2015年に日本に上陸した米国発のコーヒーブランド「ブルーボトルコーヒー」。焙煎してから48時間以内のコーヒー豆のみを販売。バリスタが客の目の前で、1杯ずつ丁寧に淹れてくれるハンドドリップのコーヒースタイルが人気を博し、日本では東京の清澄白河、青山、新宿、六本木、中目黒、品川の6店舗を展開している。
昔ながらのハンドドリップを大切にしていると聞くとアナログな印象を持ってしまいがちだが、実はブルーボトルコーヒーは、さまざまな最新のテクノロジを活用しているハイテク企業だ。創業者であるジェームス・フリーマン氏に、テクノロジがブルーボトルのコーヒーにもたらす価値や、MIT出身の研究者と共同開発した新たなドリッパーへのこだわりを聞いた。
クラリネットも1800年代に作られたある意味でテクノロジだと思っています。そのテクノロジがあったからこそ、ストラビンスキーなどのいろいろな音楽が奏でられています。そういう意味では、昔から大切にしてきたものと現代をいかにつないでいくかというところで、テクノロジはさまざまな形で生きています。私のキャリアとしては、あまり(テクノロジと)コネクションがないように感じるかもしれませんが、すごく離れたところにいるとも思っていません。
また、私はサンフランシスコで働いていますが、店舗で並んでいる人がコーディングやファンディングの話をしていることもしょっちゅうで、自分がテクノロジと離れられない環境にいると感じています。自宅では子どもがいるので、極力PCに向かう時間を短くしたり、電話はベッドルームに持っていかないようにしています。それでもスマートフォンは最新のiPhone 7を持っていますし、バッテリ付きのケースをつけているので、四六時中デジタルに接していると言われても仕方ないかもしれません(笑)。
実は店舗ではさまざまな機器を導入していますが、来店するお客様がそれを知る必要はないと思っていますし、私たちはあくまでもハンドドリップにこだわっています。ただ、その一方で、それらの機器を使うことで圧倒的にコーヒーの味が変わるのです。
1つは「アカイアスケール」というデジタルコーヒースケールを採用しています。分数とグラム数を同時に測れるスケールで、スマートフォンアプリと連動することも可能です。ブルーボトルコーヒーでは利用しておりませんが、バリスタがその日の自分の淹れ方を記録したり、淹れたコーヒーに対するコメントで評価を振り返ったりすることもできます。
もうひとつは「TDSメーター」です。糖度計のようにコーヒーに含まれているエッセンスを毎朝バリスタが計測します。その数値がターゲットのレンジに入っているかどうかを個人の舌だけでなく、数値として視覚でも確認することで、より安定した抽出を目指します。
データ分析は、たとえばロースト(焙煎)の際などに行っています。ロースター(焙煎機)とPCが接続されていて、毎日のローストにおける温度の上昇率や、開発時間などのデータを収集しています。それらは全世界のロースターともつながっておりデータを共有しています。
また、ローストした豆とテイスティングの結果が、ローストデータとマッチするようになっていて、「今日のコーヒーが美味しかったのは、こうやってローストしたからだ」といったことを、焙煎士と品質管理のチームが分析して、日々改善しています。
喫茶店のマスターがご自身の舌と目の感覚を頼りに淹れるという職人の世界もあると思うのですが、その職人的な仕事をいかに可視化して標準化していくかが大事で、「事業を拡大する=品質が下がる」といわれることの多い飲食業界においては、テクノロジがすごく重要な役割を果たすと思っています。
当時はもちろんこういったツールはなく、本当に自分の味覚を信じてやっていたのですが、事業が拡大するタイミングでジョインした、マイケル・フィリップスという人間の存在が大きいです。彼は世界バリスタ大会でチャンピオンになった経験があり、現在は(ブルーボトルコーヒーの)トレーニングのトップを務めているのですが、彼にスキルを標準化することが大事なんじゃないかという提案を受けました。
そこで、引き続き味覚は大事にしながらも、答え合わせのように確認するものとして、デジタルツールを導入しはじめました。やはり、数字はすごく重要ですし、それがあることで、より自信を持って自分たちの基準を高めていけると思います。
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