「料理が楽しくなる世の中」の実現にテクノロジーは必須−。こう語るのは、国内最大の料理サイト「COOKPAD」を運営するクックパッドでエンジニア部門を率いる、CTOの橋本健太氏だ。自らをテクノロジー・カンパニーと称する同社は、快適で利便性に富んだサイトを提供するため、高度なスキルを持つITエンジニアを重視する。前編は、そのミッションが求めるエンジニア像に迫る。
「我々は主婦層が主なターゲット。クリックして少しでも反応が遅ければ、あれっ、パソコンがおかしい!とストレスを感じるようなユーザーもいます。」
CTOの橋本健太氏は説明する。クックパッドのユーザー数は現在、1千万人超。その利用者は97%が女性で、なかでも20代、30代の主婦層が中心だ。
「家電製品などに例えていうなら、あれ、電気がつかない!というような感覚。だからこそ、テクノロジーの力を最大限に生かし快適に使ってもらいたい。これが一番上にあるロジックです」(橋本氏)
現在、同社の社員数は約75名。うちエンジニアは約3分の1を占め、20名弱のエンジニアがPCの月間4億5千万のPVと、それを凌ぐモバイルのPVを支えている。サイトを快適に使い楽しく料理してもらうには、確かなテクノロジーが必須。それも“表に出る”テクノロジーではなく、“背後に隠れている”テクノロジーだ。
クックパッドは過去にはシステムのアウトソーシングを試みた事もあったが、それでは求められるスピード感に追いつくことができなかったという。同社の年間アクセス数は右肩上がりで拡大していた。しかも月ベースでは、季節イベントなどの要因でアクセスが変動する難しさもあったのだ。
これを考慮しつつスピーディな運営を維持するためには、技術は内製でないと厳しいとの結論に至った。
「内製とアウトソーシングでは、何かを解決したいというときの思いがまったく違いました。社内であれば1日で何回でも、やってみて不十分と思えば繰り返しトライできます。でも外注だと、どうしてもスピード感が違いました」
橋本氏を中心に、2008年7月にはサイトの再構築も行った。同社が採用するのはRubyで構築されているWebアプリケーション開発のフレームワーク「Ruby on Rails」。橋本氏は、内製の強みがなければ、素早いサービス開発を常に実現することは難しかっただろうと語る。
通常、年間で最もアクセス数が多いのは2月のバレンタインデーの直前だ。現在は、その期間でも快適な検索が可能になっている。
その同社エンジニアのプログラミングスキルについて聞くと、返ってきたのは意外にも「さまざま」との答えだった。大半は他社からの移籍組で、理系も文系もいる。学歴も多様であり、外国人もいる。「Rubyはそれほど難しい言語ではない」(橋本氏)ということもあるが、「基礎ができていれば同社で働きだすことは可能」との考え方も大きいようだ。
「前職でJavaをやっていた人もPHPをやっていた人もいます。逆にRubyをやっていた人はそれほどいないですね。プログラミング言語についてはこの言語でなければならないということはないと思っています。プログラマーとして共通して持っているべき計算機科学的な知識なり技術なりがあれば、経験した言語が何であっても、仕事はできるはずです」
この考えを裏打ちするのは、橋本氏自身の経験だ。プログラミングを始めたのは、慶応大学の学部1年のとき。学部3年で本格的に研究に使うようになった。
細胞のコンピュータシミュレーションを行うなかで、例えばDNA情報を文字列情報として解析するのにC言語を使用したという。DNAの解析の次の研究として、細胞シミュレーションをC++、Pythonでやる様になった。
技術は手段―、その経験がクックパッドのシステムやエンジニアに対する考えの根幹にある。では同社の、設計時の具体的な基準は何なのだろうか?
橋本氏の答えはこうだ。
「ひとついえることは、例えばオブジェクト指向に対する理解がどの程度あるかなど。実際に書いたコードを見せてもらえば、自分の技術を説明することが苦手な人に対しても、こういうものが作れる技術を持っているということは分かります」
ここまではエンジニアが持つテクノロジー・レベルの話。同社が求めるエンジニア像には、その上がある。
「テクノロジーはもちろん重要ですが、実はそれによって何をしたかが重要だと思うのです。つまり実際に価値が高いプロダクトを作っているかということ。確かなテクノロジーに基づき、大勢の人に公開して使ってもらうようなものを作れるのかどうかという能力や、その具体的な成果です。設計時の書類=ドキュメントよりも、プログラムを重視しましょうということです」
それを橋本氏は形式知と暗黙知という言葉で表現した。
「形式知は文章で表現できるものであり、それに対してソフトウェアには暗黙知が込められています。判断する上で暗黙知も重要視しています。ですから、その暗黙知で判断するようにしています」
こうした姿勢は、エンジニアの入社後も変わらない。ベンダー認定資格も含め、数多くある技術者認定資格を保有しているかどうかは意識したことがないという。
「実際に、当社の技術者の中でもこうした資格を持っている人もいるとは思うのですが、それよりも、それをどう活かしているかが重要だと思っています」
インタビューは後半に続く。同社エンジニアの本当の仕事は、「世の中にある問題を見つけだし、それを解決すること」だ。だが現状では「全然人が足りない、人数さえいればやりたいことはまだまだあるが、それができていない」のだという。
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