デジタル教科書

文科省の有識者会議「2020年度からのデジタル教科書導入は各自治体の判断」

羽野三千世 (編集部)2016年06月03日 06時30分

 文部科学省の有識者会議「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」は6月2日に第8回会合を開催し、これまでの議論を整理した「中間まとめ(案)」を発表。児童生徒が使用する「学習者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)」について、その位置付けと関連する教科書制度の在り方について一定の方向性を示した。本稿では、中間まとめ(案)の大枠を解説する。


「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」の第8回会合の様子

デジタル教科書とは何か

 まず、デジタル教科書とは何か。中間まとめでは、デジタル教科書とは「(検定された)紙の教科書と同一内容のデジタルコンテンツ」としている。デジタル教科書を閲覧するための端末やビューアはデジタル教科書の範囲に含まない。加えて、デジタル教科書のみに搭載される動画や音声コンテンツなどは“デジタル教科書と一体的に使用するデジタル教材”と位置付け、デジタル教科書の定義には含まない。

なぜ、今デジタル教科書を導入するのか

 中間まとめでは、デジタル教科書導入の時期についても言及しており、「可能な限り、次期学習指導要領の実施に合わせて導入し、使用できるようにすることが望ましい」としている。その背景には、次期学習指導要領では、(1)小学校における英語の必修化が検討されており、外国語教育については“デジタル教科書と一体的に使用する動画や音声などのデジタル教材”の使用の効果が特に見込まれること 、(2)アクティブラーニングの視点に立った深い学び、対話的な学び、主体的な学びの実現が重視されており、デジタル教科書にはそうした学びの実現が期待されること――がある。

 次期学習指導要領は、小学校では2020年度、中学校では2021年度、高等学校では2022年度からの適用が予定されており、デジタル教科書の導入はこの時間軸で進められることになる。

デジタル教科書は必ず導入しなくてはいけないのか?

 デジタル教科書の使用形態は、学校教育法により小中高校で使用が義務付けられている“紙の教科書”と併用することを必須として、(1)必要に応じて補助教材としてデジタル教科書を用いる、(2)教科の一部でデジタル教科書を紙の教科書の代わりに使用――のいずれかの方法で使用を認める。

 では、2020年度以降、すべての学校で紙とデジタルの教科書を併用しなくてはいないのだろうか。中間まとめには、「デジタル教科書を使用するか否か(紙の)教科書採択権限を有する教育委員会などが決定するべき。ただし公立学校について、教育委員会が所管するすべての学校においてデジタル教科書を使用するか否かを一律に決定することまでは認めず、教育委員会の判断で、その所管する学校のうち、特定の学校や学科、教科でのみデジタル教科書を使用することも可能とすることが適当である」とある。

 つまり、各地域の教育委員会などが、デジタル教科書を使うか否か、どの学校で使うかなどを決めることができるようになっている。全国すべての学校でデジタル教科書が義務化されるわけではない。

 なお、デジタル教科書は「紙の教科書とデジタル教科書の双方を義務教育へ無償給与することは困難」という理由から、「地方自治体が整備することを基本としつつ、教材費として保護者の一部負担となる可能性もある」としている。

デジタル教科書の導入には1人1台PC環境がなくてもよい

 デジタル教科書は、PCやタブレットでデジタルコンテンツを扱うものなので、利用には児童生徒に1人1台のPC環境が必要になる。しかし、2020年度からの次期学習指導要領実施の時点で、必ずしも全国の学校に1人1台PC環境が整備されているわけではない。

 それでは、デジタル教科書を導入できるのは、1人1台PC環境がある学校に限られるのか。中間まとめではそれを否定し、「例えば、1クラス分の児童生徒分の端末を用意した上で、特定の授業でのみデジタル教科書を使用することも許容されるべき」としている。

教科書発行会社以外のIT企業の参入余地は?

 冒頭に述べたように、デジタル教科書とは「(検定された)紙の教科書と同一内容のデジタルコンテンツ」を指す。「紙とデジタルの同一性は、教科書発行会社が担保するべきであり、その意味においても、当面はデジタル教科書の制作者は紙の教科書を制作する教科書発行者のみとすることが適当」(中間まとめ)とある。デジタル教科書を導入する場合は、その学校が選定した紙の教科書と同一の会社が作ったものを選定する必要があり、紙とデジタルの同一性はその会社が保証するというものだ。

 その背景には「デジタル教科書の検定をどうするか」という課題があり、同会議では「デジタル教科書は検定済みの紙の教科書をデジタル化したものなので、検定不要」という方針を打ち出している。

 では、教科書発行会社以外の企業が、デジタル教科書の開発に関わる余地は無いのか、というとそうではない。中間まとめでは、「(デジタル教科書の制作にあたっては)教科書発行者の責任のもので、関連するさまざまな分野の企業と連携して、質の向上を図っていくことが望ましい」としており、教科書発行会社が外部のITベンダーなどの協力を仰ぐことが推奨されている。

 さらに、“デジタル教科書と一体的に使用するデジタル教材”についても、教科書発行会社以外の参入を促している。一体的に使用するデジタル教材とは、デジタル教科書と同一画面上で閲覧できる動画や音声コンテンツのほか、デジタル教科書と連携して利用できる電子辞書、デジタル問題集などだ。さまざまな企業が提供するコンテンツを、デジタル教科書と同一画面上で連携させて利用できるようにするために、「ビューアやコンテンツについて、国と教科書発行会社、関連する民間企業が連携して、企画や機能の標準化を図ることが望ましい」(中間まとめ)としている。

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