家族のライフスタイルを研究する「家ナカ研究会」は、家庭のリビングに大画面テレビとゲーム機「Wii」を導入することで、家族生活に与える影響を実験し、その結果を発表した。
この実験は、5つのサンプル家族に42型の大画面テレビとWiiを提供し、導入前、導入中、導入後の3週間にわたって家族生活を観察したもの。家族のリビング滞在時間、会話量、テレビの視聴時間などの変化を追った。
実験結果によると、「誰かがリビングにいる割合」が導入前の59%から導入中は67%へと上がり、導入の効果が明らかに表れたという。テレビの視聴割合についても、同様に導入前54%から導入後61%へとアップしている。
Wiiでのゲームプレイに関しては、圧倒的に子供が利用している率が高かった。さらに「ゲーム中にリビングで過ごした比率」を調査すると、子供だけでなく父母がリビングで過ごす時間が多くなっており、実験後のアンケートでは5家族中3家族が「家族全員で一緒にゲームを見る時間が増えた」と回答しているとのことだ。
導入前と導入後では、家族間での会話の機会が増えたことも結果から明らかになった。導入前に1分間の発話回数が平均で10回だったものが導入中は14回へと増加。さらにテレビが付いている時の発話回数が導入前12回から導入中19回へと伸長しており、テレビが付いている方が会話量が多いという結果になった。
同研究の共同研究者で、結果を発表した慶応義塾大学文学部助教授の大森貴秀氏は「実験により、リビングの滞在時間が増え、家族間のコミュニケーションが増加したことがわかった。この現象は、大画面テレビとWiiが撤去された第3週まで持ちこされており、テレビやゲーム機が、家族の場と会話の創出に寄与していることがわかる」とまとめた。
この結果を踏まえ、明治大学文学部教授の齋藤孝氏は「今までもテレビやゲーム機はリビングに設置されていたが、地デジ対応による高画質化、大画面化が大きなきっかけになっている」とテレビの高機能化がリビングに与える影響を変えたと話した。
「家族は目的を持つ集団ではないため、場合によっては話す必要がなくなってしまう。そのため『テレビをみながら』『洗い物をしながら』といったように、何かをしながらの会話が中心になる。会話にはきっかけが必要で、テレビはその役割を果たす」とテレビが会話のきっかけになることを提唱。
さらに「そのテレビが大画面で高画質であれば、その大きさ、美しさに引き寄せられる。今のテレビにはテレビの向こうの世界に引き寄せられる力がある」とした。
また、6月時点に21%だった所有率が、10月には27.4%にまで上昇したという調査結果があるインターネットテレビに関しては、「パソコンや携帯電話などのインターネット機器は、個人所有のため、それぞれが部屋に引きこもってしまう。リビングにインターネットがあることで、その危険性を回避する希望が出てくる。大画面テレビとゲーム機をおいたことで、リビングに求められていた機能が回復される傾向にある。今後、こうした機器を置くことによって家庭内に総合的な会話の場が確保される可能性があるだろう」とまとめた。
「ネットとテレビの融合について〜家ナカの変遷〜」をテーマに話した、メディア開発綜研 代表取締役の菊地実氏は、家庭とメディアを取り巻く環境について1975年頃と現在を比較した。
テレビは一家に1台とされていた1975年当時に比べ、現在(2008〜2009年)のテレビの所有台数は平均2.14台になるとのこと。パソコンとネットワークの接続率も7割に達するなど、情報機器が家庭にあふれかえっている状況だという。
情報機器のあふれる現在において、菊地氏はテレビの位置付けを「ほかのメディアとは違う」とし、「インターネットとテレビは『VS』と言うが、実際はお互いが補完しあいながら存在している。ユーザーはテレビで拾った情報をネットで検索している」と分析した。
また、テレビ離れに関しては「長いスパンで見るとテレビの視聴時間は伸びている。ただ、テレビというのは『ながら視聴』するものであり、今後もテレビとインターネットの『ながら』は増えてくるだろう。テレビとインターネットの7割はだぶって使用されていると見ている。テレビはマルチモニタになりつつあり、テレビ番組を見たり、ネットを見たりするようなポジショニングに変わってきている」とした。
家ナカ研究会は、電通総研を中心に、デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏、菊地実氏、齋藤孝氏が発起人となり、7月に設立された研究会。これまでにも、全国1000人調査による、日本の家族のライフスタイルの実態調査や、「家ナカ娯楽」アイテムなどの調査結果を発表している。
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