アドビシステムズは11月28日、クリエイティブプラットフォーム「Adobe Creative Cloud」のフォントライブラリ「Adobe Typekit」において、同社が独自に制作した「貂明朝」を追加した。また、Typekitのサイトリニューアルにともない、「Typekit ビジュアルサーチ」が日本でも利用可能になった。
貂明朝は、伝統的な明朝体に手書きの特徴を加えたフォントで「可愛い」と「妖しい」の2要素をコンセプトに日本らしさを追求した。最新の常用漢字、人名用漢字を含む漢字が約6500文字、イタリック体を含む欧文が約2100文字、かな・シンボル・約物などが約500文字。貂明朝では、従来の日本語フォントよりも幅が広い欧文グリフを含んでおり、プロポーショナルフォントと全角フォントは同じデザインになっているため、詰めデータを利用すると全角でも同じ見え方になるという。
同フォントをデザインした西塚涼子氏(アドビシステムズ 研究開発本部 日本語タイポグラフィ タイプフェイスデザイナー)は、「可愛らしくもあるが妖しい雰囲気がコンセプト。『明朝で可愛くて妖しいってどういうこと?』と社内でも言われた。鳥獣戯画、妖怪百鬼などの可愛らしさ、妖しさ、日本的伝統のイメージがいりまじったもの」と説明。「文字に置き換えて、筆でどう表現するか、江戸のかわら版にあるような木版画、浄瑠璃、寄席文字からインスパイアを受け、伝統的フォルムをベースに丸みを帯びた可愛い明朝体ができた」とした。
もともと“カッコよさ”を持つ明朝体を、可愛く妖しい雰囲気に仕上げるのには苦労したという。同氏は、「可愛いと明朝の品位を両立するのに苦労した。バランスを良くするとカッコよくなる。バランスを崩そうとすると下手な明朝体になってしまう。明朝体に可愛さをもたせるのは難しいと悩んだ。一度イメージに戻り、うねり・太さなどを含め、キュートではなく伝統的な明朝体のフォルムにすることで完成した」という。
貂明朝の名前の由来について西塚氏は、小説「御命授天纏佐左目谷行」を引き合いに出し、動物ではない妖怪がおりなす物語・文章にマッチするような明朝体を作りたかったという。同小説が編集者から「てんてん」と呼ばれていたことから、明朝体製作時も「てんてん明朝」と読んでいたという。そこから、動物的であること、難しめの漢字を使うことで妖しさを出すために「貂」という文字を採用したという。
西塚氏は、貂明朝開発時にコンセプトを説明するために4種類のキャラクターを描いている。そのキャラクターが社内で人気が出たため、異体字として4種のキャラクターが入力できるようになっているほか、指差し文字にも毛皮や爪のようなアクセントが追加されている。SVGのカラーグリフも提供予定だ。
Typekitビジュアルサーチは、調べたいフォントの写真を撮影し、Typekitに読み込むことでTypekit内にある1万の欧文書体の中から近しいものをピックアップする機能。同社のスマートフォンアプリ「Adobe Capture CC」で搭載された機能と同じものがブラウザ上でも利用できるようになった。
なおアドビでは、パシフィコ横浜で同日に開催している国内最大のクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX Japan 2017」の基調講演でも、貂明朝を紹介している。
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