Adobeが年次で開催しているデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2016」が米国時間3月22日、米国ネバダ州ラスベガスにおいて開幕した。これまでの10年間ユタ州ソルトレイクシティで開催されてきたが、初めて場所を移し、世界各国から過去最高の1万人が来場した。
基調講演した社長兼CEOのShantanu Narayen(シャンタヌ・ナラヤン)氏は、「エクスペリエンス(顧客体験、経験)ビジネス時代が到来した」と何度も強調した。それを説明する前に、デジタルエクスペリエンスについて「お金の使い方や働き方など、人生のすべての面を変えていく力がある。たとえば、有名なテーマパークに初めて行こうと考えたとき、いろいろと調べる過程で休暇を取って行くのは無理かと思っていた人が、デジタルメッセージを通じて適切な提案を受けてフライトが予約でき、実際にテーマパークのでのエクスペリエンスを楽しめるようになった。ショッピングも同様で、服が置いてなく、棚もなく、試着室がないところでも買い物ができるようになった。スマートフォンと拡張現実があれば、自分のサイズに合ったものを最適な価格で買い物できるのだ」と切り出し、オンラインの世界が実社会とシームレスに融合し、自宅ですべてのことができるようになったとした。
そのうえで、「デジタルエクスペリエンスは、顧客をあっ!とさせるものもあれば、気づかないでシームレスにブレンドされているものもある。その意図がなんであれ、挑戦的で、パーソナルで、予測可能で、タイムリーでなければならない」と述べた。つまり、顧客はデジタルファーストで企業が交流してくることを求めており、企業は顧客のその期待に応えるためにデジタルに関するすべての戦略を考え、最終的にどのようなエクスペリエンスを提供しているかがビジネス全体として競合との差別化要因になることをもって“エクスペリエンスビジネス時代”と表している。乗り遅れることは企業の死を意味し、現状維持はあり得ないという。
ただし、「エクスペリエンスビジネスを実現するには、単にモバイルのベターなアプリケーションを用意するだけでは不可能で、ブランドは顧客と直接つながらないといけない。すばらしいエクスペリエンスはすばらしいコンテンツが根源だ」とも指摘した。デジタルというのは単純に印刷物がウェブになっただけではない。デスクトップからノートPC、スマートフォン、タブレットといった直接的なコンピュータデバイスのみならず、テレビや時計、クルマ、看板までもが画面を持つマルチスクリーン時代では、拡張現実を用いてすべてのホテルやレストラン、小売り、車内といったあらゆる物理的な世界がデジタル体験と融合しつつある。こうした環境において、いかにきれいなデザイン、目を引くイメージやビデオを用意してアクションにつなぎ、ブランド価値を認知させるためには、テクノロジが必要になる。また、すばらしいコンテンツを適切な人に、適切な場所で、適切な時間で提供するにはデータが必要になり、インサイトとインテリジェンスがパーソナライズ化され、関係づけられた体験を提供するうえで大切だという。
そのため、Adobeは「Adobe Creative Cloud」を使って印刷物やデジタルコンテンツを制作する力を与え、「Adobe Document Cloud」で自動化されたワークフローを提供し、「Adobe Marketing Cloud」で深い顧客の分析を提供しているわけだ。「私たちのイノベーションの行動計画は3つのCloudを統合し、コンテンツの作成から管理、計測、収益化までのツールやソリューションにデータサイエンスも用い、パーソナライズされたエクスペリエンスをリアルタイムで提供すること。ビッグデータとコンテンツをインテリジェントなかたちで提供し、パートナーのイノベーションも活用して能力を拡張していくことでエコシステム全体で力をつけ、次世代のためにすばらしいエクスペリエンスを継続していく」と語った。そして、「人間をロボットで置き換えられない。人間の直感は取り替えられない。私たちは機械学習をはじめとしたコンピューティング、サイエンスの力、つまり機械と人間を組み合わせることでもっといろいろなことを加速させていく」と加えた。
最後に、Narayen氏は来場者に「私たちは自問自答すべきだ。自分の企業はこのエクスペリエンス時代に競合できるのか。ほかの企業に遅れをとっていないか。仕事の中心に顧客をおいているか。チャネルやキャンペーンがサイロ化していないか。適切なプラットフォームやテクノロジを使っているか」と問いかけ、「アドビの使命はデジタルエクスペリエンスを通じて世界を変えること。業界を先駆けて実行してきた。すべての段階ですばらしいエクスペリエンスをお手伝いできる」と締めくくった。
これを受けて次に登壇したのは、デジタルマーケティング担当エグゼクティブ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャのBrad Rencher(ブラッド・レンチャー)氏だ。「人びとにすばらしい体験を提供するという使命によって、われわれはここに集まっている。マーケターとしてもう製品を売るビジネスではない。私たちはエクスペリエンスを売るビジネスに移行している。ローカルのコーヒーショップの常連客からグローバルのブランドロイヤリストまで、その顧客を知るだけではなく一貫して、継続した魅力あるエクスペリエンスを提供しなくてはならない。そしてコンテンツに魅力がないとだめだ」と口火を切り、昨年のSummitで挙げた一貫性や継続性の重要さを強調した。
そして、「現在は第3のエンタープライズ変革の波にある」と語った。第1は「バックオフィス」の波で、特に製造業だがそれまでマニュアル的な作業で受注から生産、受け渡しまでをしていたが、デジタルが導入されてバックエンドをつなぎ、生産性が向上し収益も効率化された。システムの実装としては在庫管理や給与計算、会計などの社内業務に対するERP(Enterprise Resource Planning、企業資源計画)が展開された。第2の波は「フロントオフィス」で、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)の革命だ。顧客リストを紙で管理し、電話でアプローチすることが当たりまえだったが、CRMシステムで営業プロセスを大きく効率化し、営業力を向上させ売上の向上、競争力につなげた。いずれの波もソリューションを早くから取り入れたアーリーアダプターが競争優位性を持った。
Rencher氏は、こうした過去2つの大きな波は「企業の、つまり私たち自身の仕事を効率化するためだったが、今回の波はまったく違う。主役は消費者で“エクスペリエンスビジネス”が第3の波だ」と声を上げた。「エクスペリエンスビジネスは、顧客とのすべての接点で顧客に毎回驚きと喜びを提供し、生活の一部にするということ。顧客を個客としてパーソナライズしなければならない。競合との差別化はこのエクスペリエンスビジネスで決まる。この15年でFortune500の企業の半分以上が無くなっている。みなさんはエクスペリエンスビジネスをしているか? エクスペリエンスを重要だととらえているか? マーケターとして、営業として、カスタマーサポートとして、IT部門として、全社でエクスペリエンスビジネスをやっているか? 個客からどう見えているか考えているか?」と問いかけ、これらが最終的に成功するか失敗するかを判断する基準だとした。
具体的には4つのポイントを挙げた。1つめは「自分を知る、自分を尊重する(KNOW ME&RESPECT ME)」で、これは自分が求めることを先取り、予測し、提供するということ。2つめは「1つのコンテキストで話す(SPEAK IN ONE VOICE)」で、マーケティング、営業、サポート、プロダクトのチームがみんな常に関連性のあるメッセージを提供すること。3つめは、「技術を透明にする(MAKE TECHNOLOGY TRANSPARENT)」で、アプリやスマートフォン、クルマ、時計などはマーケティングプロセスの一部にして、こうした媒体ではなくエクスペリエンスをメッセージにすること。つまりプロセスではなく、最終的な結果が重要だというわけだ。4つめは「毎回喜ばせる(DELIGHT ME AT EVERY TURN)」こと。Rencher氏は「ムーアの法則では、コンピューティングパワーは18カ月で倍増することがわかっている。技術者であればこのビット、バイトの話はいいが、消費者にとって考えれば経験、体験への期待が18カ月で2倍になるということだ。このように期待が高まることを企業が理解し、備えているだろうか。準備ができていなければ、いまから始めなければならない」と語った。
さらに、エクスペリエンスビジネスを実行するのに、「Adobe Marketing Cloud Device Co-op」など斬新な取り組みもいろいろと語られた。その中で、Adobe Cloud Platformの機能拡張などについても振れられた。Microsoft Dynamics CRM、DemandBase、Acxiom、BrightEdgeなど多数のアプリと統合機能をホストするAdobe Exchangeがアップデートされ、パートナーはAdobe Marketing Cloudの機能を拡張できる。また、新しいデベロッパー向けポータルである「Adobe I/O」が開設される。デベロッパーはAdobe Marketing Cloudのソフトウェア開発キット(SDK)をダウンロードして、アプリケーションプログラムインターフェイス(API)のルーティンとプロトコルにアクセスできるようになる。
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