NetflixやSpotifyといったコンテンツサービスから、飲食サービス、高級腕時計にまで広がりを見せるサブスクリプションの波だが、ついにカメラの世界にも到達した。それが、カメラブが展開する「GooPass」というカメラ機材に特化した定額レンタルサービスだ。
サービス開始は2018年11月。GoProやエントリーの一眼レフをはじめ、フラッグシップを含むハイエンドクラスのデジタルカメラ、単焦点から各種ズームレンズといった交換レンズ、各種ドローンなど、550種類以上の機材を取りそろえる。価格(すべて税別)は機材のランクに応じて、ライトプランの5800円、スタンダードプランの9800円、プレミアムプランの1万7800円、プロプランの2万9800円から選択できる。
カメラ機材のレンタルサービスは、数日から長くて1カ月と短期間を想定したもの多く、エントリークラスだと数日で5000~6000円、ハイエンド機材だと1万円を超える場合も多い。また、一つの機材に対してのレンタルのため、機材を借りるごとに料金が発生する。GooPassは、特定の機材を長期間使えるほか機材交換の制限もなく、すべて定額で利用できる。機材の在庫は、ヤマト運輸のロジスティクス向け倉庫に保管されており、ユーザーからオーダーを受けると、倉庫から直接ユーザーの元に配送される。
最も人気なのは、1万7800円のプレミアムプラン。20万円はくだらない「大三元」と呼ばれる高性能ズームレンズのほか、ハイエンドの単焦点レンズ、ソニー「α7III」、ニコン「Z 6」、キヤノン「EOS R」といった各社の主力モデル、「DJI Mavic 2 Zoom」などのドローンも選べる。他社のカメラを気軽に利用できるため、「キヤノンユーザーはソニー製品を好む」「ニコンユーザーはペンタックスのレンズに興味がある」といったユーザー動向も確認できているという。
こうしたユーザーデータをもとに、カメラメーカーとも連携を進めている。例えば、「特定の撮影シーンでどの焦点距離が好まれているか」といった傾向が把握できるため、メーカーから商品開発に役立てたいという声もあるようだ。さらに、コアなカメラファンが多いことから、発売前の機種の体験会やユーザーミーティングを開催するなど、ユーザーとメーカーのコミュニティ形成にも一役買っている。
そもそも、嗜好(しこう)品の部類にあるカメラとサブスクリプションの相性だが、想像以上に良好だとカメラブ代表取締役の高坂勲氏は語る。「プロカメラマンが仕事で使う機材を調達したい」「気になっていた機材を片っ端から試してみたい」「最新機種をいち早く使ってみたい」といったケースが主流。さらに、使ってみて気に入った機材を最終的に購入するユーザーも多く、高坂氏は「借りるだけでは終わってほしくなく、買いたいと思ったものは買ってほしい。それがカメラ業界の持続的な発展につながる」と語る。カメラ好きにとっては、“沼加速サービス” といっても過言ではないだろう。
これだけサブスクリプションが浸透してきているなか、なぜ今までカメラのサブスクリプションサービスが存在しなかったのだろうか。高坂氏に聞くと、「マーケターの経験があるフォトグラファーがあまりいなかったのでは」と語る。高坂氏はもともと、ウェブコンサルティング企業で12年ほど営業、経営企画、上場準備、メディア運営などを担当。5年前から趣味としてカメラを始め、フォトグラファーとして仕事を受けるまでにのめり込んだという。
「フォトグラファーがさらに活躍できる未来を作りたい」という想いから、まずカメラ人口を増やすべく、ニーズはあるものの国内であまり存在していなかったカメラのサブスクリプションサービスの立ち上げを決意。これまでの領域であるウェブマーケティングの受託事業を請け負う形で、2017年にカメラブを創業。シードマネーは外部調達せず、メディア運営の利益をもとにGooPass用の機材をコツコツそろえていった。現在は、映像クリエイター集団によるブランディング映像制作サービスや、“インスタ映えスポット”の検索サービスも手がける。
今後は、フォトグラファーとのマッチングサービス「camelove」を提供予定。シンプルな撮影依頼から、フォトグラファーによる撮影スキル講座、穴場の撮影スポット巡りといった、フォトグラファー自身がツアーなどを考案して提供することもでき、それぞれの個性を生かした撮影から体験までの幅広いニーズに応える。また、人材が薄い地方のフォトグラファーもネットワーク化。出張撮影や旅行時の記念撮影などにも利用しやすいサービスを目指す。
高坂氏は、「花見の時期に感じたのが、写真をスマートフォンで撮る人の多さ。せっかくの楽しい思い出を近くのフォトグラファーに撮ってもらうぐらい、コンパクトにマッチングするプラットフォームが作れたら」と述べる。高坂氏曰く、「目指すは“カメラ版Uber”」としており、「(フォトグラファーの)機材から仕事まで我々から提供したい」と構想を語った。
カメラ機材は高額であり、まとまった数の在庫を揃えるにはスタートアップでは難しい。そこで、同社では新生銀行グループの総合リース企業「昭和リース」と6月21日に事業提携。実際の機材調達を昭和リースが担当し、カメラブがレンタルする形となる。リース契約の場合は、毎月一定額を昭和リースに支払う必要があるが、レンタル形式のため取引ごとに支払う形となり、コストを圧縮できるという。
昭和リースが事業提携を結んだ背景として、カメラニーズの高さが決め手になったという。昭和リース側のメリットとしては、レンタルの方が手数料を高く設定できるほか、カメラ機材は価値が目減りしにくく、高額な機材でも回収できると判断したようだ。
さらに、社内で新規事業部門を抱えており、他社とファンドを組成して出資したり、楽天LIFULL STAYと民泊で提携するなど柔軟性の高い事業戦略が特徴だという。こうした背景から事業提携に至ったとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」