東日本大震災から3月11日で時間的な区切りとなる1年が過ぎた。現地の人々の暮らしや産業基盤の復興は、混とんを乗り越えこれから本番を迎える。その中で、ウェブを使った復興支援を実施しているサイトがある。山崎太朗さん、山崎千佳さんの夫婦2人が2011年4月に開設したECサイト「復興市場」である。
復興市場は、被災地で必要とされる物資情報をインターネットや電話を通じて募集し、サイトに掲載。支援者であるサイト利用者は通常のECサイトと同様に物資を選択し、購入の手続きをする。物資は被災地の商店で購入され、被災者に送り届けられるという仕組みだ。
被災者に必要な物資が届き、地元の商店にも売り上げが計上されるという意味で、支援金となる購入代金は一石二鳥の効果を持つ。現在までの取扱実績は1万7000配送、売上高は5000万円。配送単価はおよそ3000円という計算になる。
復興市場のサイトには例えば「気仙沼で救命胴衣5着」「オムツパック12個」など、必要な物資が紹介されている。夫妻によると「既に生活必需品についてはそろってきている地域がある」という。「今後は、例えば漁に使う道具など、仕事を再開するための物資が求められてくる」そうだ。3月20日には、石巻市で漁業用合羽3着、3月23日のサイトには漁業コンテナが求められているとの情報が掲載されている。
変わったところでは、仮設住宅の集会所で使うハンディカラオケを購入したこともあった。「仮設住宅は必ずしも同じ集落出身者で構成されているわけではないため、住人同士の交流のために、カラオケなどは手軽なツールになる」(山崎氏)。
売り上げについて聞くと「3月11日はめざましく、100万円を超えた」と話す。だが「3月12日以降は急減している」。区切りの日を過ぎて、復興支援への意識が少し弱まっている。
同氏は、商品を扱っている地元の商店主に「1年が過ぎて支援の総量は減るかもしれない」と伝えているそうだ。もともと、地方の商店で物資を購入する需要は大きくないため、復興市場での売り上げは「ある意味で特需だった」(同)からだ。
一方で、復興支援の思いを胸に「今後も復興市場の運営を続ける」と山崎太朗氏は話す。現状、復興市場での収益はほとんどなく、運営に必用な費用以外は地元商店の取り分にしている。「無償ボランティアに近い」と笑顔を見せるが、名実ともに復興に貢献していることは間違いない。
山崎夫妻は2011年4月、津波被害が激しかった陸前高田の陸前高田市消防団高田分団の復興活動にボランティアとして参加していた。そこでAmazonの「ほしい物リスト」を活用し、支援物資を募集していた。
その経験を通じて「被災地のお店から支援物資を購入すれば産業の復興にもつながる」と考えるようになった。ウェブ制作会社に勤めていた千佳さんは、復興市場のECサイト制作に着手。陸前高田の商店を手始めに、大船渡など他の町の商店主を探して交渉した。これがECサイトによる復興支援活動の始まりだった。
だが、すぐに支援が増えたわけではなく、課題もあった。開設当初、購入代金の入金方法は銀行振込と郵便振替のみだったが、振り込み手数料が掛かるなど支援者への負担が大きかった。そこで、クレジットカードでの支払いに対応しようと、決済代行サービスの運営会社に利用を申請した。だが「個人サイトであることなどを理由に断られた」という。
頼みの綱になったのがPayPalだった。PayPalの日本法人に問い合わせたところ、トントン拍子で話が進み、1週間後には復興市場でのクレジットーカード決済機能を実装できた。PayPal関係者によると「公序良俗に反しないなどの規定に抵触しなければ比較的審査は通りやすい」とのこと。現在では、利用される支払い手段の60%がPayPal。郵便振り込みが20%、銀行振り込みが10%だ。
山崎氏は、サービス継続を表明したものの、収益面のめどが立たないため「今後の運営ビジョンはない」と話す。「大手のECサイトとまともに勝負するのも非現実的」だと打ち明ける。だが、購入店舗を被災地の店舗に限定するといった取り組みは、大規模ECサイトにとって必ずしもやりやすいものではない。個人だからこそできる復興支援サイトとして、今後も拡大を期待したいところだ。
なお、現在復興市場に参加している地域は、岩手県は久慈市、宮古市、山田町、大槌町、遠野市、釜石市、住田町、大船渡市、陸前高田市。宮城県は気仙沼市、登米市、南三陸町、石巻市、女川町、東松島市、多賀城市、七ヶ浜町、仙台市、亘理町、大河原町、角田市、山元町。福島県は相馬市、福島市、南相馬市、二本松市、会津若松市、郡山市、いわき市で、その他、震災被災者・原発事故被害者の避難先などにも広がっている。
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