FacebookやTwitterなどソーシャルメディアを活用する動きが急速に拡大し、企業の投資家向け広報(IR)に採用する場面も増えてきた。こうした企業の情報発信に対して、投資アドバイザーや運用担当者など市場のバイサイドでは、どんな対応をしているのだろうか。
この3月に発表されたアメリカン・センチュリー・インベストメント(ASI)による調査と、5月のドイツ・ユーロショップと独投資運用者協会(DVFA)による共同調査は、対照的な内容で、各国のIR関係者の間で、ちょっとした話題となった。
まず、303人の投資アドバイザーを対象とするASIの調査。ここでは投資アドバイザーのうち86%(1年前は73%)がビジネスや個人のソーシャルメディアのアカウントを作成していると回答した。8人に7人がアカウントを持っている。もうソーシャルメディアは当たり前のツールだといっていい。
回答の57%がソーシャルメディアの利用目的はビジネスにあるとし、もっとも多いのは業界動向や市場ニュースのモニターで、これに専門家の見解をチェックしたり、自分の顧客とニュースを共有することなどが続いた。
個人目的でソーシャルメディアを利用するとした回答でも、ニュースの共有や関心のあるトピックスのチェックという回答が多く、コメントのポスティングも少なくなかった。
そして回答の77%が、今後は、個人目的よりも、ビジネス目的でソーシャルメディアを利用する場面が多くなるだろうとした。その勤務先の53%にソーシャルメディアのポリシーやガイドラインがあるという。ソーシャルメディアがビジネスに定着するトレンドを物語る点で見逃せない。
他方、ドイツ・ユーロショップとDVFAの調査は、投資運用担当者、アナリストなどドイツを中心とする74人の回答で、この数年、ビジネスにおいてウェブサイトで重要だったのは、まずビジネスメディア(71%)、次がブルームバーグやロイターなど事前予約したリアルタイムの情報配信サービス(55%)だった。
これに対し、ブログやメッセージボードなどのソーシャルメディアの情報提供は15%、ソーシャルネットワーキングも16%にとどまった。
そして、プレスリリースやプレゼンテーションなどと比べてソーシャルメディア情報の重要性についてどう考えるかと問うと、重要性は低いという回答が86%に達した。
また、この1年、ソーシャルメディアを利用しなかった理由の第1に信頼性の欠落(52%)、次に情報の実用性に疑問(35%)が続いた。そのためだろうか、回答した資産運用の専門家の勤務先企業のうち20%近くがソーシャルメディアに対するアクセスを禁じているという。
総じて、「彼らには、ソーシャルメディアを活用したい気持ちはさほどない。ソーシャルメディアによる“雑音”を恐れている。いまのところ、こうした“雑音”をフィルターにかけられないのではないかと不安なのである」(独企業のIR関係者)というわけだ。
どのソーシャルネットワークで自社情報を発信したいかという質問に、62%は「そんなソーシャルネットワークはない」と答えている。
しかし、そんな中でも、今後の投資判断でブログやソーシャルネットワーキングといったニューメディアが果たす役割は増大するだろうかとの問いに、「絶対そうなる」は8%、「おそらく、そうなる」は45%で、合計53%である。
欧州の資産運用担当者やアナリストは、米国に比べてソーシャルメディアをさほど評価していないといいながら、今後は、重要性が増大すると直感では思っているようだ。
◇ライタプロフィール
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
埼玉学園大学経営学部教授。全米IR協会(NIRI)会員。埼玉大学大学院客員教授。主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)、「個人投資家と証券市場のあり方」(共著、中央経済社)。最近の寄稿に「~アニュアルリポートの現状を明かす~ 全米IR協会の実態調査、英国IR協会のガイドライン」(「広報会議」2011年4月号)
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