大阪に本拠地を置くフェンリルはウェブブラウザ「Sleipnir」を開発、提供している。最近ではPC向けブラウザだけでなく、iPhoneやiPadなどのスマートデバイスに向けたソフトウェアにも手を広げている。フェンリルとはどんな会社で、今後どのようなプロダクトを展開していくのか、同社最高経営責任者(CEO)の牧野兼史氏に聞いた。
牧野氏はフェンリルの共同創業者の1人だ。前職のときに仕事として、個人でSleipnirを開発していた現フェンリル社長の柏木泰幸氏に出会い、もう1人のエンジニアを加えた3人でフェンリルを設立した。牧野氏が柏木氏と初めて会った当時、柏木氏は会社勤めをしながら空いた時間で1人、Sleipnirの開発を進めていた。しかもソースコードを盗難されるという不運もあり、現行バージョンのSleipnir 2をゼロから開発し始めたタイミングでもあった。
会社を設立したのは、Sleipnir 2の登場を待っているユーザーになるべく早くプロダクトを届けるためだったという(フェンリル設立時の柏木氏のインタビュー記事)。
CEOの牧野氏と社長の柏木氏、2人の役割分担は次のように分かれている。経営の意思決定や組織作り、人材教育、プロダクト作りを柏木氏が担当し、牧野氏は外に向けてフェンリルのビジョンを発信する役割を持つ。実は柏木氏はここ数年、メディアにほとんど登場していない。
フェンリルの事業は主力であるウェブブラウザのほかに、Windows向けファイルシステム「FenrirFS」、「Inkiness」や「Mosa」などのiPhoneアプリがある。これらは自社ブランドとしてユーザーに直接提供している。また他社と共同でもiPhoneアプリを開発している。こちらはウェザーニュースタッチやぐるなびなどの事例がある。
フェンリルの売り上げの中心はウェブブラウザから得られる広告収益だ。 牧野氏によれば、具体的なダウンロード数などは非公開だが、Sleipnirのユーザー数は順調に増えており、それに従って広告収入も増えているという。
ただし会社設立時はウェブブラウザがビジネスになるという確信はなかったそうだ。「とにかくSleipnirを待っているユーザーに対し、一刻も早く新しいバージョンを届けたいという気持ちが強かった。多くのユーザーに使ってもらえれば、どこかでビジネスチャンスが生まれると思っていた。ビジネスありきではなくて、ユーザーを大切にしたいというのが大きかった。ビジネスモデルは後からついてきただけ」。
ユーザーを第一に考える姿勢はいまも変わらない。昨今、Google ChromeやFirefoxがアップデートの周期を大幅に短縮する“ラピッドリリース”スタイルをとってきているが、フェンリルはあくまでもユーザーに愛されるプロダクト作りを行っていきたいとしている。
「競合の動きに参考にしながら、ユーザーの要望や意見に耳を傾け、最良のプロダクトとは何かを考え開発する体制を取っていきたい。我々は『ユーザーにハピネスを』という経営理念を掲げている。どんなプロジェクトに取り組むときにも、その姿勢がぶれることはない」
まもなく登場する予定のSleipnir 3は、4月にRC版を提供し、ユーザーからの提案や要望を受け付けた。素晴らしいプロダクトを作るために、それらの意見も参考にしつつプロダクトの改善を進めているところだ。特に力を入れているのは全体的なスピードアップだという。「現行バージョンよりもきっと満足してもらえると思う」と牧野氏は話す。リリース日はまだ決定していないが、「おそらく7月中には、現在のRC版の次のステップになるものが提供できるだろう」とのことだ。
もう1つ気になるのが、Mac版Sleipnirの可能性である。iPhoneとiPadで使えるSleipnir Mobileはユーザーの間で非常に高評価を得ている。Appleファンの中にも次第にMacで使えるSleipnirを求める声が出始めてきた。これを牧野氏に聞いてみると、「Mac版は出す」とあっさりと認めた。
牧野氏は明言しなかったが、Mac版SleipnirはiPhone/iPad用のSleipnir Mobileと深く連携し、フェンリルプロダクトのユーザーID「Fenrir Pass」を使ってブックマークやデータを同期できるようになると見られる。フェンリルはプロダクトデザインとユーザーインターフェース(UI)を重視する企業である。FenrirFSはiTunesのような操作感でファイルの分類を可能にしたことを考えると、いかにもMac用らしい洗練された製品が期待できそうだ。
さらに近々、Android版Sleipnir Mobileもリリースする予定だという。フェンリルにとっては今後、デバイス間の連携が大きなテーマになる。ブックマークを同期するだけでなく、スマートフォンのSleipnirで閲覧したページを、そのままWindowsやMacのSleipnirでも見られるといったことも実現するかもしれない。
「Mac版もAndroid版も7月中にはアルファ版レベルのものはお見せできると思う」とのこと。また牧野氏は、独自のクラウドサービスも可能性としては「あり得る」と語った。
最後に牧野氏にフェンリルの中長期的な目標を聞いた。
「Sleipnirをはじめとしたフェンリルブランドのプロダクトは、もともと1億人のファンの方々に使ってもらいたいと考えていた。それが自社プロダクトにおける目標。愛着を持って使ってくれて、周りに勧めてくれるようなファンを増やしていきたい。共同開発においては、日本一のスマホアプリ開発会社になることを目標としている。『フェンリルのデザイン力、技術力を借りたい』と言ってもらえるような会社を目指したい」
1億人のファンを作るのは、日本だけではなく、そこはもちろん他の国々への展開も考えているという。「すでに英語版はあるが、ユーザー数は日本に比べるとまだまだ少ない。これまでも用意はしていたものの、積極的にプッシュしていなかった。SleipnirやSleipnir Mobileを、世界中の人々にどうやって伝えれば愛されるプロダクトになるのか、考えて計画的に実行している」。
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