GoogleによるMotorola Mobility買収のトピックが飛び込んできたときには本当に驚いた。
もともとGoogleは携帯電話事業に参入の意思が強かった。スマートフォンOSとしてのAndroidの成功は説明するまでもないが、たとえば以前に米国での電波オークションに参加していたし(結局失敗に終わり通信事業者になる道は絶たれた)、Appleのように自らハードウェア(端末)を手がけたいと考えてもおかしくない話だ。
今後GoogleがMotorola Mobilityをどのようにしていくのかという点で、まだ正式な発表はない。一部ではMotorolaの所持する携帯電話に関連する特許の取得が大きな目的であるという話もあるが、それにしても日本円で約1兆円もの資金を投じており、Googleのさまざまな企業の買収劇の中でも超大型案件といえる。そうしたところから、今回の買収にGoogleの本気を感じざるを得ない。
表向きは、HTCやSony EricssonのCEOが歓迎の意向を表明しているが、決して心中穏やかではないだろう。本来Androidはオープンですべての端末メーカーに公平な端末OSだったはずだが、Google自らが端末メーカーとなってしまっては、他の端末メーカーは競合企業となってしまう。果たしてAndroidの中立性は保てるのだろうか。そして気になるのは、Motorolaのブランドの行方である。
Motorolaは世界初の民生用ハンディタイプの携帯電話端末「DynaTac」を発売した老舗通信機メーカーである。そして世界的ヒットとなった当時世界最小の携帯電話「MicroTac」(日本では1989年に現auであるセルラーグループが発売)は、日本の携帯電話端末の開発に大きな影響をおよぼした。MicroTacよりも、より小型軽量の端末開発を目指せということで、日本の技術者たちが奮い立ち、NTT(のちNTTドコモ)のムーバシリーズの誕生に結びついたのは有名な話。その後もアナログ方式世界最小最軽量の「StarTac」の開発など、世界の携帯電話端末をリードしてきた。
そのMotorolaが今後どうなってしまうのか、まずは最悪のシナリオを考えてみたい。筆者が一番懸念しているのは「Motorola」ブランドの消滅である。海外の端末メーカーは自社のブランドイメージを尊重し、発売される端末にはしっかりとメーカー独自のアイデンティティが継承されている。
Motorolaも同様に、以前から「男のガジェット」的な雰囲気を漂わせるインパクトを持っていて、一部熱烈的なファンも多かった(筆者もその一人)。果たして、Google買収後はこうしたMotorolaブランドが継承されるのであろうか。Motorolaというブランド自体もできるなら継承してもらいたいが、それが叶わないにしても、Motorola特有のアイデンティティが生かされていくことに期待したいものである。
さらに最悪なパターンも想定してみよう。各所で報道されているが、携帯電話業界では常に特許訴訟が繰り広げられている。とくにスマートフォンの開発においては、Appleを中心に様々なメーカー同士で激しく火花を散らして特許の主張を繰り返しているのだ。そうした中でAndroidを保護していくためには、Motorolaが保有する数々の特許が有利に働くと考えたのだろう。老舗メーカーとITベンチャー企業とでは、根本的に企業理念もビジネス思想も異なる。もし仮にGoogleがAndroid保護を目的として今回の買収を仕掛けていたとしたら……、もはや端末製造など眼中にないのかもしれない。Motorolaのアイデンティティどころか、メーカーとしての存続も危ぶまれるとしたら気が気でない。
一方で、逆にGoogleが端末メーカーとして君臨するようになれば、前述の通りAndroidを採用する他の端末メーカーが競合となってしまう。悩ましいところだろう。Androidは中立的に、各端末メーカーに公平にとされているものの、筆者はどうしてもNTTドコモがかつてやっていた「ムーバメーカー(共同開発メーカー)」、「byメーカー(仕様公開後に端末製造できたメーカー)」のメーカー格差を思い出してしまう。
ネガティブな話を長々と綴ってみたが、逆に今回の買収劇を好意的にとらえ、最良のシナリオというものも考えてみたい。
筆者に限らず、Motorolaファンは世界中に居る。こうしたファンのためにも、ぜひともMotorolaブランドを継承し、Motorolaのアイデンティティを生かした端末開発が、これからも続いていくことを期待したいものだ。そうすることで、他の端末メーカーに対してGoogleの中立性を保つことができよう。本来、Android関連の特許訴訟に対するディフェンスが今回の買収の目的というのなら、Motorolaの独立性を保ってもらいつつ、ぜひともAndroidを採用する他の端末メーカーのためにも、Motorolaの豊富な特許資産を活用し、すべてのAndroid端末メーカーに対して有利に働くような協力体制を築いてもらいたいと考える。
携帯電話関連の特許訴訟の構図を見ていると、従来はNokiaやMotorola、RIMといった端末メーカー同士が火花を散らしてきたが、ここにAppleが加わったことで、MicrosoftはNokiaと連携し、さらにGoogleがMotorolaを囲い込むことで、まさにスマートフォンOS同士の戦いへと図式が変わってきている。同時に、端末メーカーの存続を巡った合併も着々と進んでいる。日本の端末メーカーも、こうした世界の流れに対してうかうかしていられないのではないか。
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