——東京には「ヒト・モノ・カネ」が揃っていますが、福岡はまだ十分とは言えません。VC立ち上げの際に不安は感じませんでしたか。
そうですね。でも、僕自身があまり考えずにやる方なので、「まずはやってみよう」と思い起業しました。設立当初は、まず広報と発信に注力しました。プレスリリースもその1つですが、イベントを実施することで人を巻き込み、SNSなど日々発信することで自然に人が集まります。そこでは特にコミュニティ形成を意識しました。
初回のTORYUMONは2017年3月開催ですが、それまでも定期的に福岡市を巻き込んだイベントや記者会見を開いたり、福岡市のキーマンを相手にしたパネルディスカッションを企画したりしていたので、比較的スムーズに福岡のスタートアップエコシステムの中心地に入れたと思っています。
当初から福岡に起業家が少ないことは想定していましたが、TORYUMONなどのイベントを開催していると、熱意を持ちながらも起業する方法が分からない方達が集まってくれるので、東京にいたとき以上に“求められる”感覚が強かったですね。同じ地元ですから、元からのつながりも少なくありません。やはり、東京から地方へいきなり出向くと村社会的な抵抗感もあるかと思いますが、僕自身が福岡市出身ということもあり、歓迎ムードで出迎えていただきました。
——福岡ならではの魅力を挙げるとしたら何でしょうか。
1つは規制緩和です。直近だと「Lime」や「Bird」といった海外発の電動キックボード企業が、福岡市内にある大学の跡地を使って実証実験をしています。国内や海外のスタートアップを呼び込んで、東京では難しい実証実験を積極的に実施するのは福岡市らしいですね。また、福岡市はバス移動が多いので、気軽に移動できるシェアサイクルの「メルチャリ」などもかなり重宝されています。
スタートアップと法規制の関係性を鑑みると、国内のイノベーションを抑止する法律が多数存在します。それを打破できる風土や文化を持つ福岡市の存在は大きいですね。2010年から市長を務められている高島さん(福岡市長の高島宗一郎氏)が掲げた"スタートアップ都市"の影響も大きいと思います。
別の視点で福岡市を見ると、「アジアのゲートウェイ」を目指せる潜在能力を備えています。台湾の企業とMOU(基本合意書)を結んだ連携やスタートアップ支援、韓国企業とのピッチコンテスト開催などさまざまな事例も生まれています。その他にも、エストニアやフィンランド、ボルドーなどの行政や、サンフランシスコの企業とも連携協定を結んでいます。各国のスタートアップ都市との連携を深め、福岡市の起業家が海外へ、もしくはその逆の流れを作るグローバルな環境構築を進めています。
福岡市は(外国人の福岡での創業を促進するため、外国人が必要とする経営・管理の在留資格の認定要件を緩和する)「スタートアップビザ」を2017年度から実施しています。スタートアップが成功に至るまでには5〜10年を必要とするため、現時点で成功事例は少ないものの、海外の起業家が集まりやすい地域になっていますね。
あとは、登山者向けにGPSで現在位置を提供し、SNSなども連携させた「YAMAP」など自然に関わる福岡らしいスタートアップが存在するのも特徴です。ほかには、ECでしょうか。昔から通信販売事業社が多い関係で、ECや物流系スタートアップがいくつか散在しています。ただ、全体を俯瞰すると、スタートアップ企業の種類は、東京と変わらないと思います。
最近は福岡市でも、ファンドが増加し、支援者側の体制は整いつつありますが、起業家の絶対数が少ないのは課題の1つだと感じています。また、確かにファンドやお金の出し手は増えていますが、若い起業家と同じ目線で伴走しながら事業創造を支援する「ベンチャーキャピタリスト」がもっと福岡に増えることが重要だと思っています。
——起業家の数が少ない理由の1つは、やはり東京への一極集中と言えそうですが、その点はどう考えますか。
僕も一度は東京に出ていたので両都市のメリット・デメリットは十分理解しています。確かに、東京には優秀な人が集まっているので、地方から東京へ行って、日本トップクラスの起業家や投資家と出会う機会は、自身をアップデートするためにも欠かせません。福岡市だけでは視野が狭くなってしまいますから。僕自身も月半分は東京に行くようにしています。
とはいえ、現在はSNSでも情報収集できますし、MaaSの進化によって移動による精神的・金銭的コストも低下してきています。自動運転が普及すれば、気軽に地域移動も可能になりますし、東京に住まないライフスタイルが訪れるのは時間の問題でしょう。
最近は、福岡市のスタートアップが天神(福岡市中央区の繁華街)あたりに密集しています。僕も市内を歩いていると起業家と出会うことも多くなってきました。スタートアップ関連のイベントも天神周辺で毎日のように開催されています。スタートアップが密集することで、ノウハウの共有が容易になってきています。気軽に0→1の話ができる環境は非常に恵まれていると感じますね。
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