、machimoriにご協力いただいた」(今村氏)としており、8月29日には協業プラン相談会として、ピッチ審査会に進出した9組(2組は欠席)とともに熱海に赴き、地元の人と話したり、観光地としての現在の姿に触れたりする機会を設けた。

 今回、最優秀賞などは設けず、入賞すると、最高1000万円の資金提供とLIFULLのアクセラレーターによるサポート制度を提供。「LIFULLと協業していただけることが目的なので、入賞数の制限は設けていない。通常こうしたピッチイベントは、応募した会社同士のつながりが薄くなりがちだが、熱海で共同の協業プラン相談会があるなど、応募者同士でもコミュニケーションを図り、新たなビジネスにつなげてもらいたい」(今村氏)と、企業間での出会いにも期待を寄せる。

 社内向けのSWITCHとは棲み分け、OPEN SWITCHは開かれた新規事業提案の場として今後も継続していくとのこと。今村氏は「今回は5月末から開始し、6月に企画を固め、7月に募集開始と、スピード感を持って対応した。OPEN SWITCHは社内のスタッフに対しても良い刺激になるので、当面は社内向け、社外向けとして並行して動かしていきたい。次回以降は、LIFULL1社だけでなく、趣旨に賛同いただける企業とともに、共催することも視野に入れている」とすでに、次回の構想も広げている。

最終ピッチ審査に選ばれた11社

  • 医師、看護師との連携も含めた高齢者見守りシステムの提供(五十嵐淳哉氏)
  • 遠隔システムを用いた摂食嚥下リハの普及(村上雄基氏)【入賞】
  • 訪日FIT(海外個人旅行)向け地方での滞在型旅行の普及に適したITツールの提供(方嘉靖氏)
  • LIFULL Study(Eldor Samanov氏)
  • Cleform(梅村里奈氏)【入賞】
  • フードロスの削減と世界の課題を解決する社会貢献型プラットフォーム(坂入ちか氏)
  • 物件用投函資料のメディア化(橋本一幸氏)
  • 田舎インターン(豊田浩作氏)
  • FamMus - 家族+ムスリム(アラビア)人観光客向けのマーケットプレイス(Burkhanov Saidakhror氏)
  • 気軽に始められ、気楽にやめれる月額制ガーデニングサービス(鈴木淳史氏)
  • VANHOTEL(塚崎浩平氏)【入賞】
9月9日に開催されたピッチ審査会の様子。5分のプレゼン後、5分の質疑応答の時間が設けられた
9月9日に開催されたピッチ審査会の様子。5分のプレゼン後、5分の質疑応答の時間が設けられた

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