“間接侵害”の解釈と立法化の是非について議論--第3回法制問題小委員会

 文化庁の文化審議会の法制問題小委員会の2012年度の第3回となる会合が8月29日、開催された。6月7日に初会合が開かれ、第2回会合で議題のテーマとして示された“間接侵害”の解釈と立法化の是非について、日本音楽著作権協会をはじめ各権利者団体の代表者が出席し、ヒアリングと意見交換が行われた。

 間接侵害とは、利用者自らが直接的に著作権侵害の違法行為を行うのではなく、第三者が介在し、間接的に著作権を侵害、権利者の利益を阻む行為。2002年度に同審議会の司法救済制度小委員会で検討を開始し、2005年度からは法制問題小委内に専門のワーキングチームを設置して検討が始められ、2006年度までの間に裁判例や外国法、民法、特許法からのアプローチによる基礎的研究が行われ、2009年度からは具体的な立法的措置の検討が進められた経緯がある。その後、2009年10月には同小委の中間まとめとして、間接侵害の立法化の方向性が打ち出され、意見募集では慎重論を含む賛否両論が寄せられたとワーキングチームでは報告している。

 近年、間接侵害が問題となっている背景には、インターネットが普及し、ネットサービス等を活用して著作権者の権利が間接的に侵害されるケースが続出していることが挙げられる。現行法では、直接的に権利を侵害する者に対しては、行為者に差し止め請求権を行使できることが著作権法第112条第1項に規定されているが間接的な行為者に関しては具体的な対象者やその範囲が明確にはされていない。

 これに対してワーキングチームでは、差し止め請求の対象は直接行為者に限定されるものでなく、一定の範囲の間接行為者も差し止め請求の対象とすべきとの見解をこれまでに示している。しかし、この考え方を採用した場合に問題となるのが、間接行為者が対象とされるためには直接侵害の成立が前提となる“従属説”と、前提としない“独立説”の2つの考え方だ。これに対するワーキングチームの考え方は基本的に従属説の姿勢を取ることで一致している。

 また、差し止め請求の対象として位置づけるべき間接行為者を3つの類型に分類する。(1)もっぱら侵害の用に供される物品(プログラムを含む)・場ないし侵害のために特に設計され、または適用された物品・場を提供する者、(2)侵害発生の実質的危険性を有する物品・場の侵害発生を知り、または知るべきでありながら、侵害発生防止のための合理的措置を採ることなく、当該侵害のために提供する者、(3)物品・場の侵害発生を積極的に誘引する態様で提供する者の3つだ。具体的な例を挙げると、(1)は特定のゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入、販売した業者に対して損害賠償を求めた「ときめきメモリアル事件」(2001年2月に最高裁で認容)、(2)は著作権侵害が生じているカラオケ店に通信カラオケをリースした事業者に対する差し止め請求を行った「ヒットワン事件」(2003年2月大阪地裁認容)、(3)は開設したウェブサイトで無許諾の音楽ファイル等を投稿することを積極的に呼び掛けるなど、侵害発生を積極的に誘引する態様で物品・場を提供する者などが挙げられる。

 今回の会合では、こうしたこれまでの見解を踏まえ、直接権利者団体の代表者が招かれ、間接侵害に対する各権利者の意見と各業界で抱える問題や課題などが報告された。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)常任理事総務本部長の北田暢也氏は「一定の範囲の間接行為者も差し止め請求の対象となる」というワーキングチームの考え方を支持。また、その対象となる類型を規定するのであれば、直接行為者の該当性の判断を適切に行うことが重要との見解を示しながらも「該当性の判断に関して裁判所が従来採用してきた判例は普遍性の高いものであり、これを維持する手当をすることなく、差し止め請求の対象となる間接行為者の類型のみを規定すると、従来直接侵害の領域で適切に解決されていた事案の処理を混乱させるおそれがある」などと指摘し、社会的、経済的側面をも考慮し総合的に判断すべきことを併せて規定するよう求めた。

 日本レコード協会(RIAJ)理事の畑陽一郎氏は、違法音楽ファイルのダウンロードを助長する「リーチサイト(リンクサイト)」と音楽系アプリによる著作権の間接侵害の被害状況を説明。「2011年度経産省の報告書によると、リーチサイトからリンクされたコンテンツの違法率は100%。リーチサイトからリンクされたファイルへのアクセス数はそうでない場合に比べて約62倍で、リーチサイトの約93%が広告掲載による収入を得ている」とレコード業界が抱える窮状を述べ、これらの対策に必要な差し止め請求規定を早急に設けることを強く要望した。

 出版界からは日本書籍出版協会(JBPA)の知的財産権委員会副委員長の酒井久雄氏と、日本雑誌協会(JMPA)著作権委員会委員の恩穂井和憲氏が出席。両団体の意見として、音楽業界同様にリーチサイトを差し止め請求の対象範囲に含める規定を急務と述べたほか、書籍を裁断してスキャナでデジタルデータに変換する“自炊”行為をサービスとして提供する業態の店舗に言及し、「この行為は、いわば“デジタル書籍のオンデマンド出版”。このような業態が合法とされた場合、権利者に対して一切の還元がないまま無許可でひとつの書籍から無限に複製物が生成され、不特定多数に対して提供されることになり、収益から権利者が新たな創作を行っていくという“想像のサイクル”が崩れかねない。これから本格化することが予想される電子書籍サービス市場が失われる」と強い危機感を募らせる現状を訴えた。

 一方、これに対して慎重派の姿勢を示したのはコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事の久保田裕氏だ。「立法化により対象となる行為が詳細になってしまい、結果として将来的に起こり得る間接侵害行為が対象から除外されてしまう可能性も含めて対象行為を狭める結果にならないかと懸念している」と提言。さらに、「対象となる行為をある程度包括的に規定して立法化がなされたとしても、立法化した要件の判断材料としても過去の判例が用いられることは明らかであり、条文の形骸化や条文要件と判例というダブルスタンダードとなってしまうことにもなりかねない」と、立法化ありきで議論が拙速に進められることへの異論を唱え、「今すぐ解決しないとどうしようもない問題だとは考えていない」との考えを述べた。

 また、日本知的財産協会(JIPA)著作権委員会委員長の大野郁英氏は、間接侵害に関する規定の導入に関して基本的には賛成の意を示したものの、「間接侵害と直接侵害の主体認定を切り分けて考えているように見受けられるが、実務においては間接・直接にかかわらず侵害の帰責主体となるかどうかが最大の関心事であり、二重の基準が併存することになれば侵害の成否をめぐり事業者が混乱することになりかねない」とし、ユーザー利用が適法な私的使用の範囲内であれば事業者が著作権侵害の責任を問われないといったことなども含め、産業の発展や、新規ビジネスへの萎縮効果とならないよう配慮をした検討を望む意を表明した。

 同小委では、9月4日に開催した次回会合でも間接侵害に関する関係団体のヒアリングを実施、その意見を取りまとめ、2013年の通常国会での法改正を目指す方針。このほか、著作物を改変・二次的に創作するパロディー行為に関する権利侵害の規定も議論が行われる予定だ。

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