2029年を舞台にした「攻殻機動隊」の世界観の実現可能性を目指す「攻殻機動隊REALIZE PROJECT」と神戸市が連携し、人工知能(AI)の研究とその実現性をテーマにした『攻殻ユニバーシティ』が開催された。4人の“Dr.攻殻”による特別講義の中から、AIとビジネスをテーマにした九州大学名誉教諭の村上和彰氏の講義を紹介する。
村上氏はAIの活用を考える注意点として、「普通は今ある製品やサービスと掛け合わせる方法を考えるが、それでは改善程度で本質まで変えられない。イノベーションを持続することで業界構造まで変革するような方法を考えるべき」と言う。
AIやIoT、自動運転自動車といったテクノロジが社会に浸透する日はそう遠くないことから、「それらを前提にビジネスだけでなく社会システムを再発明する必要がある」ともしている。
AIによって変革がもたらされる「人工知能破壊」には事業領域、業界構造、社会構造の3つがある。そして、「人工知能破壊を起こすには50の方法」があるとし、その中から以下の5つが解説された。
AIの機能はここ数年で大きく変化し、昔は演繹的推論がベースで求める機能の30%程度しか実現できなかったが、現在は帰納的推論で深層学習(ディープラーニング)を生かすルールを見付けたことから活用が進んでいる。今後は仮説的形成推論ができるAIで人間ができなかった仮説を立てられるようになり、今はまだない製品やサービス(のアイデア)を組み合わせることで新しい顧客価値が創造できるようになるとしている。
収益モデル設計の参考例として、スタートアップのNestとOpowerが紹介された。
NestはIoT搭載の家庭用サーモスタットを開発で注目されたが、デバイスではなく、そこから独自の方法で情報を集積し、電力会社に売る収益モデルを確立して成長し、Googleに買収された。Opowerは電力使用量を解析してエネルギー削減を提案するサービスで独自のアルゴリズムを開発し、東京電力提携の日本法人もあるが、最近Oracleに買収されるなど成長が期待されている。
いずれも社会が省エネに向かう流れを読み、これまでにないサービスを開発したことが成長要因になっている。
ビジネスそのものも従来の競争型から発想を変え、競争そのものを無意味にする市場空間を開拓するシェアリングエコノミー化が始まっている。スマートシティ構想の中にシェアリングエコノミーを取り入れる動きは世界で始まっており、所有するという従来の定義や枠組みや定義は変わりつつある。それにあわせた社会システムの再発明は必要不可欠であり、税金を集めて行われる従来の行政サービスのあり方も根底から変える必要が出てくるかもしれないという。
「攻殻機動隊の世界のような変革がまさにこれから起ころうとしているが、それを起こすのは人であり、若い世代にとっては課題である」という村上氏は、「常に変わる答えを考えるより問いそのものを考え、解決策より討論を続けることが大事だ」と講義をしめくくった。
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