“聴診器”をデジタル化すると何が変わるのか--シェアメディカル代表に聞く

 「約200年ぶりのイノベーション」とも言われる聴診器のデジタル化ユニット「ネクステート」。これは、聴診器のイヤーピースとゴム管の代わりに搭載して聴診器から聴診した音をデジタル化すると言うもの。既にドクターが愛用している補聴器に取り付け、アップデートできる製品だ。

黒いユニットがネクステート。チェストピースは聴診器のものをそのまま利用する。外形寸法42×20×50mm(幅×奥行き×高さ)は、重量は42g
黒いユニットがネクステート。チェストピースは聴診器のものをそのまま利用する。外形寸法42×20×50mm(幅×奥行き×高さ)は、重量は42g

 Bluetoothを使ったワイヤレス通信が可能なので、Bluetooth対応のスピーカーやヘッドホンなどに送信して聴診した音を聞ける点が特徴だ。連続使用時間は約4時間、充電時間はおよそ1時間。

 聴診データをデジタル化することで、データとして保存・共有が可能となり、医療系学生への教育・研鑽、遠隔地の診療などが期待できる。

イヤーピースを使用しないので長時間の聴診でも耳が痛くならない。また、スピーカーに送信すれば複数の人と音が確認できる
イヤーピースを使用しないので長時間の聴診でも耳が痛くならない。また、スピーカーに送信すれば複数の人と音が確認できる

 聴診の音をスピーカーに出力するというと、例えば、妊娠中の胎児の心音を聞く「ドップラー聴診器」のようなものが存在している。しかし、「胎児心音の場合は、音が聴こえるかどうかがポイントなので、音が出力されることが大切です。しかし、聴診器で聞くようにスクリーニングに使うとなると、音の大きさだけでなく、音の質も重要です。音質や音の高さなども含めて正確にスピーカーで出力するのが難しいんですよ」と、ネクステートの開発に携わった道海秀則医師は言う。

 そこで、同製品の開発販売を行う医療ベンチャーのシェアメディカル 代表取締役社長の峰啓真氏に、開発のポイントと今後の展開を聞いた。

シェアメディカル 代表取締役社長の峰啓真氏
シェアメディカル 代表取締役社長の峰啓真氏

--聴診器デジタル化ユニットのネクステートを開発する過程で、最も苦労された点を教えてください。

 最終的な調整に苦労しました。聴診器で聞いている音をそのまま届けるというのが、クリアしなくてはいけない点でした。

 実は、聴診の音というのは、部位によって音の高さが異なるんです。例えば、心臓は10ヘルツから40ヘルツ程度ですが、肺の呼吸音や腸が動く音はもっと高い音域です。

 また、正常な時には分かりませんが、何か疾患の兆候があるときには「湿った音」「乾いた音」など、ちょっとした変化があらわれるのだそうです。ドクターが聴診器で聞いている音をそのまま出力することが大切なんです。ムダにカットしてはいけないし、余計な音を追加してもいけない。一方で、必要な音はより聞きやすくしたい。シンプルゆえに難しいポイントでした。

 開発当初は、ワイヤレスにしたことでノイズが入り、そのノイズがある心臓疾患固有の音に似ているという指摘を受け、調整しました。こうして、一つ一つドクターの声を聞きながら現場のドクターが満足する音を出すように改良していった点が強みであり、苦労した点です。

 音響機器メーカーと組んで開発をしているため、サウンドテクノロジーの知見はあるものの、医療に関してはわれわれは素人です。医療現場での使用に耐えるツールにするため、1ヘルツ単位で微妙な調整を行ない、ドクターが納得する音の実現を目指してきました。

 「ネクステート」HB-01では、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)を搭載し、生体音をリアルタイムで補正し心音や肺の音などを聞き取りやすく強調処理をしています。

--デジタル化するということは、音をBluetoothで受診するスピーカーやヘッドフォンの性能の影響もうけるということでしょうか。

 そうですね。本機に興味を持ったドクターからは出力デバイスに関する質問をされることも多いのですが、心臓の音が10ヘルツということを考えると、重低音がしっかり聞けるタイプのヘッドホンをオススメしています。

 集団検診の場など、少しざわついた環境での使用も想定し、本機にはノイズリダクション機能を搭載していますが、ノイズキャンセリング機能を搭載したヘッドフォンを使うことで、より聞き取りやすくなります。

--ワイヤレスになったことによるメリットは、ほかにもありますか。

 最近の聴診は、特に女性の患者さんに対して、衣類の前を開いて聴診するのではなく、衣服の裾をたくし上げて聴診器をあてることが増えています。そうなると、ゴム管が長いタイプの方が使いやすいのですが、今度は聴診したい部位と距離ができていまします。ワイヤレスですと、そうした距離の影響を受けませんし、衣類の裾がゴム管にひっぱられて持ち上がりすぎることもありません。

 獣医師の方からの問い合わせも増えています。実は全国的に獣医師の数は足りていないのですが、競争馬など徹底した健康管理が必要な産業動物は少なくありません。本機を使えば、飼育員の方がネクステートをあててデータを送信し、獣医師は遠隔で診療ということも可能です。

--獣医師からの問い合わせとなると、防塵・防水への対応も必要ですね。

 そうですね。さまざまな環境での使用を考えると、防塵・防水は検討するほかにも、各診療科ごとに必要な音は違うので、診療科ごとの専用モデルも考えられると思います。

--身体にあてるチェストピース部分はドクターが使用している聴診器のものをそのまま使用するのですね。

 はい。このチェストピースは「医療機器」の分類になります。医療機器の販売をするには、人材や管理面などでさまざまなリソースが必要になるので、ベンチャーが取り組むにはハードルが高くなります。しかし、チェストピースをそのまま使用すれば、ネクステートの部分は従来の聴診器のゴム管と同じで消耗品扱いになります。

手のひらサイズでポケットなどに入れて持ち運びしやすい。今後は冷たさを感じない素材の採用や、新生児医療現場などでの使用も見込んで小型化するなど、さまざまなアイデアを検討中だ
手のひらサイズでポケットなどに入れて持ち運びしやすい。今後は冷たさを感じない素材の採用や、新生児医療現場などでの使用も見込んで小型化するなど、さまざまなアイデアを検討中だ

--もともと、ネクステートは、「集団検診などでずっと聴診していると耳が痛い」というドクターの困りごとから着想を得たとのお話でした。そういう悩みはグローバルでも共通のものだと思いますが、競合他社の状況はいかがですか。

 市場には、デジタル化に注目した電子聴診器はあるのですが、イヤーピースをつけた従来の形態そのままです。そういう意味ではプロダクトアウトなものづくりをされている分野ともいえるでしょう。他社との違いは、われわれがドクターへのヒアリングを徹底した行なうマーケットインでものづくりをする点ですね。

--デジタル化するということで、医療関係者への教育やオンライン診療への期待もかかります。

 聴診行為というのは、診断ではなくスクリーニングです。ドクターは患者に対する際、顔色や歩き方などの観察、聴診、そして触診などを通して、頭の中で患者の疾患をおおよそ絞り込みます。この見立てを間違えると、その後に行なう検査行為が無駄になることもあります。そのスクリーニングを正しく行なうために、聴診行為は大切です。いろいろな環境で誰でも使えるスクリーニングツールにするというのは、ポイントです。

--今後の展開について教えてください。

 ドクターの皆様と話していると、熟練のドクターの方の反応がいいですね。「耳が痛い」「加齢により音を聞き取りにくい」といったお困りごとを既に実感している方が多いこともありますが、今使っているものをアップデートすることに対して、期待を持っている方が多い印象です。価格はオープン価格で、市場想定価格は5万円前後で考えていますが、それについても前向きな反応を得ています。先日問い合わせをいただいたドクターは、本機と一緒に使うヘッドフォン選びを楽しんでいらっしゃいました(笑)。そういう意味では、医療現場への導入は好印象に受け止められているように感じます。

 今後の課題で考えられるのは、データの扱いでしょうか。聴診データを集めて評価する際、果たして音だけでいいのか、ほかの要素が必要なのかなど、データを分析してみてから分かることもあるでしょう。どのようなデータをとっていくのか含めて、既存の診療プロセスの中にどう組み込んでいくかが課題です。

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