ECは「越境」から「クロスボーダー」へ--中国GShopperイゴル・ユン氏に聞く - (page 2)

世界中の消費者から“ベスト”と評価される商品が求められる時代に

――GShopperでは中国、韓国、日本、これに米国や欧州を加えてクロスボーダーでのECプラットフォームを標榜していますが、特定地域の市場ではなく、あえてクロスボーダーを目標にしている狙いについて教えてください。

 確かにこれまでは、中国市場を強く意識したビジネス展開をしてきました。しかし、我々の本来のミッションは、中国の消費者が韓国や日本の商品を購入できるだけでなく、世界中の人々がさまざまな国の商品をひとつのプラットフォーム上で購入できるビジネスモデルを構築することだと考えています。そのため、ブランドそのものも「GShopper(Global Shopperの略)」へと変更することにしたのです。

――グローバル意識の高い日本企業の中には、日本を起点としたビジネスモデルだけでなく、ダイレクトに海外展開を意識したビジネス展開をする企業も増えてきました。たとえば、これまでは製品やサービスはまず日本市場での成功を意識してビジネス展開が行われてきましたが、これからは日本市場のニーズを意識しなくても海外でニーズのある製品やサービスは海外にどんどん展開していこうという発想です。その意味では、クロスボーダーECは日本国内の商品を単一の国に売ろうとする“越境EC”の次のステージではないかと思います。ECのグローバル化が今後どのように進んでいくか、考えを教えてください。

 今後はECもビジネスモデルのグローバル化は確実に進んでいくのではないかと考えられており、投資家などもそこに高い注目を寄せています。商取引の世界ではEコマースが誕生し、これまでさまざまなイノベーションが生まれ、そして越境ECも拡大してきましたが、その次のステージである「クロスボーダーEC」はまさに“真のグローバル化”と言えるのではないかと思います。

 かつては、商品を調べようとすると、さまざまなサイトを訪問して商品検索をしていましたが、それが比較サイトの登場によって便利になった。しかし、その情報の出どころは日本国内のサイトに留まっていたのではないかと思います。これがクロスボーダーECの世界では、日本だけでなく世界中で同じ商品がどれくらいの価格で売られているのかを調べられるようになります。

イゴル・ユン氏

 これはメーカーにとっては、日本市場でベストな商品ではなく、世界中からベストだと評価される商品を生み出さなければならないという新たな課題を突き付けられることになるのです。競合は日本国内の企業だけでなく、世界中の企業になるわけですね。

――そうなると、もはや日本企業は“越境EC”に臆病になっている場合ではないということですね。国内市場の飽和は日本のみならずあらゆる国で進んでいて、今後は国境を超えた市場の拡大を進めていかなければ、ビジネスの拡大は見込めないのではないか。これは世界中のどの企業にも言えることかもしれません。とはいえ、グローバルなECプラットフォームではeBayやAmazonなどが大きくシェアを伸ばし、ドメスティックでは日本の楽天、中国のアリババ、米国のBest Buyなど強力なプレイヤーがひしめいています。その中で、GShopperはどのように勝負を挑んでいくのでしょうか。

 Amazonはグローバルで展開しているものの、日本では日本法人が日本向けのドメスティックなサイトを展開し、それを米国でも、英国でも、世界各国でも同様にドメスティックで展開している。グローバルに見えて実は縦割りなのです。たとえば、日本のAmazonに出品している企業が英国のAmazonで商品を販売しようとしても、双方の国にAmazonの組織があり、それぞれで独自の商圏を確立しているので、組織同士の摩擦が懸念される越境ECは簡単ではありません。私たちが目指しているのは、あくまでひとつのプラットフォーム上でグローバルに展開するということ。ここに違いがあるのではないかと思います。

 加えて、私たちは大手企業と違い小規模なベンチャーですので、リスクを恐れずにスピード感を持って具体的なアクションを推進できるのではないかと考えています。たとえば、当時はまだ大規模とは言えないPCメーカーだったAppleが初めてiPhoneを発表したとき、Microsoftは「携帯電話にコンピュータの機能は必要なのか。家に帰ればPCがあるわけだし、電話と融合する必要はあるのか」と言ったといいます。しかし、AppleはiPhoneによってイノベーションを起こし、世界を変えてきましたよね。

 これがいい例だと思いますが、オペレーションが確立した大きい企業は、新しいことに対して判断も行動も遅くなりがちです。しかし、私たちのようなベンチャー企業は、新たなイノベーションに対して過去のビジネス資産を生かしながら素早く前に進むことができるのではないかと思います。

イノベーションにとって重要なのは、テクノロジではない

――ところで、イゴル・ユン氏はインターネットビジネスの黎明期に「Become」や「Wisenut」といった検索サービスを次々と成功させてきた実績をお持ちですが、その経験を今後GShopperのビジネス展開でどのように生かしていきたいと考えていますか。

 これまでのさまざまな経験から生かせるのは“問題解決能力”ではないかと思います。どのような会社でも必ず同じように問題は発生します。たとえば、資金をどう調達すべきか、人材をどのように集めるべきか、こうした課題を解決するノウハウを蓄積することは、企業の成長にとって大きなプラスになるのではないかと思います。一方、テクノロジ面では活用できるノウハウがある一方で、変化も早く大きい世界なので、必ずしもすべての経験が生かせるとは思いません。ただし、基本的な部分は日本の武道のように“型”があるので、その点では今後のビジネス展開でも生かしていけるのではないでしょうか。

 ただ、重要なのはテクノロジではなく、世の中が何を求めているか、ユーザーが何に困っているかをしっかりと理解することだと考えています。ユーザーの課題をどのように解決するかという面では、テクノロジはひとつの手段ではあるものの、テクノロジがすべてではないわけです。たとえばApple Watchは、テクノロジは素晴らしいですが人気はないですよね。それは、Apple Watchがユーザーの問題解決をしていないから。Apple Watchがユーザーのニーズに応えていないのです。一番大事なのは、ユーザーの困難を理解し、それをどのようにサポートできるのかを徹底的に考えることだと思います。

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