アップルの開発者向けカンファレンスWWDC 2011(Worldwide Developers Conference 2011)が米国サンフランシスコで6日(現地時間)から始まった。5日間のカンファレンスに全世界から5200人が集まり、120以上のセッションなどが開かれる。日本からも多くの開発者が参加している。筆者もiPhoneの登場から毎年参加しており、今年で4回目になる。iPhoneをはじめとするスマートフォンビジネスを行っている当事者として、WWDCで唯一公開が許されるキーノートを生で見て感じたことをお伝えする。
Steve Jobs氏が登場し、スタンディングオベーションで始まった2011年のキーノートが終わった時の感想を一言で言い表すと「複雑な心境」であった。
思えば、2010年は単純だった。iPhone 4の発表だけだったからだ。2011年はハードウェアの発表はなく、「Mac OS X Lion」「iOS 5」「iCloud」という新しいソフトウェアや新しいビジネスのスタートを宣言したキーノートであった。
アップルが提唱する新しいOSの各機能は他の記事に譲るとして、これがいったい何なのかをビジネス目線でひもといていきたい。
Mac OSはよりiOSに近づく操作性と表現を実装し、iOSは操作性やユーザーが望む機能をバランスよく取り込むことに成功した。これは追いつきつつある他陣営を引き離すとともにカスタマーロイヤリティを高めることになるだろう。
そしてiPhoneが切り開いた新しいモバイルビジネスの次の顔が除々に見えてきた。iCloudである。
「端末」は、ディスプレイ、タッチ入力装置、カメラなど入出力に関わる部分を、ユーザーの手のひらの中に持つことができる。しかし、そのデータはインターネットを介したアップルのサーバに収められる。クラウドだ。
昨今、クラウドというキーワードがIT業界でもてはやされてきている。アップルはクラウドの本質であるユーザーデータを自社内に囲い込み、そこにあるユーザーのデータをユーザー自身が利用するために、ハードウェアである端末を買い続けなければならないビジネス体系にする、と宣言したのだと感じた。なぜならばiCloudは無料だからだ。大量のデータを取り扱うためには大規模なデータセンターが必要だ。この費用をどこから捻出するのか。
App Storeのビジネスによってアプリケーションの流通市場も握ることで、サードパーティー製アプリケーションの増大による利益も増加し、対応するハードウェアが広がればユーザーはデータのひも付けから逃れられなくなる。
しかし、サードパーティー開発者にはビジネスの機会が増えると同時に脅威であることも露呈した。iOS用アプリケーションとしてサードパーティーが作り出してきた新しい領域を、アップルがOS標準機能として提供を始めたからだ。
クラウドを利用したデータの保存や他機種間の同期などはアプリケーションとして複数のベンダーから提供されユーザーも多くなっている。ここにアップルが参入した。これらをビジネスとするベンダーからすれば脅威である。クラウド用APIも用意され、サードパーティーのサービスを利用するよりもアップル純正のサービスを利用してアプリを開発する開発者も増えてくるだろう。一般デベロッパーにはチャンスが広がった。
確実に言えることがある。Mac、iPhone、iPadなどのユーザーにとっては、日々進歩し便利になり、使いやすく手放せないデバイスになるだろう。
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