猪瀬直樹×出井伸之--「復興は東京が支えるべき」

 アジアの“人材”“技術”“金融資本”を有機的・戦略的に掛け合わせ、イノベーション創出を促すプラットフォームとして、次世代の新産業創出を目指すことを目的に2006年から開催されている「Asia Innovation Forum(AIF)」。今年で5回目を数える同イベントが、“岐路に立つ日本―今こそ次世代のための選択を”をテーマに9月20日~21日に東京国際フォーラムで開かれた。9月20日にはイベントの主催者であり、クオンタムリープ代表取締役ファウンダー&CEOの出井伸之氏と、東京都副知事の猪瀬直樹氏による「東京の突破力で変える日本」と題した対談が行われた。

 3.11の東日本大震災発生以降、さまざまなメディアを通し、「東日本の復興は東京から支えるべき」という主張を発信し続けている出井氏。今回は、そのキーパーソンとなり得る猪瀬氏を、オープンな場に招いて東京都の取り組みを聞き、ビジネス界と行政のリーダーが直接意見交換をし、今後の可能性を模索するための熱い議論が交わされた。

東京都副知事の猪瀬直樹氏 東京都副知事の猪瀬直樹氏

 冒頭で「東京都は福島県から電気をもらっている。福島の原発が壊れてしまったら、東京が電力不足に陥るということな自明の事実だった」と明かす猪瀬氏。そのため、東京都は現在進めている、東京湾の天然ガス発電所の建設計画について説明した。

 「東京湾に5カ所、発電所建設の候補地を指定して、水道局など各局の所有地の状況を出し合って、適地を検討している。機能的には100万kWの発電は可能。ハイブリット型の発電所で、水を使うので湾岸地域。高い煙突が立つので羽田との絡みもあり、区民との兼ね合いなど超えるべきハードルは高い。これから環境アセスメントなどを進めていき、基本は公設民営を考えている」(猪瀬氏)。

クオンタムリープ代表取締役ファウンダー&CEOの出井伸之氏 クオンタムリープ代表取締役ファウンダー&CEOの出井伸之氏

 出井氏は「今まで日本は国を頼り過ぎた。国政を見て仕事をしてきたところがある。東京都が自分で発電所をつくって配電するとなると、今までになかった競争原理が生まれる」とし、JRやNTT、郵政など今まで行われてきた民営化が受益者側に配慮せずに行われてきた問題点を指摘し、「東京都がそこにメスを入れてくれるのは素晴らしい」と歓迎の姿勢を示した。

 これに対し、猪瀬氏も「国政で政権が1年ごとに変わるようでは何も変わらないだろう。東京がイニシアチブを発揮させることで、都が情報を開示していき、電力の原価を検証していくことで、競争原理を働かせていきたい」と意欲を語った。

 一方、2020年のオリンピック開催候補地として名乗りを上げている東京都。賛否両論あるなかで、出井氏は「オリンピックは都市間競争ではなくて、国家戦略としてやるもの。北京オリンピックも誰も北京でやるものだとは思っていなかった。中華人民共和国としての発表会みたいなものだった。東日本の復興のためのオリンピックだとしたらやるべきだ」と主張。猪瀬氏も「都知事もそのつもりでいるようだ」と東京都知事の意向を明かした。

 また、東日本復興のための特別行政区域(特区)を東京に設置するべきという考えでも両者の意見は一致。「シンガポールは人を集客する仕掛けをいくつも行っている。F1にしてもカジノにしても、人が集まり金を落とす仕掛けができている。東京湾岸ももっと使えるのではないか」と出井氏。猪瀬氏も「カジノの話も阪神震災の時、議員立法まで進んだが止まってしまった。日本にも大人の社交場があっていい。食事だけでなく、ソフトのひとつとして有効だと考える。特区というかたちで進められるのではないか」と述べ、さらに「東京の浄水システムは非常に優秀。今ある技術を海外に出して利益を得るというやり方もある」と提言した。

 一方、「公営企業は海外に展開しようとすると国の縛りがいろいろ出てくる。そこで国家戦略が必要なので、5つの省庁を回って話をしたところ、国家戦略室が取りまとめ役だというので訪ねてみた。残念ながらいまだ戦略がまったくない。地域分散の地域権限で進めていくべき。特区としてやるのもひとつの方法」と付け加えた。

福島県副知事の内堀雅雄氏 福島県副知事の内堀雅雄氏

 対談の中盤には、福島県副知事の内堀雅雄氏が登壇。「今回、国の行政でショックだったのは縦割り行政。今まで縦割りが機能してきたが、今回は所管外という問題が出た。例えばガレキ処理に関してどこの所管なのかで時間が費やされてしまった」と無力感をにじませながら、苛立ちを募らせる被災地行政の責任者としての苦しい胸の内を明かした。

 これに対し、猪瀬氏は「東京都には横串のものが多い。副知事の仕事はあるものを前提に考えられていない。新しいプロジェクトを作っていくことが本当の付加価値。しかし、行政はあるものを前提にモノを考える。昨日のことを今日やれば明日も続くというのが行政の基本で、ないものから作っていくという発想がない。ゆえに所管の問題が出てしまい、緊急事態に弱い」と、行政機関の問題点を指摘した。

 また、出井氏も「日本はこれまで大きな資金を集めたことがない。特別なものに対してお金を集めて、魅力的なものにはお金が集まる。今のように、国、県、所管と言って縦割りでやっていると魅力的なプロジェクトはできない」と、企業経営者としての視点から政府・行政機関の課題を語った。

 本対談の前のセッションで、サプライズゲストとして「『FUKUSHIMA』の未来」と題して、震災と原発事故に揺れる福島県の現状と復興ビジョンについて講演を行った内堀氏。「福島県は、人と土・水・大地の自然環境をきれいにするのが必須のミッション。県主導で放射線医学の拠点(づくり)や、土地の浄化なくして生活はないので、浄化技術を極めることでその技術を産業として将来世界に発信していく仕組みを作りたい。苦しさにぶつかっていくところから新しいものが出てくるのではないかと必死に取り組んでいきたい」と、県の再生に向けた強い意志を表明した。

 出井氏も「これだけの放射線が放出された例は近年ない。その環境データをきちんと収集し、対応策を取って生まれた研究・技術は非常に貴重」と述べ、原発事故の被害地域として現在苦境に立つ福島県から、将来世界的に価値のある事業が生まれる可能性への期待と声援を送った。

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