「BRUTUS」が仕掛ける“雑誌×ウェブ”の新手法--西田編集長に聞く - (page 2)

 伊藤氏:「カラダにいい100のこと。」と題して、100のコンテンツを1年間かけて提供するんですが、雑誌と比べるとかなりライトな内容で1分くらいで読めるものですね。当初から話していたのは、読者がいつも見ているタイムラインに自分たちのコンテンツが落ちていくという考え方で、BRUTUSのFacebookやTwitter、Instagramの公式アカウントに登録してもらえれば、デサントのサイト上に遷移することなく読み切れるようになっています。

  • 「カラダにいい100のこと。」のトップ画面

 なので、デサント的には効果測定はしづらいかもしれません(笑)。でも、そこがまたパラサイトっぽくていいし、新しい感じがするかなと思いますね。ただし、別のスポンサーであれば、もしかしたらかなり深い読み物を1つだけ作ることもあるかもしれませんし、動画で展開するかもしれません。このパラサイト型であれば、そこはいかようにもできますね。

 西田氏:さっき「ウェブは断片的だ」と言ったくせに矛盾しているじゃないか、と思われるかもしませんが、そうではないんです。ここに映画や本のコンテンツまで入ってただのコラム集になってしまうとダメなんですが、それぞれ別の枠組みのなかで、その号だけが進行するのだから混乱しないんです。BRUTUSのある一つの特集をベースにして動く、というのが強くて、紙で出すものの応用案としてウェブがあるんですね。スポンサーに対してもすでに見本誌があるから「このテイストでやりましょう」という説明がしやすいし、作り手たちもそれぞれのテーマに対してすでにノウハウがあるので、そこに特化していけばいい。そうすると年に23冊、23種類のウェブのタネを出版している、というプレゼンができます。

――最後に紙とデジタルの今後のあり方について聞きたいと思います。集英社の「ジャンプLIVE」のように、ソーシャルメディアで読者からアイデアを募集して、次回のコンテンツを制作するといったデジタルならではの取り組みも増えてきました。紙の本とデジタルの関係性は、今後どのように変化していくと考えていますか。また、BRUTUSとして今回の取り組みとは別に、ウェブ発でコンテンツを提供することはあるのでしょうか。

 西田氏:雑誌編集のものの考え方のベースにあるものとして、BRUTUSでは右上から左下に流れる、目には見えない導線を意識しています。右開きの雑誌の場合、視線は見開きで常に右上から右下に流れているんです。そうなると雑誌をそのまま電子化するには、アップルが雑誌を広げた見開き大きさで、紙のように柔らかい“iPadマガジン”みたいなものを作ってくれるのを待たないといけない。

 昔から思っていることで、タブレットで写真集を見るというのは親和性が高いように思えるんですが、最初と最後を何の写真にするか、センターにどの写真を置くか、というストーリーは、音楽アルバムの曲順と同じで写真家の思いが込められていて、大切な意味があることだと思います。だから、タブレットを傾けたときに雑誌の厚みが分かるようになればいいと思っていて、ちょうど本の真ん中くらいだよというのがフッと浮いてくるようなシステムを思いついたんですが、先日30円で人に権利を売りました(笑)。


西田氏

 つまり、電子雑誌はメタファー(隠喩)だとしたら、逆転してるけど、雑誌は実体化したメタファーですよね。手で持てて開けるというこんな優れたメタファーは他にはないわけです。我々がこの枠にそって習熟してきたとしたら、新しいタブレットが出て、今までの枠を取っ払える時でも、できるだけそのメタファーは残しておきたい。たとえば、読書している時、気に入ったフレーズを見返す時も「確かこのページの右上辺り」といった具合に覚えているので探すのに苦労しませんよね。しかし、電子書籍は検索しかないからワードを正確に知らないと辿りつけない。本の内容を物理的な位置で覚えているというアナログな感覚は僕はとても好きです。だからその感じを電子雑誌でできるならいいなという考え方はあるけど、なかなかそれは実施できない。

 では今後、ウェブにどうやってのBRUTUSのコンテンツを持っていくかということになりますが、コンテンツ制作能力という意味では、特集を出し続けている限りは僕らは相当高い位置にいられるんです。だから、編集部員には、とにかく1冊でも多く紙の本を出して、技術をどんどん上げていこうね、と言っています。どこかのタイミングで一気にタガが外れてウェブにいくのであれば、それはそれでいいんですが、僕ら編集がメディアの形を整えたり考えたりするのは違うと思っています。すべてが整ったら最後にしゃなりしゃなりと出て行って、みんなに道をあけてもらおう、ぐらいの気概で頑張るつもりです。

 ウェブって情報の通り道の話ですよね。何を伝えるかが我々の課題で、どうやって伝えるかという通り道の違いを考えるのはデジタルのプロが考えることだと思います。もちろん、我々もメディアという通り道によって、コンテンツの作り方が変わることは自覚しています。雑誌ならではの作り方に注力するということは雑誌という通り道に、今はハマっているということなんです。雑誌という枠組みでBRUTUSが優れたものが作れているのであればそれを捨てる必要はない、しばらく様子を見ようと。

 ただ、デジタルには僕は90年代からかなり意識的に接しています。理由は好きだから、ただただ好きなんです。iPhoneでチェックするルーティーンがあって、 Instagramを見て、Twitterで自分と公式アカウントを見て、Facebookで自分と公式アカウントのページを見て、さらにリアルタイム検索でBRUTUSをキーワード検索する。その作業で7~8分もかかってしまいます。そうすると、また最初からチェックしたくなるみたいなこともあってほんと、大変です(笑)。

 そんなことばかりしていると、面白い本があって電車で読んでると、乗り過ごしちゃうんですよ。それは、僕が電車で本を読まなくなったからですよね。以前は体感として覚えていたので目的の駅の手前で気づけたのに。自分が一番ケータイを見る人間になってしまっている、という感覚は怖いです、ちょっとショックです。ショックだけど、それは順応していけるなら、それもいいかな、とアンビバレンツな感覚なんです。

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