logo

黒船は出版業界を変えるのか〜電子書籍を巡る国内事情〜

戸口功一(株式会社メディア開発綜研)2010年09月29日 17時10分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 今、電子書籍がメディア業界で注目されています。9月28日にシャープが電子ブックストアサービスを12月より開始するとのリリースがありました。また、サービスを最適化し享受できる専用端末「GALAPAGOS(ガラパゴス)」も同時にリリースされ、本格的にアップル社のような垂直統合モデルの電子ブックサービスを開始するようです。

 2010年は電子書籍元年と呼ばれるほど、出版業界では電子化に向けた動きが活発化しています。電子化に向けては出版界の個々の業界団体が、マルチメディア特区での実証実験を行ったり、任意団体を一般社団法人化し電子化の団体へと改組したり、国家レベルでは総務省、経済産業省、文部科学省の3省が「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会(三省デジ懇)」を開催するなど、徐々に取り組みが始まっていました。

 しかし、何と言っても業界に大きなインパクトを与えたのが、5月に発売されたアップルの「iPad」でしょう。黒船来襲とばかりにメディアはこぞって取り上げ、アップルショップには長蛇の行列が出来、発売3日間で売りつくしたほどの人気になりました。この出来事を境に再び業界の動きが激しくなります。

 6月は、日本書籍出版協会が電子書籍のフォーマットの支持を決めたり、「電子書籍を考える出版社の会」が出版社14社で発足したり、紀伊国屋書店がハイブリッド電子書籍事業の参入を発表したり、とざわめき出しました。

 7月、8月には大きな動きが起こります。凸版印刷、ソニー、KDDI、朝日新聞社の4社が電子書籍配信準備会社を設立、グーグルが2011年初めまでに電子書籍販売「エディション」を開始と発表、大日本印刷、凸版、電通などが電子出版で電子出版制作・流通協議会を設立、大日本印刷とNTTドコモが電子書店開設で提携を発表、セブン&アイが電子書籍事業への参入を発表、など大手印刷事業者を軸に異業種連携が加速していきます。

 さらに、教育分野でも電子化の波は起こります。デジタル教科書教材協議会が設立されました。全ての小中学生がデジタル教科書を持つという環境を実現させるために、関連企業、有識者が中心となって発足しました。設立シンポジウムでは総務大臣も出席し、教育部門での電子書籍化の先駆けとして話題になったようです。

 出版産業は、市場の縮小傾向が続く中、黒船の来襲で自らも動き出さなければならない状況に置かれているのでしょう。しかし、そのイニシアティブを誰が取るのか、複雑な商習慣の中、様々な立場で電子化団体が乱立して、難しい局面を迎えているようです。

 電子書籍ビジネスといえば、日本では2009年の市場規模が600億円弱に達しており、そのうち従来の携帯電話での電子コミック市場が500億円と8割以上を占めています。この文化をどのように引き継ぐのでしょうか。現在議論されている電子書籍とは、方式もユーザー特性も異なる気がしてなりません。

 電子書籍を語る上で、携帯電話における電子コミック市場をどのように考えるかは重要な論点といえるでしょう。既に培われたノウハウやユーザーをどのように取り込み、更なる発展に繋げるかが電子書籍の生命線になってくるかもしれません。

 電子書籍化の波が黒船とともに教育分野にまで派生して活発化していますが、電子書籍といった単一のコンテンツビジネスに留まらず、来るべきLTE時代に向けたメディア横断的なグランドデザインを業界全体で描いて、新しいクラウドメディアビジネスの立ち上げ等、世界展開できる仕組みを期待したいと思います。

◇ライタプロフィール
 戸口功一(とぐち こういち)
 1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発・綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より現職。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、「ネット広告白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。

-PR-企画特集