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職業としての“声優”と業界の変遷--古川登志夫さん榎本温子さんらが明かす本音 - (page 2)

佐藤和也 (編集部)2015年05月23日 09時00分
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時代が求めていることに対して自分も変化しないといけない

  • 池田克明氏

 もっとも環境整備や権利保護に事務所や業界が力を入れているとしても、やはり声優として仕事をし続けるには、個々の取り組みや力量が問われる世界。古川さんは声優に限らずあらゆる業界において、時代が求めていることに対して自分も変化しないといけないとし、どんな仕事でもオールマイティに対応できるように心がけているという。

 ひとつの例として、録音技術の進化によって演じ方や演技論も変容していると語った。昔はマイクが声を拾いやすいように声を大きく出すことを求められたが、近年は小さな声でも拾えるという。古川さんがアニメ「たまゆら」に出演した際、女子高校生の繊細な乙女心を表現するために、ささやくように言ったセリフにOKが出て驚いたことに触れ、時代にあわせた表現方法に対応できるようにならないといけないと感じたという。

 榎本さんもすでにキャリアとして18年目を迎えたなかで「2、3回ぐらい業界の仕事の仕方が変わった」と語る。そのひとつとしてニコニコ生放送のようなネット配信の動画番組を挙げた。いわゆる放送番組とユーザー放送の間の立ち位置に見えていたことで内心は抵抗感があったというが、企業側が公式チャンネルを持って配信するようになってからは、仕事として受け入れる方向に傾いていったという。「業界全体が変わっていくなかで、自分の仕事のスタイルも変えなくてはついていけないと思いました」といい、その一方ではあくまでプロであるといこと、ユーザー放送ではできない魅力を伝えていくスタンスで臨むとも語っていた。

ネットで話題になった「声優ってスキルは必要?」について

 クリエイティブな現場でプロとアマチュアの境目が薄くなっている昨今。黒川氏が、ある著名人がTwitterでつぶやきが発端としてネットで話題となった、声優のスキルについて言及した件に触れ、榎本さんは声優を“匠(たくみ)の仕事”だと主張。それは単に口パクにあわせるといったことではなく、ブースの中で熱演すること、場合によっては絵のない状態でも気持ちの入った演技をすることは本当に難しいこととしたうえで、そういう状況であっても存在感がある声が出せているのを目の当たりにしたいるからこそ、そう思っているという。ちなみに榎本さん自身の発言が恣意的にとりあげられて一部でニュースにもなったことにも触れ、まとめたり記事として掲載するのならきちんと記名して責任を持ってほしいと苦言を呈していた。その一方で「できれば告知も載せて宣伝してほしい(笑)」と笑いを誘う一言も付け加えていた。

  • 百田英生氏

 このように話題になったことについて、池田氏と百田氏も職業としての声優が認知されてきていることの裏返しと、前向きにとらえているという。またプロモーションの側面から、タレントがアニメや洋画などの吹き替えを担当することも珍しくはないが、声優にあててほしいという意見が出てくるところを見ると、演じる側も視聴者側も声優を見る目を持ち始めて、意識レベルが高まっているのを感じているという。

 こと池田氏は声の合う合わないと感じることについて、タレントの起用というだけではなく、突き詰めた議論となると声優でもあることとし、プロモーションという意味合いでは、映像作品やアニメを取り巻くビジネスモデルの変化から、人気や話題性のある声優が起用され続けるといった現状も否定できないところがあるという。百田氏もスキルがあっても日が当たるとは限らない世界としたものの、新人を起用して積極的なイベント展開でプロモーションをする作品もあるなど、チャンスはあると付け加えた。

掛け合いのある収録は日本独特のもので「誇るべきもの」

 声だけで演じること、またその世界で仕事をし続けることの難しさが語られてきたが、黒川氏から、声優の立場としてキャラクターに命を吹き込むことはどういうことなのかとの質問が投げかけられた。古川さんはやはり古川さんは役を獲得するためには特質を出す必要があると前置きした上で“プラスアルファの演技”を盛り込むように心がけているという。想像される演技プラン通りに演じてしまっては誰でもできるという判断になってしまうため、自身なりの演技をたとえ1カ所でもいいので入れ込むという。

 古川さんはたとえとして、悪役の善の部分、やさしい男性の強い部分といった対極にあるところを探って表現することで、役の幅が広がると説明する。自身の代表作でもある「ドラゴンボール」のピッコロや「北斗の拳」のシンなど、憎々しいなかでもふと見せる優しさやいちずな一面を見せることによって、ファンの支持を得られたとも語った。

 榎本さんは「キャラクターとして生きる」と「自分の経験を惜しみなく投与する」ことの2つを挙げた。またアニメは監督のものと考えており、監督が考えていることの表現に近づけることをスタンスとしていると語る。それはたとえ自身が考えた演出プランとは違う演技であっても、監督がよかったと言ってくれるものであればうれしいという。加えて、ナレーションやゲームの収録は1人で行うことが多いが、アニメなどの収録は集まった人たちと一緒の空間で芝居することが醍醐味。さまざまな演技を見ることで新たな発見もあることから、「こんなに近くで演技 が見られることはラッキーなこと」とし、その現場や体験を大事にしたいと語った。

 百田氏は、声優の声はサンプリングではなく掛け合いによるお芝居によって化学反応が起きる世界であり、高いレベルで仕事をしているとも加えた。古川さんも海外では個別収録が主流で、セッションのように複数人で掛け合いながら収録するというのは日本特有なものだと説明。そのことが日本のアニメが海外でも評価を受けている背景にあると推察し、この手法は日本が誇るべきものだと主張した。池田氏も、複数本のマイクを立て、十数人が入れ代わり立ち代わり収録する現場を初めて見たときは驚いたと振り返る。また、業界の活性化に向け、日本独特の収録方法を含めたアニメ文化を、来日した外国人に伝えていく場の必要性を語った。

“声優アーティスト”と、歌やイベントの出演がNGだと仕事が減ってしまうという実情

 質疑応答のなかでは、声優によるアーティスト活動の話題も取り上げられた。古川さんはかつて声優で組んだバンド「スラップスティック」として、榎本さんもレーベル契約をして個人名義でのCDをリリースしている。2人はそろって本来はスタジオワークとしての声の仕事が好きで、声優としての表現を突き詰めたいが、依頼される仕事に取り組むうちに気づいたらアーティスト活動をしていたと答えた。

 榎本さんは、宣伝があって派手に見えることや現在はマーケットとして確立されていることから声優アーティストを目指す人もいて、さらに歌やイベントの出演がNGとしていると仕事が減ってしまうという実情も明かした。「声優の方にはいただいた仕事をあまり断らない方も多く、なんでもやるというスタンスの結果、こういう状況になっているのかなと思います」とした。歌でもキャラクターソングに関しては声優だからこそできる表現が存在する場所であり、そこは得意分野として生かしていきたいということ、また露出されている部分が華やかに見えているものの、スケジュール管理や時間厳守といった仕事意識の高さ、普段の収録では雑音が出ないような服装で臨むといったことなど、どちらかといえば地味な仕事が主であることも付け加えた。

 最後に、百田氏は昨今の興味や関心の高さから才能のある人が声優を志望する状況もあり、乗り越えるべきハードルは高いとしながらも「声優業界は夢のある世界で勇気を持って飛び込んできてほしい」、池田氏はさまざまな可能性とやりがいのある仕事であるとし「関わった人たちが、またこの人と仕事がしたいと思ってもらえるような何かを残せる声優を目指してほしい」とビジネスサイドからのメッセージを寄せた。

 榎本さんは、声優を目指す方には率直に「やめとけ」と言ってしまうぐらいに大変なものであるなか、それでも続けられているのはそのつらさを上回る、すてきで魅力のある部分もあるからと語った。古川さんは、現在が活況となっている声優業界は過熱気味と思えるぐらいの新人発掘熱があり、たくさんの声優養成所も存在している状況は過当競争にさらされているともいえるが、間口が広がっているともいえ、それは古川さんの時代からすると恵まれているので、頑張ってほしいとエールを送っていた。

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