日本商品に特化した中国越境ECプラットフォーム「豌豆公主(ワンドウ)プラットフォーム」を運営するInagora(インアゴーラ)は6月25日、元カルビー代表取締役会長 兼 CEOの松本晃氏を社外取締役に迎えたことを発表した。ジョンソン・エンド・ジョンソンやカルビーなど、グローバル事業を展開するメーカーで長年にわたる経営経験を持つ松本氏の力を借りて、越境ECの課題解決に向けた事業戦略を構築するとしている。
Inagoraは、キングソフト会長の翁永飆氏らが2014年12月に設立した企業。同社が運営するワンドウは、中国ユーザー向けの商品の翻訳、物流、決済、マーケティング、顧客対応など、中国越境ECに必要な全工程を担うプラットフォームだ。日本企業はInagoraの日本国内の倉庫に商品を送るだけで、同社の物流網によって中国の消費者に届けることができる。また、100以上の中国人気SNSやインフルエンサーと連携して、情報を拡散できることも特徴だ。
翁氏によれば、2015年8月にリリースした中国消費者向けの越境ECアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」は400万ダウンロードを突破。また、P&Gや日清食品、コーセー、EDWINなど約2600ブランド、約4万の商品を取り扱っている。流通総額は毎年5倍以上成長しており、2018年は5月時点で2017年の年間流通額に迫る93億円に達しているという。通期では400億円を目指すとしている。
この1〜2年でユーザー層にも変化があると翁氏は話す。1つ目は「ユーザーの低年齢化」。既存のユーザーは20代中盤から後半が多かったが、現在は20代前半へとシフトしているという。中国で1995年以降に生まれた比較的裕福でインターネットも使いこなす“目の肥えた”若年層が、大手ブランドよりもニッチなロングテール商品を買うようになってきているためだという。
そして、2つ目が「ユーザーの地方都市化」。従来は都市部が中心だったが、ユーザーが地方都市にも広がってきているという。その要因について翁氏は、中国の地方都市の経済水準が従来よりも上がっている一方で、情報が行き届いておらず、現地の店舗でも商品数が少ないことから、豌豆公主などの越境ECサービスを使うようになってきているのではないかと分析した。
同社は2017年11月に伊藤忠商事、KDDI、SBIホールディングスから約76億5000万円の資金を調達しており、創業から約3年での累計調達額は123億5000万円となる。また、2018年6月には、世界で通用するスタートアップ企業を生み出すことを目的とした経済産業省のプログラム「J-Startup」のロールモデルとなる企業100社にも選ばれた。3月には中東への越境ECも開始している。
翁氏と松本氏が初めて出会ったのは2017年10月。Inagoraの社内向け講演を松本氏に依頼したことがきっかけだったという。その後、松本氏がカルビー会長を退任することを知った翁氏は、2018年4月に松本氏に社外取締役になってもらえないかと打診。5月に改めて会食をした際に「快諾していただけた」(翁氏)と振り返る。なお、両氏には伊藤忠商事出身という共通点もある。
松本氏は「ここ3年くらい中国ビジネスに取り憑かれていた」と話す。約3年前に、カルビーのシリアル「フルグラ」がスーパーの店頭でいつも売り切れているというクレームがあり調査したところ、フルグラを買い占めて独自ルートで中国向けに販売していた越境EC業者がいることが分かったという。当時、日本から中国へのフルグラの輸入は禁止されていたが、それでも「2016年度のフルグラの売上げは290億円で、そのうちの60億円分くらいは中国に流れていた」(松本氏)。これをきっかけに中国市場や越境ECに興味を持つようになり、過去1年間で2カ月に1度のペースで中国を訪れていたという。カルビー会長退任と同時に翁氏からアプローチを受け、同社への参画を決めたと振り返った。
カルビー会長の退任後、松本氏のもとには数多くの企業から打診があったそうだが、その中で選んだのが、プライベートジムを展開するRIZAPグループと、Inagoraの2社だった。この2社に共通するのは「(経営者の)若さ、明るさ、笑顔の可愛さ」だと話す。なお、RIZAP創業者の瀬戸健氏は40歳、Inagoraの翁氏は48歳だ。
松本氏は「やっと若い人たちが日本でも少しずつ出てきてくれた。年寄りばかりがやっていると日本経済はよくならない。われわれはサポート役に徹して、若い人が日本を支えないとだめなんじゃないか」と語り、急成長する2社の若き経営者に期待を寄せた。
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