とにかくお母さんは忙しい--子どものプリント整理アプリ「おたよりBOX」誕生秘話 - (page 2)

サービスの開発は“足し算”ではなく“引き算”

――では、具体的に「おたよりBOX」はどのような開発思想で生み出されたのでしょうか。紙を電子化する製品はすでに数多く存在すると思いますが、どこに差別化を持たせたのでしょう。

西尾氏 ヒアリングしてわかったことは、とにかくお母さんたちは忙しいということ。忙しい人でも簡単に使えることを基本コンセプトとして、スマートフォンで写真を撮るだけで保存できるサービスにしました。実は保育園の掲示板や配られたプリントをスマートフォンで撮影して保存しているお母さんは多い。なので、そうした日常の行為にエッセンスを加えて、カメラロールで探す手間を省いて(撮影したプリントを)簡単に管理できるアプリにしようという着想で開発しました。

「おたよりBOX」の開発コンセプトを説明する西尾氏
「おたよりBOX」の開発コンセプトを説明する西尾氏

 他社との差別化については、とにかく機能をシンプルにしたことですね。実はいま“写真で情報を整理するサービス”という共通点で、おたよりBOXは「Evernote」と比較されることが多いんです。ですが、ヒアリングしてみるとEvernoteは非常に多機能でどんなことでもできる一方、機能が複雑すぎてどう使えばいいのか分かりにくいという声もありました。その点、おたよりBOXはカメラで撮影して整理するという機能に絞られていますが、分かりやすかったのではないかと思います。

長谷川氏 当社では、おたよりBOXに限らず、スマートフォンアプリはとにかく機能をどれだけ削れるかが重要だと考えています。いろいろな機能を盛り込むと、ユーザーに「めんどくさい」と思わせてしまうからです。アプリは使われなくなったらそこで終わりなので、いかに機能を絞り込めるかが重要で、特に多忙なお母さんを対象にしたおたよりBOXでは、この点を重視しました。

 今でこそ、少し機能追加をしていますが、初期のおたよりBOXは機能だけを見ると、言葉は悪いですが“しょぼいEvernote”みたいなサービスでした(笑)。ただ、ニーズに的確に応えるために機能を徹底して削ぎ落としたことで、使い勝手が生まれたのではないかと思います。

――開発ではどのような工夫をしているのでしょうか。

長谷川氏 お母さんのためのサービスということで、新しい機能を考案するたびに社内のママ社員にヒアリングをして、必要性や使い勝手についてダメ出しをもらっています。その声はサービスに多く取り入れられていて、特に開発者が気づかないような細かいところに反映されています。

  • 5月10日のアップデートでは、カレンダーから直接カメラを起動してプリント保存できる機能が追加された

西尾氏 たとえば、ママ向けサービスだからと配色をピンクにしてママ社員に見せてみたら、「女性向けだからって、なんでもピンクにすれば喜ぶってものじゃない」と怒られたり、「でも、さりげない可愛らしさや遊び心がないとダメ」と意見をもらったり。これによって開発者の先入観と実際ユーザーが感じることのギャップを埋めることができ、毎日使ってもらえるサービスが生み出せたと思います。

 おたよりBOXでは子どもの写真をアイコンにして、子どもごとにプリントを整理できるのですが、そこに残したメモ書きを子どもの写真から吹き出しで表示させる点や、撮影したプリントを一覧表示する際に、プリントのタイトル部分を切り取ってサムネイルにしている点などは好評ですね。

  • 保存されたプリントは、タイトル部分の拡大サムネイルで確認できる

長谷川氏 「毎日使ってもらえる」というのは、アプリの利用継続率や利用後のアンインストール率に非常に大きな影響を与える要素なので、細かいところをどこまで詰めていけるかという点にはこだわりました。おかげで、現在アプリダウンロード数は約18万ですが、30日後の利用継続率は60%以上と、ユーザーに定着していることを実感しています。

西尾氏 現在も、3カ月に1度のペースで、ユーザーにヒアリングをしてサービスの改善に役立てています。ユーザーの声をすべて盛り込んでしまうと製品が肥大化して使い勝手が悪くなってしまうので、どこまでその声を取り入れるかという見極めが難しいですね。また、おたよりBOXのユーザーは紙のプリントを保存するとその紙を処分してしまう場合が多いので、サービスが負う責任は非常に大きい。そのため品質テストには特に多くの時間を割くようにしています。

「自分たちは、ママではない」からこそ、良いサービスが作れた

――これまでのお話を聞いていると、「社内のママ社員にヒアリングした」というエピソードが多く登場しますが、これは他部署の社員ということですよね。

長谷川氏 そうですね。実は、おたよりBOXの開発チームにはママ社員が一人もいないのです。だからこそ、社内でのヒアリングはサービスを詰めていく上で生命線でした。このようなターゲットを絞ったサービスはどうしてもイメージ先行で考えがちですが、実際にユーザーとなる人に聞いてみると本当のニーズが見えてきます。

 たとえば、ママ向けサービスは“専業主婦”をイメージして考えがちですが、実際には仕事と育児を両立する多忙なお母さんが非常に多い。加えて彼女たちは、忙しい中でもライフスタイルを充実させたいというニーズを持っています。そうしたリアルなニーズに触れることで、自分たちに何ができるかを考えることは非常に重要だと考えています。

西尾氏 社内でのヒアリングを重ねたことで、社内にはおたよりBOXに意見を寄せてくれる“ママ友”がたくさんできましたね(笑い)。もしも、自分たちが子育てをするママだったら、こうはならなかったかもしれません。社内の女性社員に気軽に意見を聞きに行けるニフティの社風も、サービス作りにとって非常に大きな要素だったと思います。


――最後に、今後のサービスの方向性やビジネスモデルについて教えてください。

長谷川氏 前述の通り、ダウンロード数は約18万を超え、継続利用率は非常に高いです。ボリュームとしてはまだまだですが、まずはサービスの土台が固まったのではないかと思います。日ごろからプリント整理に困っていたお母さんからは「悩みから解放された」「ママ友に勧めたい」という声もいただき、非常にありがたく思っています。

 今後は、電子チラシサービスの「シュフモ」やライフスタイルメディア「comorie(コモリエ)」といった他の女性向けサービスなどと共にブラッシュアップを続け、ユーザー基盤を強化していきたいと思います。ビジネスモデルについては、これまではまったく売上を出さないサービスだったのですが、今後は課金モデルを導入していく予定です。その第1弾として、5月10日にはクラウド上で保存したプリントを夫婦間などで共有できる機能を有料でリリースしました。

 今後もユーザーニーズを見極めながら機能を拡充していければと考えています。また、冒頭にお話した保育園や教育機関との連携も、決して諦めたわけではありません。将来的には、教育機関におけるプラットフォームとして活用してもらうことも視野に入れたいと考えています。

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