タフツ大学の科学者らがさまざまな変性疾患の治療に取り組むため、幹細胞を利用して、試験管の中で3Dの脳を開発した。
タフツ大学が主導するチームが米国時間10月18日に述べたところによると、中枢神経系のヒト組織培養モデルは3Dで脳の機能と構造の両方を模倣し、「何カ月にもわたって神経活動を続ける」という。
この研究に関する論文は、学術誌のACS Biomaterials Science & Engineeringに掲載された。論文では、3D脳組織が9カ月以上生存できる仕組みが説明されている。
研究では絹タンパク質とコラーゲンから成る3Dマトリックスに、アルツハイマー病やパーキンソン病などの疾患を煩う患者や、他の健康状態の人から採取された細胞を追加した。
脳の神経回路網が成長、発達、変化するにつれ、研究者は組織の経過を追うことができるという。
通常、人の神経組織は患者の死後にのみ採取できるのに対して、このたびの3D組織モデルは、皮膚などの試料から作製できる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用している。疾患がどのように脳に影響を与えるかの経過を観察できる実例があれば、変性疾患をはるかに深く理解できるようになる。
サンプルが長い期間活動を続けることが、疾患の進行経過を追い、アルツハイマー病やパーキンソン病のような疾患の指標を発見する鍵となる。こういった疾患を早期発見できれば、より効果的な治療も可能になる。
研究者らはアルツハイマー病やパーキンソン病などの疾患を患う患者以外に、健康な人から採取した試料から作製した組織モデルも試し、「患者から採取した試料から脳組織モデルを生成できるようになる可能性を示す、双方で同様の成長や遺伝子発現も観測した」と述べている。「これは病状の初期段階のバイオマーカーの発見に使用できる可能性があり、早期診断の支援や疾患の進行の理解向上に役立つ」と研究者らは述べている。
研究チームが述べるところによると、脳組織モデルは正常な細胞から作製することもできるため、脳と神経回路網が通常どのように機能し、心的外傷がどのように器官やその作用に影響するかをより深く理解できるようになるという。
人工培養された脳は、今後、変性疾患に取り組むための治験の代わりになる可能性もある。生きている患者に新しい治療を試す代わりに、脳組織モデルに薬物を注入し、治療に対する反応を実験室で観察できるかもしれない。
「健常者の細胞とアルツハイマー病やパーキンソン病の患者の細胞のどちらを使っても、3次元組織モデル内の神経回路網の成長は持続していて、一貫性がある。これはわれわれが異なる病状を研究するうえで信頼性の高いプラットフォームになり、細胞に起こることを長期的に観察できるようにもなる」と筆頭研究者であるWilliam Cantley博士は述べた。
今後、研究者は先進イメージング技術を導入したり、異なる細胞型を取り入れたりしながら、このモデルがもたらす機会をさらに探求する意向だという。
この研究は米国の国立衛生研究所と、その傘下にある国立生物医学画像・生物工学研究所、国立神経疾患・脳卒中研究所の支援の下に行われた。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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