ナチスの暗号機「エニグマ」誕生から100年--解読までの道のり - (page 2)

Laura Hautala (CNET News) 翻訳校正: 編集部2018年03月21日 07時30分

単純な機械から生み出される複雑な可能性

 Enigmaの機能に関するBaldwin氏の控えめな説明にだまされてはいけない。デモの場に現れた同氏のオレンジ色のネクタイには、Enigmaの仕組みを説明する回路図がプリントされていたが、それを見てもEnigmaの仕組みの複雑さは推測できた。この機械は内部の設定に基づいて暗号を生成するが、その解法はとてつもない数が考えられる。解法の数は、全部書き出すと1パラグラフくらいの長さになるはずだが、だいたい「3.3掛ける10の114乗(3.3 x 10^114)」になるという。この数は、観察可能な宇宙のなかに存在する原子の総数(推定値)よりもさらに多いとBaldwin氏は指摘した。


ある特定の暗号に対して、天文学的な数の解法が考えられる。
提供:Laura Hautala / CNET

 Ralph Simpson氏という熱心なEnigmaマニアは昨年、筆者に次のように語っていた。もし10万台のEnigmaの機械をつくって配り、受け取った人たちがそれぞれ1日24時間、週7日間休みなく働いて新しい設定を1秒ごとにテストしたとしたら、機械を使わずに「生成される暗号を解読するには、宇宙の歴史の2倍の長さの時間が必要だろう」。また、ナチスドイツがEnigmaの設定を1日に1度変更していたと、Baldwin氏は説明した。さらに、ドイツ軍では部隊ごとに独自の設定を使っていたため、結果的に毎日約30通りの暗号が作り出されることになった。

 暗号の解読方法を見つけ出そうとする人間にとって、これは「ブレッチリーパークでEnigmaの暗号解読方法がいったん見つかれば、あとはどこでも暗号化されたメッセージを解読できる」とはいかないことを意味したとBaldwin氏は述べた。「それは大戦中を通じて夜ごとに繰り返される戦いだった」(同氏)。

 Enigmaはそんな膨大な数の組み合わせの可能性を、基本的には3つのローターとプラグボードだけで実現している。その仕組みは具体的には次のようなものだ。例えば、キーボードで「P」のキーを叩くと対応する電気信号が生じ、それぞれ26本のワイヤーが仕込まれている3枚のローターを経由してランプボードまで流れる。この時ランプボード側で点灯するのは「J」という文字かもしれない。そしてもう一度「P」のキーを叩くと、一番目のローターが回転して、配線が組み替わり、電気の流れる経路が変わるため、今度は同じ「P」のキーを叩いても、ランプボードで点灯するのは「F」のような別の文字になる。

 それぞれ回転するローターが3つあるため、例えばユーザーが繰り返し「P」のキーを叩いた場合、Enigmaが生成するランダムな文字列は1万9500キーストローク以上にならないと繰り返さないものになる。そして1941年にドイツ海軍がUボート用のEngimaに4つめのローターを加えたことで、ランダムな文字列の長さは約45万7000キーストロークに増加した。

 そして、オペレーターから見てキーボードの手前にあるのがプラグボードだ。このプラグボードのおかげでEnigmaのランダムさがさらに増しているが、これは元々ドイツ軍の兵站に関わる問題に対処するために考えられたものだった。Enigmaでは理論上403セプティリオン(septillion、10の24乗)の設定が可能だが、実際には1枚のローターは8通りの設定のうちのどれかしか使えないように配線されている。そして、戦場で3つのローターの組み合わせを変更するというのは、ドイツ軍が将校や兵士に要求できないほど大変な作業だったとBaldwin氏は説明した。このプラグボードのおかげで特定の文字に対するローターのアウトプットを変更することができ、外側から(ローター自体には触れずに)その組み合わせを変えることが可能になった。

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