この2年間で広告マーケティング業界に起こった最も大きな変化が、ソーシャルメディアの進化による本格的な「ソーシャルウェブ時代」の到来だ。業界のみならず、僕たちの生きる社会全体の大きな進化だろう。
もうひとつの変化が、「戦略PR」と呼ばれる手法の急速な浸透。戦略PRとは、簡単に言えば「消費者が関心を持つような『空気』を世の中につくって、それをうまく商品の売りにつなげる」という考え方。
「ピロリ菌が胃に悪さをしている」という空気をつくって、「ピロリ菌を退治できるヨーグルト」の売りにつなげたり、「赤ちゃんの睡眠が社会問題だ」という空気をつくって、「赤ちゃんの睡眠環境を考えたおむつ」の売りにつなげたりする活動だ。
一方的に商品をアピールするのではなく、皆が関心を持つ話題をしかけて、そこから「買う理由」を創出する。情報があふれ、アテンションエコノミーに限界が叫ばれる今、広告やプロモーションと連動させることで大きな効果を生む手法として評価されている。
この2年間ほどで浸透したソーシャルウェブと戦略PR。この2つには、大きな関連性がある。
かつてCGM(消費者作成メディア)と呼ばれたブログやSNSは、その本質的な特性から、広告的アプローチよりもPRのアプローチ、具体的には影響力を持つブロガーなどインフルエンサーとの関係をつくる――が有効だと言われてきた。
これは基本的に今も変わらない。その後の進化、つまりツイッターなどリアルタイムウェブが登場し、ソーシャルメディアがオープン化され、ウェブとウェブが相互につながりつつあることは、ネットの世界がより「世の中」化したことを意味する。
さまざまな話題や他者との出会いが増え、より大きな話題になりやすいオープンな環境になったことで、戦略PRでいうところの「ばったり(=ある情報に出会う偶然性)」が増幅し、またマスコミなみの「おおやけ(=ある情報がもつ公共性や社会性)」なパワーも向上したというわけだ。
この点では、ソーシャルウェブ時代と戦略PRの相性は非常に良いといえる。
しかし一方で、こうした状況が進めば進むほど、ますます情報の「話題力」が大切になってくる。面白いことや共感できる話題には大きなチャンスがあるけれど、そうではない単なる「情報のカケラ」は、どれだけソーシャルウェブ上に振り撒く努力をしたところで、スルーされるどころか「最初から存在しない」ことになるだろう。
だから、今後はますます、情報の「トーカビリティ」が重要になる。トーカビリティ(Talkability)とは話題になる力。人の「口の端」に上るチカラだ。
そして、情報のトーカビリティをあげることこそ戦略PRの得意技だ。
ネットの進化が現在のソーシャルウェブというかたちに集約され、それがリアルな世の中と一体化していく世界では、戦略PRが得意とする発想やアプローチ--「空気」をつくって世の中化し、売りにつなげる--はますます重要になっていくだろう。
◇ライタプロフィール
本田哲也(ほんだてつや)
1970年生まれ。ブルーカレント・ジャパン代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマンヒラード上級副社長兼パートナー。セガを経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマンヒラード日本法人に入社。2006年にブルーカレントを設立、代表に就任。国内外の大手メーカーを中心に戦略PRの実績多数。著書に「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「戦略PR」(アスキーメディアワークス)など。2011年2月に「新版 戦略PR」(アスキーメディアワークス)を上梓。
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