稲船敬二氏と水口哲也氏が語る、これまでのゲームとソーシャルゲームの未来

 モブキャストは5月21日、都内にて第1回「mobcastオープンカンファレンス」を開催。そのなかで、ゲームクリエイターの稲船敬二氏と水口哲也氏による「ソーシャルゲームの未来」と題したトークセッションが行われた。

 稲船氏は「ロックマン」、「デッドライジング」などを手掛け、現在はcomceptを設立しコンセプターとして活動している。一方の水口氏は、かつて「セガラリー」や「スペースチャンネル5」などを手掛け、現在はMizuguchi Creative Office代表、そしてmobcastのクリエイティブアドバイザーを務めている。ともにゲームクリエイターとして広く知られている2人が顔を合わせ、これまでのゲームについて振り返りつつ、ソーシャルゲームの未来をテーマに語った。

comcept CEO/コンセプター 稲船敬二氏
comcept CEO/コンセプター 稲船敬二氏

努力なくゲームが遊べ、制作は努力する”ズレ”

 同い年という2人は長年ゲーム業界に従事し、アーケードゲームやコンシューマーゲーム、モバイルデバイスと、ゲームハードや勢力の移り変わりや盛衰を見てきた人物でもある。水口氏はアーケードゲームの3分で遊べるというビジネスモデルからコンシューマーに勢力が移った際に、家で何時間もかけて遊ぶゲームが登場し、新しいムーブメントや価値を生み出したと振り返った。

 時代がコンシューマーからスマートフォンに向かっている中、稲船氏は「ゲームとひとくくりにして、バリエーションと感じると、間違いがあるのでは」と指摘。アーケードとコンシューマーは似ているようで違っているとし、その対応に時間がかかったと振り返った。そしてスマートフォンについては「アーケードからコンシューマーに移行したとき以上の違いがある」と述べた。そしていろんな経験をしてきたが上に、スマートフォンやソーシャルゲームへの対応をきちんと考えて制作を行わないと、本当の意味でのソーシャルゲームに至らないと感じているという。

 過去を振り返るとさまざまなゲームハードがリリースされ、それぞれに男女比や年齢などのユーザー属性がついていた。水口氏は「スペースチャンネル5を作ったときも、男女均等に遊んでもらいたかったけど、女性のゲームハード所有率が低かった」と言うように、その属性にあわせてゲームを作ったこともあれば、それが足かせになったこともあったという。そして現在のスマートフォンについてはその属性が無い、統一したグローバルなプラットフォームになりつつあるという見解を示した。

 稲船氏は「これまでのゲームは努力が必要だった。つまりゲームハードを買う必要があり、買うためにバイトするなりお金を貯めるなりといった努力の上に、さらにソフトを買うという努力を重ねるモチベーションを保たなくてはいけなかった」と指摘。もちろんスマートフォンも決して安いものではないが、生活のなかに入ってくるものとして考えるので、必要なものとして努力無く手に入るものという。

 そして昨今のソーシャルゲーム、スマートフォン向けゲームは基本無料のものも多く努力無く手に入れるものになっているが、制作側は努力してゲームを作るというズレがあるという。「この違いを理解しクリアにしないと、スマートフォンで面白いゲームやヒットするものは生み出せないだろう思います。これは今までのゲームハードの関わりと全く異なりますね」(稲船氏)。水口氏も、ゲームの歴史はその時代に求められている欲求や本能に対して訴求できるように、再デザインを行ってきた繰り返しとした。その一方で「遊び方も変わってきているものの、ゲームや遊び、エンターテイメントが消えることはない」(水口氏)。

 稲船氏は、これまでのゲームは努力が必要だったのと同じように面倒くさいことを強いていたとし、そこをロジカルに考え、面倒なことをやらせたら開放するという組み方をしていたという。「ヒットを生み出せた人はそこをすごく考えられていたんです。でもソーシャルゲームはそれを求めていない。もっと単純にもっと早く結果を出したいという、面倒くささを排除したものを求める」(稲船氏)と見解を述べ、今までのロジカルな制作手法を用いると全く相手にされず、簡単でわかりやすいというのものが受け入れられる状態になっているという。

Mizuguchi Creative Office代表 / mobcast クリエイティブアドバイザー 水口哲也氏
Mizuguchi Creative Office代表 / mobcast クリエイティブアドバイザー 水口哲也氏

 ソーシャルゲームに代表されるビジネスモデルである基本無料の世界。水口氏はこの無料で楽しめる世界というのはテレビにたとえるように決して新しいものではないとし、この波も戻れないものと見ている。ビジネスとして、いかにユーザー対してお金を払ってもらえるようにするか。水口氏は、かつてセガ時代に数千円を入場料として取って、それさえ払えば遊び放題にするという実験が行われたが全く入らなかったというエピソードを披露。入り口のハードルが高いとこうなるものの、低くしてあとで払ってしまった場合「こんなに払ってしまったこんな自分がかわいいと思ってしまう自己満足感はあって、自分のことだから許せる感覚がある」(水口氏)

 稲船氏はソーシャルゲームのビジネスモデルについて、税金に似ているというたとえ方をした。今までは数時間で飽きてしまう人も長時間やりこむ人も平等に払っていたパッケージゲームの世界から、例えば100円しか払ってない人がいても、払える人が万単位で払っているから運営できているという、ある種の社会構造にも似ているという見解を示した。

求められるのはデバイスの使われ方に特化した面白さ

 「コンシューマで育って、コンシューマタイトルを作ることの楽しさを知っているので、力を入れないとは言わない」(稲船氏)としながらも、未来に向けてはソーシャルゲームに力を入れて成功に導きたいと稲船氏は考えているという。実際に、IDCとApp Annieのレポートによれば、2013年Q1の世界のゲーム売り上げの合計が、3DSやPS Vitaなど携帯型専用ゲーム機の売上よりも、iOS単体で上回ったというデータも公表されている。稲船氏も「時代の流れとしては当然」とし、どのようにしてスマートフォン向けのゲームに取り組んでいかなければいけないかを、クリエイターは考える必要のあるフェーズに入っているとした。

 そして稲船氏は飛行機の離着陸時は電子機器が使えず、その時間を有効に使うなら本を読むということを例に挙げ、その状況にあわせたクリエイティブがあると見方を示した。「スマートフォンの進化によって解像度が上がって、1時間かけて遊ぶような深い体験ができるゲームが登場するかもしれないけど、役割が違うんじゃないかなと」と指摘し、デバイスの使われ方に特化した面白さの作り方に、ハードの進化をうまく使って考えていくことが重要とした。水口氏もデバイスの進化の先にあるのは、遊び方や設計の仕方の変化であるとの見方を示した。

 また世界を見据えた展開について、稲船氏は以前から世界中でゲームを売る必要性を主張し続けてきたが、スマートフォンは世界中でほぼ統一したデバイスとなっているため、改めて声を上げて主張する必要はない状況だとし、日本の文化に近いアジア圏では日本っぽいゲームを作って受け入れられる可能性が高いと見ているため「世界に向けてというよりも、世界を取り込んでというぐらいの気持ちで取り組める時代がきた」と述べ、クリエイターとしては面白い状況だと述べた。またヒットタイトルはすぐに模倣されて世界中に広がってしまう危険性がコンシューマゲームに比べてより高まっているため、世界同時リリースするぐらいの気概を持つ必要があるとしている。

 今後について稲船氏は仕込んでいるものも多数あることを語り、コンシューマーゲームとスマートフォンのソーシャルゲームの両方ともに力を入れてやっていくことを貫き通したいとしている。一方の水口氏は、mobcast向けにネイティブゲームアプリ3本の開発に着手。第1弾タイトルは、RPGの要素を取り入れたソーシャルゲームで、8月上旬の配信を予定。第2弾タイトルはソーシャルパズルゲームで2013年末、第3弾タイトルは新たなカジュアルタイプのソーシャルゲームで2014年初頭にそれぞれ配信予定している。

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