マーケティング戦略の本といえば、さまざまな手法がこれでもかと紹介されてはいるものの、実際に会社の売り上げを伸ばすためには、どの手法をどのように利用すればいいのかという具体的なことはよく分からないままというイメージがあった。しかし、本書はマーケティング戦略の本のイメージを覆す楽しい一冊だ。
本書は、物語形式でマーケティング戦略の作り方と実行方法を体験できるようになっている。ヒロインの売多真子(うれたまこ)は、イタリアンレストラン「そーれ・しちりあーの」の社長だ。レストランを「売れる店」にはしたいが、自分が何をやりたいのかが分からず、具体的な戦略が何もない。そのため、行き当たりばったりの方法を試しては失敗し、従業員とも気まずくなってしまう。
そこから一念発起、親戚で売れっ子マーケティングコンサルタント売多勝(うれたまさる)に相談しながら、具体的な戦略を立て、実践と評価を繰り返していく。ヒロインが「あ、そうか」と思うと同時に、読者も「あ、そうか」と思える。ヒロインが考え、行動することそのものが、読者の行動にも結びつくようになっている。
そして随所に、マーケティング用語の反復や復習が出てくるよう工夫が盛り込まれている。また、フレームワークや戦略の数値化など、解説が必要な内容については、売多勝からのメールとして、物語とは別立てで随時解説ページが設けられている。
読み終わった後に、美味しいイタリア料理を食べに行きたくなるのは、本書がマーケティングの戦略書として役に立つだけでなく、物語として面白く読めることの証だろう。難しい理論書を読むよりも、まず本書で物語を楽しみ、さらに詳しい解説が欲しい場合は、「おわりに」に紹介されている参考図書を読めば良いだろう。
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